Twitterのフォロワー数は30万人超、YouTubeチャンネルでは100万再生超の動画を連発、パーソナリティーを務めるラジオ番組はこの春で4年目に突入する。そして、4月6日には著書『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社)が刊行されるというが、人気芸能人ではなく、テレビプロデューサーの話だ。
佐久間は、テレビ東京で『ゴッドタン』『あちこちオードリー』などの人気番組を次々に手がけると、現場での番組制作を続けたいという思いで昨年3月に退社。現在もテレビ東京の番組は継続しながら、日本テレビの『東京03とスタア』やフジテレビ『ポップハライチ』など、サラリーマンとしてはできなかった番組制作もするように。そして、3月8日からは、Netflix『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~』が全世界に配信され、視聴ランキングで連日上位に入っている。
バラエティ番組「ゴッドタン」の裏話
新たなフィールドでもその勢いは留まるところを知らない佐久間だが、著書で披露している、20年以上にわたる会社員時代に学んだ“仕事術”はかなり戦略的。おぎやはぎや劇団ひとりが出演し、`05年から続いている『ゴッドタン』の始まりは、“嘘”だったという。
「“お笑い番組”だと言ったら企画が通らないと思ったので、“ドッキリ番組”だと言っていたんです。番宣番組中に、芸人さんがトークをしながらターゲットから5万円借りることができるかとか、“芸人の喋りのうまさとドッキリを組み合わせた新しいバラエティーです”ということにして。企画を通してから、人と違う番組に仕上げていけばいいかなと思って」
その結果、美女たちからのキスの誘惑に耐えながら芸人たちがアドリブで芝居をする『キス我慢選手権』や、今や年末恒例の、芸人たちが本気でつくった歌を本気で披露する『芸人マジ歌選手権』などの名物企画が誕生していった。しかし、真正面から勝負しなかったのはなぜか。
「基本的に“おもしろいは伝わらない”と思っていて。だって、『M-1グランプリ』のチャンピオンや世間でどんなに人気のドラマだって、“つまらない”って言う人は絶対にいるじゃないですか。だから、企画書では“おもしろい”を全面に出すのではなく“こういう社会だからこういう価値観が必要で、これをテレビ東京がやるから当たると思う、だからこの内容です”と、できる限り論理的に説明するようにしていました」
“おもしろいが伝わらない”経験をした。
「テレビ局だって会社ですから“毎週見ていておもしろいから番組を続けていいよ”という良心的な人なんて、なかなかいないんですよ。シーズン3までやった『NEO決戦バラエティ キングちゃん』という番組は、自分ではかなり出来がよくておもしろい番組だと思っていたのですが、長くは続かなくて」
それでも、番組を終わらせにくくするため、視聴率やおもしろさ以外の指標を定める努力もしてきたという。
「『ゴッドタン』が放送している深夜の番組は、当時のテレビ東京では半年で終わるのが当たり前。なので、番組が始まって4か月で『キス我慢選手権』のDVDを出すことを決めて、とにかく売るために逆算して行動しました。それが売れたら、売り上げで会社に利益をもたらすことができるので、少なくとも1年は番組が続くだろうと。夕方の子ども番組『ピラメキーノ』も、社内の理解をなかなか得られなかったので、目に見える結果を出して会社にアピールするために、よみうりランドで無料のイベントをやりました。できるだけたくさんの子どもたちが動員できれば、番組が続くかなと」
番組づくりの面でも、意識していることがある。
「視聴者より先に、現場が飽き始めたものはやめる、企画を捨てるスピード感ですね。とにかく自分たちの中に新鮮さを常に取り入れることです。新しいことや苦手なことをやり、それで失敗したとしても、“完全に見えるものだけでつくらない”というのを繰り返していると、番組のフレッシュさが保たれて、だんだん視聴者の方に気がついていただけるというか。視聴者の方にも完全にわかりきっているものでやり続けると、それに現場が飽きる時がきてしまうんです。それでも、日本テレビ『ぐるナイ』の“ゴチになります”のような天才的にすばらしい企画だったら続くんですけどね(笑)」
芽が出る人の特徴
佐久間のつくる番組では、三四郎やEXIT、朝日奈央など、出演を機にブレイクしたタレントも多い。どのようにして、芽が出る人を見抜いているのか。著書には《俺、こんなもんじゃねえぞという顔をしている人》とあるが……。
「“まだこの位置にいるな、もっと上にいけるのに”という、自分に対するイライラがある人がブレイクすると思います」
これまででいちばん“イライラ”していたのはあの人。
「劇団ひとりですね。おもしろいことしかしたくないし、誰も見たことないような結果を出したいという気持ちがあって、それができない自分に対して、常にイライラしていたイメージがあります。“俺は絶対この場所で立ち止まらないぞ”という顔をしていました」
最近では?
「やっぱりCreepy Nutsじゃない。特に(DJ)松永。HIP HOPという文化や自分たちの音楽は、もっと広い支持を受けられるのに“まだここなんだ、悔しい”という気持ちがあったような感じがします。それになにより曲がいいし、出会ったころからおもしろいなと思っていました。あとは、『ダウ90000』の蓮見(翔)くんかな」
昨年の『M-1グランプリ』準々決勝で敗退した新進のユニットまでチェックしているとは驚きだが、多くのコンテンツをチェックすることには理由がある。
「あまり自分のことを信用していないので。センスは錆びますし、ずっと世の中に通用するものがつくれるとも思っていないので、受け手としての自分がズレないようにしたいと思っています。それが古くなってしまうと、つくるものが時代と合わない表現になったり、誰かを傷つけるものになってしまったりしてしまうので。普段の自分がハラスメントに鈍感なのに、つくるときだけ取り繕うのは無理だなと思って。そのために、好きなものやおもしろいものは見続けています」
考えが凝り固まらないように、こんなことも。
「おもしろい価値観を持っていると思う人のブログをフォルダにまとめて、その中の3人が褒めている作品は、自分のレーダーに引っかかっていなくても見ると決めているんですよ。それがすごく役に立っていますね。そういう偶然の出会いが、今までの人生に役立ってきましたし、これからもそんな気がします」
さらに、あのアーティストのレーダーも信頼している。
「星野源さんがたまにおもしろかったものを教えてくれるのですが、自分が知らないものでも星野さんのおすすめは必ずチェックして感想を送っています。最近は『チ。』というマンガを勧めてもらいました。星野さんが勧めてくださるものはだいたいハズレがないのですごいなと思いますね。逆に星野さんのレーダーに引っかからなさそうなものを僕からおすすめすることもあります」
常に自らのセンスを磨き続けている佐久間。これから目指すところは?
「“自分の人生が楽しくなること”ですかね。エンタメのいちファンとして“世の中におもしろいものが増えたらいいな”と思っていて。受け手の目線で“この人が売れたらいいな”“こんなに苦労してる人にはもっとおもしろくなってほしいな”と。そして、僕が番組をつくることで、自分の好きなものが天下をとったり、広く伝わったりするきっかけになればいいなと思っています」