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 トイレや水回り、鍵など日常で起こるトラブル、自分で解決ができない場合には業者に助けを求める。そんな切羽詰まった状況につけ込み、高額な料金を請求したり、ずさんな対応をする悪質な業者による“レスキュー商法”の被害が後を絶たない。特に近年、社会経験に乏しい若者たちが狙われているのだ。

 そこでレスキュー商法に詳しい住田浩史弁護士にその実態を聞いた。

「レスキュー商法とは“身の回りの日常生活の困りごとが生じたときに駆けつけます”という謳い文句で、高額な請求を行うこと。さまざまな事情から言われたままに支払い、被害を受ける消費者が増えています」

 こうした手口は昔からあるのだが、最近増えた理由として2つの要因が考えられる。

 1つはコロナ禍で自宅にいる時間が長くなり、トイレや水回りのトラブルが起こりやすくなったこと。

 もう1つはインターネット広告の存在だ。これまでは自宅のポストに電話番号などが書かれたマグネットタイプの広告を投函して顧客を集める手口が主流だった。それがネット広告の増加により被害が激増しているという。

「トラブルが起きたとき、ネットで業者を検索するケースがほとんどでしょう。実はそこで見つけた情報が悪徳業者の場合があります。上位の業者を選ばせることがまず狙いなんです」(住田弁護士、以下同)

 インターネットの検索エンジンには広告料を払うことで検索上位にくるシステムがある。悪徳業者は多額の広告費用を使うことで、検索上位に表示され、客を誘導。多くの人が広告だということに気づかず、優良な業者だと勘違いし、問い合わせてしまう。

 そうした業者による高額請求はトイレや水回り関係で数十万円から100万円を超す被害があった。

「最近は数万円〜数十万円ほどの被害が多い。例えば100万円を騙し取られたら弁護士に相談して取り返そうと考えるでしょう。ですが、金額が低いと返金のための行動を諦めてしまう人がいます。それに相場もわからないので高額な料金を支払い、被害に遭っていることに気づいていないケースも目立つ」

料金は数千円~この表示がアブナイ

通常数千円で終わるトイレのつまり解消が数十万円~になる被害も報告されている(※写真はイメージです)

 さらにそうした業者のサイトには数千円〜とか500円〜と安価な案内がされている場合も多い。この“〜”がくせものだと住田弁護士は指摘する。

「その金額ですむだろうと思いますよね。親切にトラブルが起きたところを見てくれて、これは特殊な工事が必要になる、この薬剤が必要になるなどと次々に金額が加算されていくのです。例えば最初に1万円と言われ、作業していてうまくいかず、次に3万円と言われる。そこで終わったら1万円払って帰ってもらっても何も解決しない、なら仕方ないと応じてしまうんです」

 追加の作業費がプラスされていくのだ。人の心理を利用した実に巧妙な手口。

 こうしたやり口はトイレや水回りに限らず、鍵のトラブルでも多い。関西在住の恵梨香さん(20代・会社員)も被害者のひとりだ。

「帰宅したときに鍵が抜けなくなってしまい、管理会社に連絡しました」

 すると管理会社から紹介された鍵業者が来たという。作業が終わり、鍵を交換。業者から請求された金額は12万円を超えていた。

「鍵のトラブルは初めてで、日曜の夕方に来てもらって申し訳ない気持ちもあり、クレジットカードで全額払いました」(恵梨香さん、以下同)

 だが、通常は鍵をすべて交換しても3万円ほどで事足りる。恵梨香さんはその4倍近くを請求されたのだ。

「親に伝えると“おかしい”と言われ消費生活センターに相談しました。業者の人は物腰も柔らかくて、悪そうな人には見えなくて……」

 すると消費生活センターからレスキュー商法に詳しい弁護士を紹介された。

「クーリングオフできることを教えてもらいました。ですが、契約書にはできない、と書いてあり、私もそうかな、と思っていたのですが弁護士からは私のケースの場合、返金できますと言ってもらえたので心強かったです」

 最初は渋っていた業者だったが、最終的にクーリングオフに応じた。

「きっと泣き寝入りしている人や被害に気づいていない人はたくさんいると思います。特に同年代の人はなおさらです……トラブルがあったとき、まずは友人や家族に相談したり、来てもらうことが大切だとも学びました」

素人が業者を名乗り工事もデタラメ……

これまでは自宅ポストに届くマグネットによる勧誘が主流だったが…(※写真はイメージです)

 住田弁護士は前出の恵梨香さんのように「ネットを使い慣れている若い人ほど検索の結果を信じてしまうことも被害を拡大させている要因のひとつと考えられます」と指摘。

「悪徳業者の多くは実際に水道工事なんてやったこともない素人も多いんです。なので工事自体もでたらめ、問題が解決するはずもありません」

 そしてトラブルが発生してパニックになっていれば誰でも判断力は鈍る。

「被害者は普通の人ばかり。年齢、性別問わず、あらゆる人が騙される可能性がある」

 被害が相次いでいることから住田弁護士は京都府の弁護士とともに「レスキュー商法被害対策京都弁護団」を立ち上げ、相談にあたっている。同様の弁護団の動きは全国でもみられるという。

「相談の半数近くが解決しています。ほぼ全額返ってきたケースが多いです。ただそれは業者と連絡がついた場合の話。業者自体がいなくなり行方がわからなかったり、架空の業者だったりするので解決できていないケースもあります」

 現在、同弁護団では低額で工事が可能なようにホームページで表示しながらも、実際には高額な代金を請求した兵庫県の水回り業者に対して、同府の男女12人による集団訴訟も起こした。約660万円の支払いを求め、悪質な業者との闘いが行われている。

 住田弁護士らが危惧するのがこの4月からの成人年齢の引き下げだ。

「18歳、19歳も成人とされ、ひとりで契約ができてしまうため、狙われる可能性があると思っています。これまでは10代後半ではひとりで契約できず、仮に契約しても未成年者取り消し制度により取り消せました。今後は10代後半の学生や新社会人らひとり暮らしの人からの被害相談も増えるでしょう。契約と同時にクーリングオフできることも覚えておいてほしいです」

騙されないための対策は?

 では、対策をするためにはどうしたらいいのだろうか。

「こうした業者を呼んでしまってからでは被害を防ぐのは非常に難しい。呼ばないためにはどうしたらいいのか、を考えるのがいちばんなんです」

 子どもが親元を離れてひとり暮らしを始める際には地震などの災害も含め、水回りや鍵などの緊急時のトラブルの対応などどうしたらいいのか親子で話し合い、信頼できる業者をまとめたリストを用意するのが方法のひとつ。

「それに応急処置として水の元栓を閉めるとか、トイレならラバーカップを用意して置いておくなどの方法も覚えておくといいと思います」

 消費生活センターのホットライン『188』に電話して相談することも覚えておきたい。

 賃貸住宅の場合、不動産会社や管理会社に相談するのも手なのだが……。

「管理会社がネットで検索してよろしからぬ業者を選んでしまい、騙されるケースもあるんです。悪質業者が管理会社や地場の業者と提携しているケースも出てきています」

 若者に限らず、自分は大丈夫、だと思っても知らず知らずのうちに高額な支払いをしてしまうかもしれない……。