商品やサービスの使い方から苦情まで、消費者のあらゆる質問に答える「お客様相談センター」。かつての問い合わせ方法は電話と手紙のみだったが、メールフォーム、Twitter、LINEなどのSNS、24時間対応のチャットボット、Yahoo!知恵袋でも可能に。チャネルが増え続けるなか、それでも「電話が最強」で、クレームが多いのかと思いきや「苦情は1割ほど」という。なかには心温まるエピソードが寄せられることも。消費者と企業をつなげるお客様相談センターの裏舞台をのぞいた。
時代や通信手段の変化により、企業のお客様相談室の在り方も多様化している。一般的な電話やメール以外にも新しくさまざまな窓口を設け、より多く顧客の声を集めようと奮闘している企業は多い。
お客様相談センターの舞台裏
「年間のメールでの問い合わせが約1万5000件に対し、電話での問い合わせは約3万2000件。弊社では電話でのお客様対応が圧倒的に多いという状況ですね。また、おはがきでのお問い合わせも600件ほどあり、お客様から年賀状をお送りいただくこともあります」
そう教えてくれたのは、キリンホールディングス株式会社・お客様相談室の渡辺珠江さん。業務効率化のため、近年では電話窓口を完全に閉じ、ウェブサイトやメールでの問い合わせ窓口しか設けない企業も増えているが、同社では電話による相談窓口は今後もやめる予定はないという。
「お客様にとってより便利な窓口が何かを考えることは企業として当然です。この先その種類が増えることはあっても、削ることはないと思います。特に電話は、お客様の声を聞きながら即時に対応することができるという点で、いまでも最強のツールかもしれません」(キリン・渡辺さん)
同様に、さまざまなチャネル(顧客窓口の手段)を活用し、カスタマーサポート体制を整えている企業のひとつが株式会社ファンケルだ。お客様視点推進事務局長・大泉智さんは次のように語る。
「注文対応なども含めると、弊社には毎月15万件ほどの問い合わせがあります。全体で200名ほどのチームがお客様対応をしておりますが、やはり電話やメールが中心です。
お問い合わせ内容は“ヤッホーシステム”という社内データベースに蓄積し、関連部署が商品開発や改善に生かせるように共有しています。
製販一体型の企業なので、お客様の直接の声を大切にして商品に生かしていこうという思いは強く、実際に商品が改善された例も多くあります」
企業の問い合わせ窓口と聞けば、クレーム対応が多いイメージだが……。
「弊社の場合、お客様の不満の声は全体の1割ほど。お客様相談室に異動する前は、私もクレームのほうが多いのかと思っていましたが、予想に反してそういった対応は少ないです。
もちろん電話を受けた者がちょっと落ち込んでしまうようなお叱りの電話もありますが、対応が終わった後にまわりで様子を見ていた仲間が“お疲れさま!”と声をかけてくれたときなどは、一体感がありうれしく思いますね」(キリン・渡辺さん)
多種多様な質問に、寄り添って対応
カスタマーサポートに寄せられる問い合わせ内容は驚くほど多岐にわたる。商品やブランドに関する質問はもちろん、商品の感想、CMに登場する俳優のファッション小物についての質問、さらには小中学生から自由研究の相談が届くこともあるという。
「弊社には日常のスキンケアのご相談や、サプリメントの飲み合わせについての問い合わせなども多いです。適切なご案内ができるよう、化粧品にまつわる美容相談と、健康食品にまつわるサプリメント相談の窓口はそれぞれ一般窓口とは別に設けています」(ファンケル・大泉さん)
日々多くの問い合わせを受けるなか、ときには返答に工夫を凝らした質問も。
「ペットボトルのラベルの剥がし方についてご相談をいただいたことがあります。ボトルの形状によって剥がしやすい方向があり、ラベルのミシン目に沿って下から剥がす矢印がある商品だったのですが、“私はどうしても上から剥がしたい派なので、矢印とは逆から剥がしてもいいか”という内容でした。もちろんお客様の自由なのですが、無理に剥がすと爪を痛めたりするおそれもあります。
やりとりの末、ペットボトルを逆さに持てば剥がしやすい方向で剥がせて、お客様の上から剥がしたいというこだわりにも沿うのでは……という解決策が生まれました(笑)。まるでとんちのようですが、お客様と一緒に悩み、考えて解決できた印象深い質問ですね」(キリン・渡辺さん)
従来のようにユーザーからの問い合わせを待つだけでなく、SNSなどで自社製品に対する声を拾い、企業側から積極的に回答や窓口を案内する“アクティブサポート”も一般的になりつつある。
「企業に対して直接意見を送るという行動を起こす消費者は10人に1人ともいわれていますが、そういった積極的なお客様のご意見しか知ることができないのはアンバランスでもあります。
直接弊社に寄せられる声以外にも、ツイッターなどのSNSやウェブの口コミサイトなどをこまめにチェックし、お困りの方に適切な回答をお届けすることは大切だと思っています」(ファンケル・大泉さん)
キリンもSNSを用いたアクティブサポートのやり方を模索している最中だ。
「SNSはお客様のプライベート空間でもあります。お客様が大切にしている場所にこちらからノックなしで入っていくようなやりとりは、もちろん逆効果になることもありますし、内容も気軽になりすぎないよう、ダブルチェック体制で取り組んでいます。
また、弊社はお酒のアカウントも持っていますが、“一番搾りが飲みたい、どこで売ってるかな”というツイートを見つけても、その方々が未成年だったり授乳中の方ではないか、そういった確認をしたうえで、対応できるか判断しています」(キリン・渡辺さん)
より便利な窓口へと進化
SNS以外にも、ネット上で即時にメッセージのやりとりをできるチャット窓口や、人工知能を活用して自動でチャット対応を行う“チャットボット”を取り入れる企業も年々増加している。
「若い世代の方は電話よりもメッセージのやりとりのほうが楽だという方も増えています。弊社もチャットボットはすでに取り入れており、ちょうど電話とメールの中間のようなイメージでご利用いただけます。時間帯別のアクセスを分析すると、お昼休みなどの隙間時間や、通勤通学中かなという時間帯に活用いただくことが多いようです。
とはいえ、チャットボットでは対応が難しい内容も多く、有人のチャット問い合わせ対応も導入したいなと進めているところです」(キリン・渡辺さん)
ファンケルでは『Yahoo!知恵袋』という質問サイトに企業アカウントを作成し、ユーザーの質問に対して公式の回答を提供している。
「質問サイトでは、誰かの間違った情報がベストアンサーとして残ってしまうと、それを閲覧する人がどんどん増えてしまいます。特に、弊社の取り扱う化粧品や健康食品分野では、推奨されない使い方などの情報が流れてしまうとお客様が実害を被る可能性もありえます。
公式として回答できる質問に対して積極的に正しい回答を届けることも必要と考え、1年ほど前からYahoo!知恵袋のフォローを始めました」(ファンケル・大泉さん)
とはいえ、実際には他社商品との比較についての質問なども多く、企業として回答がしにくいものもある。
「実際には月に5~6件の回答ができるかなという状況ではあります。回答が蓄積され、累積の閲覧数は2万件ほどになってきており、担当者もやりがいを感じているようです」(ファンケル・大泉さん)
カスタマーサポートは、まさに企業と消費者をつなぐ直接の窓口だ。紋切り型のマニュアルでは対応できないからこそ、やりがいも大きい。
「会話を通して目の前のお客様に適切な情報を提供するということは、お客様相談室にしかできないと思っています。また、“おたくの商品を飲んで、亡き父との思い出を思い出したよ”なんて温かい感想を直接受けることができるのも、お客様相談室ならでは。
連絡しようかしまいか、迷う気持ちになる方もいらっしゃるかもしれませんが、小さなことでも本当にお気軽にご連絡くださいと伝えたいです」(キリン・渡辺さん)
(取材・文/吉信武)