コロナ禍の在宅ワークで座りっぱなしの生活を送っていたせいか、足に血管が浮き出るように……。これって下肢静脈瘤かも! 3万例を超える下肢静脈瘤の治療を手がけてきた血管外科医の阿保義久先生にお話を伺った。
どうにかしたい足のボコボコ
「下肢静脈瘤は、その名のとおり足(下肢)の静脈が瘤のようにふくらんでくる病気。血管がクモの巣状や網目状に浮き上がった状態も含まれます。軽度まで含めると30歳以上では62%、70歳以上では75%もの人に下肢静脈瘤が認められたという報告も。誰にでも起こりうる病気です」
基本的には自然に回復することはなく、放置すれば悪化の一途。女性であれば見た目を気にしてスカートがはけなくなる人も。加えて、足のだるさや疲れ、むくみ、足がつる、足がかゆくなるなど、さまざまな自覚症状も現れてくる。
「血管が浮き出るような外見的な症状がなくても、日常的に足がつったり、足の疲れやむくみがある人は軽度の下肢静脈瘤の可能性が。長年放置し深刻化してくると、皮膚にシミや潰瘍ができて我慢できないほど痛くなることもあります」(阿保先生、以下同)
下肢静脈瘤が起こるしくみは何なのだろう?
「簡単にいうと、静脈内にある逆流防止弁が壊れてしまうことです」
私たちの身体は、心臓から送り出される血液を全身に運ぶ“動脈”と、全身に送られた血液を心臓に戻す“静脈”がある。静脈に入った血液は、血管内に逆流防止弁があるので重力に逆らって心臓へと戻っていくことができる。けれども静脈がもろくなり血流が悪化すると、弁に負担がかかり壊れてしまう。すると逆流した血液が静脈内にたまり、下肢静脈瘤となる。
「年齢を重ねれば血管が弱くなるので、高齢になるほどなりやすい。立ち仕事の方や、座りっぱなしの人もなりやすいですね。近親者に下肢静脈瘤の人がいれば、遺伝的要素も影響するので要注意です」
さらに妊娠経験者、肥満の人もリスクが高い。
「妊娠経験者は、若いときには気づかなかったけれど、年をとって経年劣化も相まって弁が壊れてしまうことが多いんです」
軽度であれば、セルフケアで予防・改善することは十分に可能だ。
予防・改善には、足から心臓に向かって血液を戻す静脈の機能をサポートすることが重要だ。
「それには、下肢の筋肉を動かす筋肉ポンプ体操(その場歩き)と、横隔膜を動かす呼吸ポンプ体操(ひじ上げ呼吸)が効果的です」
筋肉ポンプ体操(その場歩き)は、下肢を動かすことで筋肉を収縮させ、足の奥を走っている静脈血を、周囲の筋肉で圧迫し、心臓へと押し上げるのを促す。
呼吸ポンプ体操(ひじ上げ呼吸)は、足から上がってきた静脈血を心臓まで戻すのをサポート。まずひじを上げつつ息を大きく吸う。すると胸郭が広がるとともに横隔膜が下がり、それにより背骨に走っている大動脈が圧迫され、足からお腹へと上がってきた静脈の血液を、さらに心臓へと押し上げるのを助ける。
「毎日続けると、静脈の老化防止に加え全身の血流もスムーズになります」
2つのポンプ体操をレクチャー!
朝晩1日2回、それぞれ3~5分やるのが理想。足のむくみや重だるさ、血流の滞りが改善。
【1】その場歩き(筋肉ポンプ体操)
立った状態で、ひざが足のつけ根と平行になるくらいまで高く上げ、足踏み。同時に両手を前後に大きく振る。2~3分行う。
【2】ひじ上げ呼吸(呼吸ポンプ体操)
(1)両足を肩幅に開いて立ち、息を吸いながら、両ひじを肩と水平の高さまで上げる。
(2)息を吸いきったら、両腕を前方に勢いよく突き出しつつ「フーッ」と力強く息を吐く。(1)~(2)を10回ほど繰り返す。
☆デスクワークの合間には、貧乏ゆすり!
座りっぱなしの姿勢が続くときは、1時間に1回くらいの頻度で、ひざゆすり(貧乏ゆすり)を。イスに座ったまま、小刻みにひざを上下に動かす。両足を同時にゆすっても、片方ずつでもOK。1回30秒ほど行う。
足のボコボコQ&A
Q.治療が必要な目安は?手術とはどんなもの?
A.血管が目立つ、むくみなどで日常生活に支障がある、という人は医療機関の受診を。逆流防止弁が壊れている場合は手術が必要となるが、手術時間は30分程度。一般的な術法はカテーテルを入れて逆流が起こっている部分をレーザーで閉じる。
閉じた血管は使われなくなり、時間とともに体内組織の中に吸収されていく。保険適用で、費用は約3万円~。
Q.着圧ストッキングははくべき?
A.圧迫圧によって足から心臓へ戻る血液循環をサポートする働きがあるので、むくみなどの症状改善には効果的。1日中立ちっぱなしや、座りっぱなしの人は、やや圧の強い30~40mmHg程度のものがおすすめ。
Q.たくさん運動したほうがいい?
A.過度な運動は逆効果。フルマラソンランナーなどは、筋肉収縮が過度に行われるので、血管に負荷がかかりすぎることも。適度な運動が理想的だが、ウォーキングをするなら大股で早歩きを。だらだら歩きは筋肉のポンプ作用よりも、重力の影響のほうが大きくなるので、血流改善にならない。
Q.食生活で気をつけることは?
A.そばに多いルチンや、柑橘類の皮や袋に含まれるヘスペリジンなど、静脈の血管を強くする食材がおすすめ。野菜に多く含まれるビタミンA、C、アントシアニンは血管を傷つける活性酸素を抑える抗酸化作用がある。
(取材・文/樫野早苗)