4月に入ってからもパンや乳製品などの食料品が値上がりし、家計を直撃。コロナ不況も続く中、老後の年金生活に不安を感じて働きたいと思っている人も多いのでは。
そんなときに「資格」を持っていると役に立つが、人気度や趣味の延長線上で取得する資格を選ぶと全然稼げないことも。例えば、女性に人気が高い医療事務、実は収入はあまり期待できないという。
人生の経験を活かした資格選びで収入を獲得!
「医療事務の月収は20万円ほどで10年前からほとんど上がっておらず、求人はパートやアルバイトが中心です。しかも病院では電子カルテの導入が進んでいるため、今後は仕事自体が先細りすると思います。アロマや花など、趣味系の資格も人気ですが、活用して多くの収入を得られている人はごく一部です」
こう話すのは、女性専門のキャリアカウンセラーとして活動し、資格にも詳しい高村祐規子さん。社会保険労務士の資格を取得して独立しようとする人もよくいるが、あまり収入につながっていない。
「社労士の取引先の多くは法人ですが、法人営業の経験がないので仕事を獲得できず、資格を活かせないのです」(高村さん、以下同)
資格で収入を増やすためには、単に人気の高いものを選ぶのではなく、今までの経験を振り返り、自分の経験を活かせる資格を選択することが重要だと話す。
「日本人女性の多くは、自分の能力を低く考えがちです。よく、私は事務の経験しかないなどと言いますが、話を聞くと多くのスキルをお持ちです。
例えば、大人数の部署で事務をしていた人は同時に複数の作業をこなすマルチタスク能力があり、それはアピールポイントです。
実務経験があれば、どんな部署でどういった仕事をしていたのか、細かく書き出してみてください。その経験を活かせる資格を選ぶことが、稼げる最短ルート。60歳を過ぎてからチャレンジしても、月収30万円以上を目指すことだってできます」
結婚や育児を機に若いときに仕事から離れた人や専業主婦は、自分はキャリアがまったくないと思うかもしれないが、主婦経験だって立派なスキルだ。毎日の食事作りや子育ての経験は、関連する資格を取得することで強みになり、仕事に活かせる。
さらに、60歳を過ぎた女性だからこそ持てる武器がある。結婚やご近所付き合い、親の介護や看取りなど、豊富な人生経験で培われた“人間力”だ。
「人と関わる仕事は、こまやかな気配りが求められます。そういった人間力を活かせる仕事は、仕事のAI化が進んでも残る領域です。60歳を過ぎて資格を活かして働くなら、若い人にはない人間力を発揮できる資格が収入につながると思います」
資格を活かして稼ぐためには、時代の流れに合った資格を選ぶことも重要だ。
「2025年から団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になります。高齢者向けサービスは今後ますます増えるので、そこに関わる資格は収入が期待できます」
ただ、人気の介護ヘルパーや介護福祉士などの資格はおすすめではないという。
「介護の実際の現場は寝たきりの人の着替えや入浴介助など体力勝負。60歳から目指してバリバリ稼ぐのは、特に女性は難しいと思います」
そこで狙い目なのは、高齢者の栄養面をサポートする資格と、高齢社会で成長している葬祭業界の資格だ。
「管理栄養士は、介護施設など高齢者を対象とする市場での仕事が増えています。葬祭関係の資格は、まさに人間力を活かせる仕事。豊富な人生経験と女性ならではの気配りが役立ちます」
また、資格はお金だけではなく、人との出会いや生きがいも得ることができる。
「資格を取得すると、新たな出会いもあります。新しいことを学ぶ前向きな気持ちを持って挑戦すれば、いくつになっても仕事はあります」
人生経験を活かした資格が狙い目
親の看取り→資格を取得→葬祭ディレクター
親を看取った経験から遺族の気持ちに寄り添い、葬儀に関わる業務をする
料理→資格を取得→管理栄養士
毎日の料理作りで磨いた腕を、栄養指導に関する専門家として献立作成に役立てる
子育て→資格を取得→ベビーシッター
子育て経験を活かし、子どもを預かって食事や入浴、送迎などのお世話全般をする
60歳からチャレンジした2人の女性
常に謙虚さを忘れず新しいことを学び続けて女性のためのサロンを開業
【松下いづみさんの場合】
大手不動産会社で働いていたころ、更年期うつになって50歳で退職。夫のすすめで近所のジムへ通い始めたら、少しずつ心身の不調が改善していきました。施術を受けていたストレッチトレーナーの先生が学校を開校すると知り、59歳で入学。
ストレッチや整体によって、フルマラソンを完走できるほど元気になれたので、インストラクターを目指すことにしたんです。笑いヨガやメディカルアロマも学び、接骨院や整体サロンで働いて経験を積みました。
さらに自分らしさで勝負しようと、笑いを呼吸法にして身体を動かす「笑とれっち」を考案し、2021年にサロンを開業。謙虚さを忘れず、新しいことを学び続けることが成功の秘訣だと思います。
67歳で公認心理師に合格。学ぶ楽しさが資格取得につながり収入アップ
【南 幸恵さんの場合】
専業主婦だった40歳のときに、突然夫が他界。子どもを育てるために就職し、人事部で働き始めました。必死で10年勤め、50歳で子育てが一段落。人の役に立つことを学びたいと思い、大学の通信講座などで心理学を学び始めました。
勉強は大変でしたが学ぶのが楽しくて、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントなど多くの資格を50代で取得しました。定年退職後は、社員のメンタルヘルスケアや研修を担当した実務経験と資格を活かし、カウンセラーとして独立。
67歳で取得した国家資格の公認心理師は、独立して働くうえで役立っています。おかげさまで仕事は順調で、収入は会社員時代の倍以上に。何歳から挑戦しても遅くはないと実感しています。
60代ならではのお金になる資格ランキング
高村さんおすすめのお金になる資格を紹介。60代ならではの人間力を活かせる資格のうち、収入はおこづかい程度でも取得しやすいものから、ハードルは高いけれどガッツリ稼げるものまで、難易度や需要の高さなどを総合的に判断して順位付けしている。自分に合った資格を賢く選んで、余裕のある老後を送りたい。
【1位】葬祭ディレクター 数万円の資格手当がオイシイ
厚生労働省認定の民間資格。葬儀に関する相談、会場設営、ご遺体の搬送、通夜と葬式の進行など葬儀に関わる業務全般を行う。葬祭業界で実務経験を積み、葬祭ディレクター技能検査に合格すると取得できる。
2級は個人葬に関する一般的な知識と技能が問われる。コロナ禍で規模は縮小傾向ではあるものの、葬儀のスタイルは多様化しており、注目される資格だ。
「超高齢化が進む中、葬儀業界は今後もマーケットが広がる業界です。葬儀への参列や親の看取りなどの経験がある人は、遺族や参列者の気持ちに寄り添った対応や丁寧な気遣いができ、強みになると思います」(高村さん)
難易度:★★
試験時期:年1回(9月)
受験資格:葬祭実務経験2年以上(2級)
【2位】公認心理師 高収入間違いなしの国家資格
日本初の心理職の国家資格として2017年に新設。心の問題を抱えている人にカウンセリングを行って心理状態を分析し、問題を解決できるようアドバイスや指導を行う。資格を取得するには大学・大学院を卒業する必要があるため難易度は高いが、心の問題を抱える人が増加しているいま、企業や学校など、活躍の場は広く期待できる。
「コロナ禍でメンタル不調を抱える人が増え、カウンセラーの仕事の需要は高まっていると感じています。公認心理師の資格を持っていることで仕事の依頼があったり、カウンセリング相手が安心して話してくれたりします」(南さん)
難易度:★★★★★
試験時期:年1回(7月)
受験資格:大学・大学院で指定科目を履修、または大学卒業後2年以上の実務経験がある人(特例措置を除く)
【3位】ツアーコンダクター 日給1万円以上は余裕
旅行会社が企画するツアーや団体旅行に同行し、旅程が予定どおり進むようスケジュールを管理する。交通機関への誘導、観光地の案内、ケガや盗難といった急なトラブルの対処と、幅広い業務を柔軟にこなせる人間力が求められる。
「コロナが落ち着くと、旅行者が一気に増えると予想されるので、先を見越して取得しておくのはアリだと思います。特にシニア向けツアーで、高齢者のペースに合わせて時間配分をしたり、トイレ休憩の回数を増やしたりと、参加者のニーズを考慮したこまやかな気配りができる人材は重宝されると思います」(高村さん)
難易度:★★
試験時期:資格取得に必要な登録研修機関により異なる
受験資格:誰でも可能
【4位】インストラクター 高齢者施設で需要拡大中
ヨガやストレッチなど、運動に関わる指導を行う。企業や団体が実施するインストラクター養成講座を修了することで資格を取得できる。スポーツジムへの就職、スタジオを開業するなど、努力次第でさまざまな稼ぎ方ができる。
「高齢者向けのヨガやストレッチを導入している高齢者施設も増えています。60歳以上の人は高齢者の身体の状態をよく理解して指導できるのでは」(高村さん)
「開業したサロンではコロナ禍の現在は対面レッスンだけでなく、Zoomなどを活用してオンラインでも行っています」(松下さん)
難易度:★★
試験時期:実施する企業や団体により異なる
受験資格:誰でも可能
【5位】管理栄養士
食事と栄養指導に関するスペシャリストで、厚生労働大臣から免許を受ける国家資格。健康な人に栄養指導を行う栄養士よりも資格取得のハードルが高いが、管理栄養士は高齢者や入院患者の療養食など幅広く栄養指導できるので、より高い収入が期待できる。
「管理栄養士の仕事は学校の給食管理が多かったのですが、ここ数年は高齢者向け宅配食や介護施設でのメニュー開発などで需要が高まっています。主婦経験や親の介護をした経験を現場で発揮できます」(高村さん)
難易度:★★★★
試験時期:年1回(2月)
受験資格:4年制の大学や専門学校を卒業、または栄養士免許取得後に1年以上の実務経験を積んだ人
【6位】ベビーシッター
個人宅や施設で乳幼児から小学生ぐらいまでの子どもを預かり、お世話をする。子どもと遊び、食事や入浴、しつけなど、子育て経験を活かして働くことができる。
「共働き世帯の増加、少子化によって子ども1人に手間とお金をかける家庭が増えていることもあり、需要が高まりつつあります。子育て経験のほか、語学やピアノができると時給が高くなるようです」(高村さん)
難易度:★★
試験時期:実施する企業や団体により異なる
受験資格:誰でも可能
【7位】アレルギー対応食アドバイザー
食物アレルギーに関する基本的な知識を持ち、アレルゲン食品を除去した献立作りや調理の専門家。3か月の講座を受講して試験に合格すれば取得できるので、比較的取りやすい資格。子育てや料理といった主婦経験も役立つ。
「近年は食物アレルギーに悩まされている子どもと親御さんが増加傾向にあります。この資格はアレルギー対応の子ども向け宅配弁当や料理教室での指導などでニーズがあり、困っているママたちをサポートできるようになります」(高村さん)
難易度:★
試験時期:講座を修了後いつでも受験可能
受験資格:日本能力開発推進協会が指定する認定教育機関などの講座を修了した人
【8位】ペットシッター
飼い主が留守の間に、ご飯やトイレ、散歩などの世話やしつけを行う。難易度が低く、講座を受講して試験に合格すれば取得できる。
「ペット関連市場は1兆円市場といわれています。ペットを飼っている高齢者は、急な入院や退院後の療養でペットの世話ができなくなることがあり、高齢者宅でのサービスが増えて需要が高まっています」(高村さん)
難易度:★
試験時期:講座修了後いつでも受験可能
受験資格:誰でも可能
【9位】ファイナンシャルプランナー(FP)
個人や家族の人生設計に基づいて、収支や資金計画に関するアドバイスをする。年金や保険、資産運用、相続といった暮らしとお金に関する知識を得られるので、自分自身の家計の見直しにも役立つ。
「3級からありますが、稼ぎたいなら2級から取得すべき。独立して成功するのはなかなか難しいですが、FPの勉強は自分の老後資産を増やすことにも役立つのでおすすめですよ」(高村さん)
難易度:★★★★(2級の場合)
試験時期:年3回
受験資格:日本FP協会認定のAFP認定研修の修了者、3級FP技能検定または厚生労働省認定金融渉外技能審査3級の合格者、FP業務の実務経験2年以上のいずれかに該当する人
【10位】MOS(マイクロソフト・オフィス・スペシャリスト)
マイクロソフト社の認定資格で、パソコン関係の人気資格。ワードでの文書作成、エクセルでの表計算、パワーポイントでの資料作成などの操作スキルの証明となる。
「在宅での仕事が可能。仕事のマッチングサイトに登録し、書類1枚いくらと自分で価格を設定して仕事を請けることができます」(高村さん)
難易度:★★★
試験時期:月1回
受験資格:誰でも可能
(取材・文/保田真代)