自宅で「逆トレ」にチャレンジ!立ち上がるのではなく、ゆっくり座る“イス座り”(イラスト/内山弘隆)

 私たちは、重いものを持ち上げるときや階段を上るときなど、より「つらい!」と感じる動作の際に、筋肉が鍛えられると思いがちです。

「逆」がもたらす驚きの筋トレ効果

 最先端の科学とユニークな実験で日常の疑問を調査するNHKの人気番組『ガッテン!』では、ある実験に注目。

 2017年、台湾で「階段の上りと下りでは、どちらのほうが筋力アップするか」を調べる実験が行われました。

階段を“下りていた人”のほうが太ももの筋力がアップ!

 肥満ぎみの女性30人を、6階建てビルの階段の「上りだけ」行うグループと「下りだけ」行うグループの2つに分け、週2回から始めて、回数を増やしながら12週間実施。実験後に筋力を計測すると、なんと「下りだけ」グループのほうが、太もも前側の筋力が倍以上もアップしていました。

階段を“下りていた人”のほうが太ももの筋力がアップ!(出典◎Chenetal,MedSciSportsExerc,2017)

血圧・中性脂肪・グルコースも減少!

 上の実験では、血圧(収縮期)、グルコース(血中)、中性脂肪(血中)も計測。すると、すべて「階段を下りる→エレベーターで上がる」グループのほうが、減少率が高かったのです。

血圧・中性脂肪・グルコースも減少!(出典◎Chenetal,MedSciSportsExerc,2017)

“脳の勘違い”で“楽”でも高い効果

 筋トレ効果はもちろん、さまざまな健康効果が期待される“逆”の動き。

 実は、ただ逆の動きをすればいいのではなく、ある工夫をしながら行うことが重要なポイントです。その工夫とは、“ゆっくりと動かす”こと。

 ではなぜ、持ち上げる動作よりも“ゆっくり下ろす(逆の)動作”のほうが、筋力がアップするのか。その理由は、筋肉にかかる負荷と使っている筋力との関係にあります。

 通常のトレーニングの場合、筋肉には“縮もうとする力(負荷)”がかかっています。この力により筋肉は鍛えられますが、“逆”の動作の場合、筋肉は“縮もうとしながら伸ばされる状態”に。すると、単に縮もうとする力よりも強い負荷がかかるため、より筋力がアップするのです。

 番組ではこのトレーニングを「逆トレ」と命名しました。

 トレーニングの世界では、通常のトレーニングを「コンセントリックトレーニング」、逆トレを「エキセントリックトレーニング」と呼びます。

 逆トレは、「運動が苦手」という人にこそおすすめです。“逆”の動きを行うとき、脳は筋肉に「(ダンベルを)下ろす動作は楽だから、使うのは少ない筋肉で十分」という指示を出します。すると、通常のトレーニングと比べて酸素消費量や、心拍数の増加が抑えられ、精神的にも楽だと感じるのです。

 また前述のように、脳は少ない筋肉にしか指示を出さないため、使われる筋肉は少ないですが、ひとつひとつに非常に大きな負荷がかかります。すると筋肉を大きくするための物質がより活性化され効率的に鍛えられるのです。

【通常のトレーニング】(コンセントリックトレーニング)

筋力 > 負荷

【通常のトレーニング】(コンセントリックトレーニング)

 ダンベルを持ち上げるとき、脳が筋肉に「持ち上げるのは大変だから、たくさん筋肉を使って!」という指示を出すと、その指示にしたがってたくさんの筋肉が働き、ダンベルを持ち上げる。

【逆トレ】(エキセントリックトレーニング)

筋力 < 負荷

【逆トレ】(エキセントリックトレーニング)

 ダンベルを下ろすとき、脳が筋肉に「下ろす動作は楽だから、少ない筋肉で十分!」という指示を出す。脳は逆の動き(下ろす動作)を楽だと思い込んでいるため、筋肉の一部にしか指示を出さない。すると、筋肉ひとつひとつにかかる負荷が非常に大きくなるため、筋肉を大きくする物質がより活性化され、効率的に筋力をアップできる。

自宅で「逆トレ」にチャレンジ!

立ち上がるのではなく、ゆっくり座る“イス座り”

自宅で「逆トレ」にチャレンジ!立ち上がるのではなく、ゆっくり座る“イス座り”(イラスト/内山弘隆)

 〜鍛えられる筋肉「太もも(前側)」「お尻」〜

(1)イスの前に立ち、手は肩の少し下あたりに添えてクロスさせる。

(2)5秒かけて、ゆっくりイスに腰を下ろす。

回数の目安:1日20回 ※無理せず、最初は1日1回などから始めて、少しずつ 回数を増やしてください。

※初めての人は、クッションなどを使って座面を上げ、負荷を減らして実践してみてください。

【ポイント】
・顔はできるだけ正面を向いた状態で行うこと。
・お尻が座面にしっかりつくまで、力を抜かないこと。

上がるのではなく、ゆっくり下がる“階段下り”

自宅で「逆トレ」にチャレンジ!上がるのではなく、ゆっくり下がる“階段下り”(イラスト/内山弘隆)

 〜鍛えられる筋肉「太もも(前側)」〜

 1段につき1秒程度を目安に、階段を下りる。太もも前の筋肉に力が入るように意識しながら行う。

【ポイント】
・不安な人は手すりなどを使って、自分のペースで行うこと。転倒にご注意ください。
・前に出した足を地面についたあと、身体を少し沈めるように意識すること。太ももの筋肉がより伸びるため効果的。

▲注意点▲
■筋肉痛になるおそれがあります。最初は1回(階段の場合は1段ぶん)からなど、少ない回数から始めて、徐々に増やしてください。
■ひじやひざなど、身体に痛みがある人は無理せず、かかりつけ医に相談のうえ、行ってください。
■転倒防止のため、不安な人はイスのひじ掛け、杖、階段の手すり、介助器具などを使ってください。
■リハビリ、治療などの代わりになるものではありません。

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