指の変形性関節症は放置すると進行する!

 ちょっとした日常動作にさえ支障があり、つらい痛みを伴うのに病院で「治療法はない」と言われてしまう……。実はそういった病気は少なくない。そのひとつが、更年期以降の女性に多い手指の「変形性関節症」。

医療に見放されてきた手指の関節の痛み

 特に第一関節の腫れや痛み、変形が起こる「ヘバーデン結節」の患者数は国内で300万人以上に上る。人さし指から小指にかけて発症するが、親指に起こることもある。

 指の痛みと変形で指の曲げ伸ばしが難しくなり、ペットボトルのキャップやドアノブが回せないという患者も少なくない。悪化すれば指を使っていないときでも痛みを感じるようになる。

 手指で同じような症状が見られる病気に「関節リウマチ」があるが、検査でリウマチではないとわかると、ヘバーデン結節である可能性が高くなる。原因はいまだ不明であり、治療法の研究が進んでいないのが現状だ。

「整形外科で痛みを訴えても、“年のせいだからしかたがない”とか“指を動かさないように”と言われて帰されてしまう。でも、仕事や家事で手仕事をせざるをえない女性には到底ムリな話でしょう」と話すのは、日本で初めて「ヘバーデン結節外来」を開設した医師の富永喜代先生。

 湿布や痛み止めも効果は限定的。指に湿布やテーピングをしていたら、生活するのに不便。結果的に、患者は治療をあきらめて日々痛みに耐えるしかない。

 手指の変形性関節症は、診療点数の大きいリウマチとは違って得られる診療報酬が少ないのも治療が積極的に行われない要因だという。

「私はオンライン診療を行っていますが、全国の患者さんからの依頼が絶えません」(富永先生、以下同)

改善者続出で話題の「マッサージ」とは?

 そこで注目されているのが、富永先生が考案した「10秒神経マッサージ」。ペインクリニックで行われる治療の進め方を軸にしている。

「決して痛みの解消をあきらめないでほしいのです。一時的に『痛みをとる』ことが根本治療にならないと思われがちですが、実は間違い。痛みをとれば、手指を楽に動かせるようになり、可動域も広がります。すると、筋肉や血管の緊張がほぐれ、血流や神経の機能が回復するという道筋が開けるのです」

 まずはとにかく痛みをとることが大事。下記では「10秒神経マッサージ」の臨床効果と、正しいやり方をご紹介する。

神経マッサージで2か月後に痛み半減

神経マッサージで痛みが半減!

 富永先生が豊富な臨床経験から編み出した「10秒神経マッサージ」のやり方は、手指や手首にある“神経ポイント”を、それぞれ10秒ずつ爪で強く押して刺激する。

 次ページに紹介する手順1〜4を、朝と夜の1日2回行う。指導を受けた患者の多くは、2か月後には痛みのスコアが半減するという。

 患者のひとりSさん(55歳・女性)の仕事は、給食センターでの調理だ。何よりもつらかったのがミニトマトのへた取りだった。ところが、マッサージを始めて2か月後から徐々に痛みが改善し、痛みなく仕事を続けている。

 また、Mさん(60歳・女性)は、手をぎゅっと握ることができず、ドアノブを回せないほどに。家中のドアも常に半開きにしていた。それが神経マッサージを始めた半年後には趣味の編み物も再開。富永先生に「お礼に」と作品をプレゼントしてくれたという。

 染色や織物の職人として活躍されているTさん(70歳・女性)の場合は、娘さんにクリニックのオンライン診療とつなげてもらって診断。神経マッサージを始めてもらった。

「この方は特に冬になると痛みと腫れが悪化していました。でも受診から1年後には、パソコンの画面越しに、『今年の冬はこんなに指を動かせます』と、涙を流しながら私に見せてくれました」

 気をつけたいのは手指の変形性関節症は徐々に進行していく疾患だということだ。

「神経マッサージは重度の痛みにも有効ですが、曲がってしまった指はもとには戻せません。でも、なるべく早い段階から対処して痛みをとり、指を動かせるようにすることが進行予防にもつながる。そのために、クリニックでは症状に応じて神経ブロック注射を行うこともあります」

指先・手首・肩・首を冷やさない工夫も

 では、この神経マッサージと併せて、日常生活で気をつけたいこととは?

「指先だけでなく、手首から肩、首筋までを冷やさないこと。このラインは神経でつながっていますから、普段から温める工夫をするとよいでしょう」

 富永先生がおすすめするのは、首筋を保温するネックウォーマー。手首の保温には、アームウォーマー(指先だけ出せる手袋)がよい。

「指先には神経が集中しているので、指先を手袋で覆うと負担に感じることがあります。でも指なしなら長時間装着してもラク。就寝中にはめておくと、翌日の痛みが軽くなるという方もいます」

 アームウォーマーだと仕事に差し障るなら、スポーツ用のリストバンドでもよい。

痛みのない暮らしをセルフケアで取り戻す

 一般に手を酷使する人はヘバーデン結節になりやすいとされる。また、閉経後の女性ホルモンの減少や遺伝が影響する可能性も考えられている。

「確かにその傾向はあります。スマホを片手で持って親指でスクロールするとか、現代ならではの指の負担も心配です。でも一方で、閉経前でもなる人はなるし、手を酷使する人みんなが発症するわけではない。大切なのは、原因がなんであれ、仕事でも趣味でも自分らしい生活をあきらめることなく、今ある痛みを改善することです」

 さらに富永先生は、「人が想像する以上に、指の変形は女性にとって大きなコンプレックスになる」と強調する。

 手指は常に自分の視界に入ってくる。節くれだった指を見るたびに気分が落ち込んだり、人に見られないように神経を使ってしまう。そんなつらさを、医師にもまわりにも理解してもらえず、人知れず悩みを深くしている人は多いという。

「日常的な痛みや気分の落ち込みは、生活の質、そして人生の質にも影響します。にもかかわらず、メンタルの問題については、現在の医療ではまだまだ軽視されがちです。どうか悩みを我慢せず、有効なセルフケア法があることを、もっと多くの方に知っていただきたいと思います」

指の変形性関節症は放置すると進行する!

変形性関節症による指の「痛み」「しびれ」

初期:指の第一関節に腫れや違和感が

 ヘバーデン結節の初期には第一関節が赤く腫れたり、じんじんと違和感を感じる。

中期:指先の痛みや変形が気になり始める

 指の第一関節に力を入れると痛んだり、手をぎゅっと強く握れないなどの症状に加え、腫れや変形が進む。

後期:指がひどく変形し少しの刺激で痛みが

 関節が節くれだったり、曲がるように変形。わずかな刺激で痛みが走り、寝ていても痛むようになることも。

第二関節の変形性関節症にも10秒神経マッサージを

 同じ症状は指の第二関節に発症することもある。これは「ブシャール結節」と呼ばれるが、場所が異なるだけで症状はヘバーデン結節と変わらない。そのため同じ要領で第二関節を刺激すれば、改善効果が期待できる。

<取材・文/志賀桂子>