「世界中の同様の番組で40人以上が自死しています。その重さを考えると、こういった番組が必要だとは思えない。出演者を守ることなく、ただ、消費していくだけになっています。しっかりと軌道修正をしていかないといけない。一般の視聴者も、出演者が守られていないことを知るべきです」
恋愛リアリティー番組『テラスハウス』の出演者で、自死した木村花さんの母・響子さんが警鐘を鳴らす。
4月1日から大阪府では、ネット上の中傷防止の条例が施行された。
政府も、刑法での侮辱罪に懲役刑を導入。法定刑の上限を引き上げた。国会議員に陳情に向かうなどして法案に尽力したのが響子さんを含め、花さんを愛する人たちだった。
未編集動画は「提出義務はない」
'20年5月23日未明、テラスハウスの出演者で女子プロレスラーの木村花さんが自室で亡くなった。当時、出演していた恋愛リアリティー番組内での行動で花さんのSNSは炎上、誹謗中傷が毎日のように送られてくるようになっていた。《お前が早くいなくなればみんな幸せなのにな。まじで早くきえてくれよ》。
花さんの母親で元プロレスラーの木村響子さんは'22年中にフジテレビと番組制作会社を相手に提訴を開始することを昨年の12月に発表。未編集の動画などの証拠保全を東京地裁に申し立て、認められた。
しかし、制作会社は未編集動画などの「提出義務はない」として、花さんに生前、何があったのかはひた隠しにされたままだ。
問題となった『テラスハウスTOKYO2019-2020』は、男女6人の恋愛を含めた人間模様がベースとなっていて、Netflixで先行配信されたのち、フジテレビで放送されていた。
ネット炎上のきっかけは番組内の出来事だ。コメディアン志望の男性が、花さんのコスチュームを間違って洗濯し、収縮させて着られなくなってしまった「コスチューム洗濯事件」だ。それにより男性との関係は悪化したうえ、花さんへのアンチコメントが増えていく。
'19年9月 花さんテラスハウス入居(20週) '20年3月《史上最強の修羅場回と称して炎上するきっかけの回(38週)放送》 ─花さんがインスタグラムで血だらけの包帯の画像をアップ 4月─フジテレビで炎上回放送 5月13日─『テラスハウス』公式ユーチューブアカウントが配信した未公開動画で再び炎上 5月23日3時ごろ《愛してる、楽しく長生きしてね。ごめんね。さようなら》というメッセージをインスタグラムに投稿
「インスタに花が(リストカットの)投稿したとき、心配でしたので連絡しました。大変な思いをしているのはわかりましたが、花は“大丈夫”としか言いませんでした」(響子さん、以下同)
花さんのSNSが炎上し、悩んでいたことは母親の響子さんはもちろん、視聴者でさえも気づくほどだった。にもかかわらず、番組側はさらに炎上する放送を配信した。炎上を煽っていたと思われても仕方がない。
テラハを“卒業させてもらえなかった”
'19年の年末、花さんは番組を卒業しようとしたが、制作サイドに受け入れられなかったという。'19年の末といえば意中の男性メンバーと幸せなクリスマスを過ごし、花さんの恋の行方を微笑ましく見ていた視聴者が多かった。それでも、
「炎上前からトラブルがありました。外を歩いていて追いかけられたり、知らない人に揶揄されることもありました。スケジュール的にもプロレスとの両立は難しかったようです。しかし、花はキャラが立っているから、“別のキャラが強い人が入ってくるまで待って”とスタッフから言われていて、なかなか卒業させてもらえませんでした」(響子さん)
花さんが希望した'19年末で卒業できていたら、男性メンバーとのトラブルもなく、ここまで誹謗中傷されることもなかっただろう。花さんが亡くなったことにより、放送されずフジテレビが公開を隠すその先はどのような内容だったのだろうか。花さんは亡くなる直前、まだテラスハウスを卒業させてもらえず、コロナを理由に撮影は一時中断され、ひとり暮らしの自宅に帰っていたという。響子さんが知っている一部を教えてくれた。
「花から突然、『ご飯を食べよう』と電話がかかってきて、私は『いいよ』と言い、電話を切ったんです。その後、また電話があり、『さっきの電話、撮影されていたんだけど大丈夫? ご飯もその撮影の人も一緒に来るんだけど』と言うんです」(響子さん)
撮影交渉はすべて花さんを通じてだった。それでも、飲食費などは出演者の財布から出す。
「ほかの出演者は知りませんが、花のギャランティは月に10万円でした。見合う金額とは思えません」
続けて、
「何を撮影するのかなど、スタッフと私のやりとりはありません。当時、私は猫バスのキッチンカーをしていたんですが、猫バスで迎えにいくプランだったようです。撮影は3月末の予定でしたが、緊急事態宣言が出されて、延期になりました」
その撮影のプロセスに響子さんは違和感を抱くものの、
「うるさいことを言って娘を困らせたくないので、何も言いませんでした。番組に協力してくれるよう、花本人に言われると断れません」
花さんの死について、響子さんは出演者たちや制作スタッフに対しては、どのような思いでいるのだろうか。
「出演者もスタッフもある意味、被害者だと思います。人間なので何も感じなかったわけではないと思います。生活がありますし、花がそうだったように、番組のことを口外しないという誓約書に縛られているので協力もしにくい状況だと思います。ただ、匿名でもいいので、真実にたどり着くために力を貸してほしい。また、スタジオメンバーのタレントへの誹謗中傷もあります。それに対しても何もしていないのは疑問を感じます」
なぜ未放送部分を遺族に開示しないのか。フジテレビに見解を求めたが文書で「コメントを差し控えます」との回答のみ。花さんのような犠牲者を今後生まないためにも番組側は真摯に問題に向き合ってほしい。