“ホリエモン”こと堀江貴文、ローランド

 近年、男性の美容意識が変わってきている。1990年代までには確実にあった「美容は女性だけがするもの」という風潮から打って変わり、美容整形を行う男性が増えているのだ。なぜだろう? 男性専用の総合美容医療「ゴリラクリニック」総院長の稲見文彦先生に伺った。

「実は、以前から外見を気にする男性はいたんですね。ただ、女性患者が圧倒的に多い美容クリニックへ男性が行くのはかなり勇気がいりましたし、医療従事者の側にも『下半身系の悩みなのかな?』『包茎手術を希望されているのかな?』と男性患者を色眼鏡で見てしまう状況がありました。つまり、男性が意識を持っていたとしても受け皿がなかったんです。そこに当院のようなメンズ専門のクリニックが2014年に生まれ、さらにジェンダーフリーの考えを持つ人たちが増えました。旧来の“男らしさ”のような固定観念にとらわれず、美容に前向きな人が増えたのだと思います」(稲見先生)

 ちなみに、ゴリラクリニックの提携院でもある美容外科「東京イセアクリニック」内での“ニーズが高い美容整形トップ3”は、男女ともに1位が「目元」で2位が「鼻」、3位が「輪郭(フェイスライン)」だそう。男女の違いを挙げるとすれば、女性は「きれいになりたい」という意識が強いが、男性は利便性も重視している点だ。

「実業家の堀江貴文さんは、収監されていた際にアンダーヘアの脱毛を考えたと伺いました。『いくら掃除しても床に落ちている陰毛がなくならない』という思いが、その理由だそうです。それって他人からの見た目うんぬんではなく、『掃除する手間を省きたい』という利便性を重視したからこそですよね。見た目で考えれば、『成人に陰毛がないって恥ずかしくない?』となりそうですが、そこを『だって、ないほうが蒸れないし、毛も落ちないじゃない』と考える男性は最近多いんです」(稲見先生)

海外赴任を機に脱毛するビジネスマン

 下着をつけたときの美しさを想定してアンダーヘア(VIO)脱毛をする女性との性差は、このへんにあるようだ。利便性といえば、ビジネスパーソンが仕事のために施術を受けるケースも増えている。

「海外赴任をする直前に、『海外には温水洗浄便座がないから肛門まわりを脱毛したい』と来院するビジネスマンの方もいらっしゃいます。普段はその部分が見られるわけでもないし、やはり利便性を重視されていますよね。

 あと、コロナ禍にオンラインでミーティングする機会が増え、そこでまじまじと自分の顔を見たことで『俺の顔はこんなにたるんでいたんだ』と認識した40~50代のミドル世代の方が“オンライン映え”を気にし、来院されるケースも増えています」(稲見先生)

 美容クリニックを利用するのは決して20代の若者とは限らないのだ。例えば、ある35歳の男性は朝にヒゲを剃っても夕方には青ヒゲが伸びてしまう体質に悩み、ヒゲの濃さを長年のコンプレックスにしていたという。そしてある日、娘さんが描いた“家族の似顔絵”を見ると、自分の口まわりに青ヒゲが描かれていたことに衝撃を受け、落胆。クリニックでのヒゲ脱毛を決意したそうだ。

「誤解のないように言っておくと、別にヒゲはあってもいいんです。ただ、伸びるのが早い方もいますし、濃い方はそもそも剃るのが大変なので肌もあれます。ならば、いっそのこと脱毛すればその負担はかなり減るし、ヒゲ剃りに使う時間も節約できます。清潔感や身だしなみといったことだけでなく、日々の利便性や時間短縮といった面からもいいことずくめということで、『脱毛』は男性の間でいまや一般化しつつあります」(稲見先生)

美容整形を受けて「心が楽になる」

 利便性でいえば、ワキガや多汗症による体臭を気にしてクリニックを訪れる人も多い。

「ワキガの方が施術を受けると確実にニオイが減り、生活は楽になります。あと、実際にはニオイがあまりしないのに、必要以上に気にして来院される方も多くいらっしゃいます。そういう方の場合、保険診療だと『あなたはワキガじゃないから手術をする必要はありません』と帰されてしまうことが多く、気持ちの部分までは向き合ってもらえないんですね。ただ、われわれのような自由診療だと、『そこまで強いニオイはしないし、ワキガじゃないかもしれないけど、そんなに気にされているなら治療をやってみますか?』と応えてあげられるんです。そうすると、ニオイはもともと強くなかったので治療効果はそこまでではないですが、患者さんはすごく満足されるんですね。ただ、自由診療で大事なのは何でもかんでも施術するのではなく、『治療をやりすぎるとこうなる可能性もありますよ』と、きちんと患者さんにお伝えすることです」(稲見先生)

 満足の理由は「美容クリニックの先生に太鼓判を押してもらったから、俺はもう大丈夫」と、心が楽になったからである。気持ちがアガると人は自己肯定感を保つことができる。脱毛やAGA、医療痩身の施術を受ければ、男性だって気持ちはアガる。体重が減って身体が軽くなると「じゃあ、運動しよう」という気になるし、やせて髪が増えればおしゃれはもっと楽しくなる。

「ただ単に髪が増えたり体重が減るだけじゃない、プラスアルファが非常に大きいんです。その取っ掛かりをつくってあげることは非常に重要で、自信も取り戻せます」(稲見先生)

 美容整形を希望する男性は成人だけでなく、10代の若年層にも増えている。「東京イセアクリニック」形成外科医の鈴木知佳先生に伺った。

「特に10代に人気の施術は大掛かりなものより、メスを使わず顔の一部を変えられるような『プチ整形』と呼ばれていた種類のものが多いです。代表的なのは、埋没法などの二重術、ヒアルロン酸注入による涙袋形成、小顔・輪郭の治療です。

 幼少期より悩み続けたコンプレックスから解放され、自分らしさを取り戻せるのであれば、美容整形はよいことだと思います。しかしながら未成年の場合、多感な時期で自分の意志が定まっていない方も多いです。カウンセリングでしっかりとお話をしたうえで適応があるかどうか、親御さんの意見も含めて判断することが大切だと思います」(鈴木先生)

親が子どもに美容整形を勧める

「男性の美容」に対する意識調査の結果、年代別でこうも違った

 実は、親が子どもに美容整形をすすめることも少なくないらしい。

『悩んでいたから二重整形を提案した』と二重の施術を、『夏になると息子のニオイが気になった』とワキガの手術を、『ニキビが治りにくく、保険診療の皮膚科に行っても治らない』と美容皮膚科の治療を……というように、悩みを抱えたお子さまと背中を押してくれた親御さんとが親子で来院されるケースも多いです。親御さん世代も昨今のSNSに触れることで美容施術のハードルは低くなっている印象です」(鈴木先生)

 幅広い世代にわたり、男性の美容意識は変わっているようだ。とはいえ、「クリニックに行くのは、どうも……」と腰が引ける人もいるだろう。そんな人たちのために、家で美容のためにできることは何かないか稲見先生に伺ってみた。

「まずはスキンケアです。特に30~40代の男性は1日1回水だけの洗顔ですます方が多いですが、それでは足りません。洗顔料を使って洗うこと。あと、男性は洗うときにゴシゴシしすぎです。1回洗っただけだと『まだベタベタしてる』と満足できず、もう1回洗って『やっとツルツルになった』と喜ぶ方が多いですが、それってツルツルではなくカサカサなんですね。

 あと、洗いっぱなしもよくない。多くの男性は化粧水やクリームを使う習慣がないですが、例えば自転車のチェーンって汚れを落としただけだと錆びてしまうので、そうならないために油を差しますよね? それと一緒なんです」(稲見先生)

「何もしない」が男らしさの時代は、もう終わった!

取材・文/寺西ジャジューカ