新生活が始まる春。テレビ局でも改編が行われ、4月からは多くの新番組が始まろうとしているが、今までにない現象が起こっている。
「これまではキー局の深夜帯で冠番組を持ち、ゴールデン帯への昇格を目指すというのが大きな目標でした。しかし、昨年の『M-1グランプリ』覇者である錦鯉は、4月から冠番組『錦鯉が行く!のりのり散歩』を長谷川雅紀さんの地元である北海道テレビでスタート。最近はローカル局で冠番組を持つケースが増えています」(テレビ誌編集者)
キー局の番組に比べて、格下扱いされることが多かったローカル番組。しかし、見逃し配信などの影響で風向きが変わってきたという。
「『TVer』などの配信メディアのおかげで、ローカル番組を全国どこにいても見ることができるようになりました。そのため、タレントや所属事務所も放送局にこだわらなくなってきています」(メディア研究家の衣輪晋一さん)
芸能プロ関係者も「ギャラがキー局と差がないケースもある」と語る。
「最近ブレイクした若手であれば、キー局のひな壇で出演するギャラと大差ありません。また、“全国区の人気者が来てくれた!”と歓迎してくれるので、ロケ弁などの待遇に関しては、ローカル局のほうが豪華な場合も(笑)」
キー局スタジオでは見せない一面も
売れっ子になる前から千鳥の冠番組『千鳥の出没!ひな壇団』を放送している中国放送の上田健大プロデューサーは、ローカル番組ならではの魅力をこう語る。
「恒例の釣り企画では、いつも以上にリラックスした表情やふたりの会話劇、幼少期の思い出話など、東京のスタジオでは見ることのない一面を垣間見ることができます」
千鳥の大ブレイクと『TVer』での配信がスタートしたことで、大きな反響が。
「番組の企画として始まったオリジナルのレトルトカレー作りは、昨年10月末に発売すると、広島県内の各スーパーや駅・空港でも販売される新土産として話題に。異例の累計9万個を売り上げるヒット商品となりました。地上波テレビから飛び出し、広島全体を巻き込む番組に成長することができました」(上田プロデューサー、以下同)
今春、千鳥が番組から卒業。4月からはアインシュタインがMCを務めることに。
「6年半、千鳥さんに育てていただいた番組をさらに大きく成長させていけるよう、4月からはアインシュタインさんとともに“まだ見たことのないローカル番組”を模索していければと考えています」
動画配信サービスにコンテンツとして配信できるようになったのも大きな変化だろう。昨年秋に放送された、福島県いわき市出身の元テレビ東京・佐久間宣行プロデューサーとアルコ&ピースの平子祐希による『サクマ&ピース』(福島中央テレビ)は『アマゾンプライム』や『Hulu』でも配信中だ。
「福島県内のローカル放送も盛り上がりましたが、その後『TVer』ではローカル局の番組としてはトップクラスの再生回数になったと聞いております。また、映画やアニメでしか聞いたことがなかった“聖地巡礼”と称し、いわき市内を観光する視聴者が増えていて、SNSにはロケ先と同じ画角で撮影した写真をアップしている人なども見受けられ、私たちも驚いています」(『サクマ&ピース』の堀田泰裕プロデューサー)
人気ジャニーズもローカル局に進出
ローカル局に出演するのは(メンバーいずれかの)出身地というケースが多いが、出身地とは関係のないテレビ熊本で冠番組を持つのが、ジャニーズ所属のA.B.C-Zだ。
「2020年10月に、メンバーの塚田僚一さんが同局の情報番組『若っ人ランド』にリモートでゲスト出演。豪雨災害に遭った人吉市の映像に心を動かされたのがきっかけで、翌月から同番組の準レギュラーに。そして、昨年から冠番組『あっぱれ!A.B.C-Z』がスタートしました」(前出・テレビ誌編集者)
『あっぱれ!A.B.C-Z』の高津孝幸プロデューサーも、見逃し配信の影響をこう喜ぶ。
「今まで県外からのメールはほぼありませんでしたが、見逃し配信をご覧になった全国の方から、感想メールを数多くいただいております」
ローカル局ならではのスタッフとの距離の近さが、番組の魅力につながっているようだ。
「キー局に比べるとはるかに少ないスタッフで番組を制作しておりますので、スタッフとの距離感は感じていただけるのではないかと思います。全国区の番組では見せないような素に近い彼らや、彼らの思いを実現していく過程を見ていただけるのもローカルならではの魅力だと思います」(高津プロデューサー)
ローカル番組の盛り上がりで、大物が逆輸入の形で参入するケースも。テレビ金沢では、3月に東野幸治がMCを務める特番『お悩み相談牧場 東野幸治のチクチクバンバン!』を放送。パンサー尾形やずんの飯尾和樹など、キー局と遜色のない豪華メンバーが顔をそろえた。
「当番組は個人全体視聴率が7・5%で、2021年度の同時間の個人全体平均視聴率に比べ、+1・6%高い結果となっています。世帯視聴率は12・1%で、同時間比+1・6%でした」(テレビ金沢の三日市貴司編成部長)
注目度が低い分、攻めた番組が作れる
ローカル情報番組のスタジオセットを転用するなど、地方局ならではの努力も。
「ゴールデンタイムで初めてのバラエティー番組制作で、全国区に負けない完成度を目標に取り組みました。外部の制作会社や構成作家などは入れず、自社スタッフを中心に制作体制を組んで、全国放送には出せない地元の味を追求しました」(テレビ金沢の蔵宏太朗制作部長)
前出の衣輪さんは、魅力的なローカル番組が増えた背景をこう分析する。
「キー局の番組は予算をかけているからこそ失敗ができないため、画一化されています。一方、ローカル番組はキー局ほど注目されていないぶん、攻めたものが作れるため勢いがあります。キー局の番組ではイジられキャラの狩野英孝さんも、地元・宮城の番組ではしっかりと進行役を務めるなど、タレントの意外な一面が見られるのも新鮮ですね」
そして「ライバルは他局だけではない」と続ける。
「動画配信サービスなどで、ローカル番組も収益化がしやすくなったので、今後は予算も増え、魅力的な番組は増えていくでしょう。今は視聴者が見たいものを意識的に見に行く時代。YouTubeなどに加えて、地方局も選択肢の1つとして定着したということでは」(衣輪さん)
キー局の番組がローカル局に再生回数で負ける……なんて日も近い?