食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、新聞、雑誌、テレビにも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ『食品の裏側』を2005年に上梓した安部司氏。70万部を突破する大ベストセラーとなり、中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、いまもなおロングセラーになっている。
その安部氏が、『食品の裏側』を発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、このたび『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』を上梓した。15年の間に書きためた膨大なレシピノートの中から、たった5つの「魔法の調味料」さえ作れば、簡単に時短に作れるレシピを厳選した1冊だ。
発売後、たちまち7刷6万部を突破し、各メディアで取り上げられるなど、大きな話題を呼んでいる安部氏が「平気で『おにぎり』を買う人が知らない残念な真実」について語る。
コンビニおにぎりVS家庭のおにぎり
みなさん、「おにぎり」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか?
私のような昭和の人間は、母親が握ってくれた塩むすびや梅干しのおにぎりが思い浮かびますが、今の若い人はおにぎりといえばコンビニやスーパーなどの市販のおにぎりを思い浮かべる人が多いのかもしれません。
「『カップ麺の牛乳戻し』子どもの食生活が危機的だ」で、「手作りのおにぎりを初めて食べた5歳の子ども」について書いたところ、大きな反響を呼びました。
その子は、保育園に入園して「温かい手作りのおにぎり」を生まれて初めて食べ、「おにぎりってこんなにおいしいんだね」と感動しているのを、保育士さんが「よかったね」と抱きしめて泣いていたというエピソードです。
いまは「おにぎり=買うもの」という意識の人も増えており、コンビニやスーパーをはじめとした市販のおにぎりは、それほど私たちの生活に入り込んでいますが、そこにはじつは「残念な3つの真実」が隠されているのです。
ある人が、市販のおにぎり(塩むすび)をお茶漬けにしようと、茶碗に入れてお湯をかけたところ、パーッと油が浮いてきたのにビックリ。
「なぜおにぎりに、油が使われているのですか?」と、その人は疑問を持って私に聞いてきました。
【残念な真実1】大量の油が使われている!?
これは「炊飯油」といって、炊くときに油を混ぜ込んで炊くからです。油を入れる理由は主に3つあって、まず1つめは「食感が良くなる」からです。
油を混ぜ込んで炊くと、米粒が油でコーティングされてチャーハンのようにパラパラの仕上がりになります。油のおかげで粒と粒の間に空気が入るから、一粒一粒がくっつかず、冷えても固まりません。
そうすると食べたときに口の中でほろっとほどけて、噛まずに食べられます。今時の若い人は、そういう食感が好きなのだと思います。スマホを見ながら、特に噛んで味わわなくても食べやすいことも一因にあると思います。
家庭で作ったおにぎりは、粒がつぶれて、冷えると「ねちょっ」とした感じに固まってしまいますよね。そうするとしっかり噛まないといけません。そういうものよりも「噛まずに飲み込める」食感のほうが好まれるのです。
それから2つめは「機械適性」、つまりおにぎりを製造するときの問題です。自動おにぎり機というのがあって、目にも止まらない勢いでおにぎりが作られるのですが、型から離れるときにご飯がくっついてしまうのを避けるため、油が必要なのです。
さらに3つめの理由として、市販のおにぎりはフィルムに包まれていますが、油があることでフィルムにくっつかないからです。
いずれにしても油なしでは、市販のおにぎりは成立しないのです。
具にも「油」が使われているものも
油といえば、もう1つ問題があり、それはおにぎりの具によっては脂質がかなり高いものもあることです。
そもそもご飯には「米油」という油があります。おにぎり1個(100グラム)には0.3グラム程度の脂質が入っています。まあほとんど問題にならない量です。
ところが、たとえば「ツナマヨのおにぎり」となると、脂質が7~10グラムにもなるものが多くなります。「エビマヨ」が5グラム、「明太子マヨネーズ」が10グラムというのもありました。「焼き肉」が具に使われたものは脂質が9~10グラム、「唐揚げ」や「チャーシュー」が使われたものは6~7グラムだったりします。
脂質が5~10グラムは当たり前で、「チャーハン」「ピラフ」「オムライス」をおにぎりにしたものなど、なかには20グラム以上のものもありました。
「日本人の体を壊す『隠れ油とりすぎ』の深刻問題」でも述べたことですが、「知らないうちに取ってしまう油」を私は危険視しています。
脂質の摂り過ぎを避けたいなら、「マヨネーズの入ったもの」「焼き肉や唐揚げ系が具材に使われているもの」さらには「チャーハン系」、この3つは「裏ラベル」の成分表示の「脂質」の欄をよく見て、買ったほうがいいと思います。
2つめの残念な真実は、たった1つのおにぎりなのに、じつは「かなり多くの添加物が使われている」ことも少なくない、ということです。
【残念な真実2】添加物が想像以上に使われている
たとえば下記は、「鶏五目ごはんのおにぎり」の原材料表示です。
米(国産)、鶏肉、醤油、人参、ごぼう、タケノコ、シイタケ、醤油たれ、海苔、砂糖/pH調整剤、調味料(アミノ酸等)、グリシン、カラメル色素、酵素、香料、酸化防止剤(V.E)*メーカーによって違いがあります
原材料表示のうち、「pH調整剤」以下が添加物です。
「そうなると7種類か……、結構多いな」と思うかもしれませんが、残念ながらそれよりもっとあります。なぜなら「一括名表示」と「キャリーオーバー」があるからです。
「pH調整剤」は食品の変質や変色を防ぐ添加物ですが、「pH調整剤」という1つの物質ではありません。食品のpHを調整する添加物の「集合体」なのです。
表記は「pH調整剤」1つですが、これには、だいたい5~6種類の添加物が混ざっていると考えていいと思います。
同様に「香料」も一括名表示です。こちらはどのぐらい使われているか、商品によって異なるので、ちょっと数はわかりません。
ちなみに近ごろ、「炊き立てのご飯の香り」という香料が開発されたそうです。コシヒカリタイプと、そうでない一般の米タイプなどがあるそうで、これが実用化されれば、「炊き立てのご飯の香りがする、冷えたおにぎり」ができるわけです。需要があるかどうかわかりませんが、すごいものができたものです。
「キャリーオーバー」を知ってますか?
次に「キャリーオーバー」。これは原材料からそのまま持ち込まれる添加物のことです。原材料に使われていても、最終的な製品に効果がない場合は表示をしなくていいのです。
「鶏五目ご飯のおにぎり」でいえば、原材料のしょうゆに「保存料」や「着色料」などの添加物が使われているとしましょう(しょうゆの添加物については『食品の裏側』で詳しく解説し、「『和食が好きな健康志向』の人も知らない深刻盲点」でも指摘しています)。
この場合、しょうゆに使われた添加物は、最終加工品である「鶏五目ごはん」にまで効果を及ぼしていないと考えられるため、表示をしなくていいということになっているのです。
しかし、少なくとも私が現役のときには、鶏五目ご飯は「鶏五目ご飯の素」を使って炊きあげられており、この「素」には、かなりいろいろな添加物が入っていました。それらの添加物も「キャリーオーバー」ということになり、ラベルには記載不要で、結果的にどんなものがどれだけ使われているか、消費者には知るすべがありません。
いずれにせよ、こうした「一括名表示」「キャリーオーバー」を考え合わせると、私の推測では、この「鶏五目ごはんのおにぎり」たった1個でも、のべ20~30種類ほどの添加物が使われていると考えて、およそ間違いないと思います。
最後の3つめの真実、それは市販のおにぎりを見ていつも思うことですが、非常にコスパが悪いということです。
【残念な真実その3】値段が高い――「手間賃」に値段を払っている
「節約志向で『安い食品ばかり買う』人の重大盲点」に書いたことですが、家で作るのと比べて値段が高すぎると、いつも私は感じています。
私は、おにぎりは「手間賃産業」の最たるものだと考えています。「手間賃産業」というのは私の造語で、「自分で作ることもできるけど、自分で作る時間がないから、代わりに作ってもらい、その『手間賃』にお金を払っている」ということです。
市販のおにぎりは、商品によって差があるものの、だいたいご飯が100グラムほど使用されているものが多いです。生米50グラムに水を入れて炊くと、だいたい100グラムのご飯になります。
今、生米の売れ筋は、スーパーで1キロあたり300~400円です。特売のものがよく売れます。
1キロ400円と考えれば50グラムの生米は20円です。つまり家でご飯を炊いておにぎりを作れば20円でできるわけです。1キロ600円するコシヒカリを買っても、50グラムで30円。
それをおにぎりとして、100円以上の値段で買っているのです。いまはおにぎりは120円以上するのが普通で、いいお米や具材になると、もっと高いものも少なくありません。
つまり、おにぎり1個の値段のうち、もちろんご飯や具材、海苔のコストはありますが、それ以上に「手間賃」に対してお金を払っていることになるわけです。
加工度が低いので「作ろうと思えば作れる」最たるもの
「でも、市販のポテトサラダやハンバーグだって手間賃にお金を払っているのではないか」と思われるかもしれませんが、おにぎりは他の食品に比べて、加工度が低く、自分で作ろうと思ったら、作ることができる代表的なものの1つだと私は思います。自分でも作れるけど、手間賃に対してお金を払っている、そしてその値段が高すぎると私は思うのです。
私の現役時代には「おにぎりの具材は、5円以下になるよう原価を抑えること」と厳しく言われたものです。
私の時代はおにぎりの値段はほぼ100円でしたから、原価を抑えるために、具は5円を超えてはいけなかったのです。だから仕入れが本当に大変でした。おそらく今も似たような状況にあると思います。
スーパーの米はなるべく安いものを買おうとするのに、値段のかなりの部分が「手間賃」で、しかも添加物入りの「市販のおにぎり」は平気で買う。その感覚が私にはどうも理解できません。もちろんたまに食べるには問題ないでしょうが。
この記事を書くために、さまざまな市販のおにぎりを食べ比べてみました。いまどきは「焼き肉」「オムライス」「ベーコンなんとか」とか、具のバリエーションがすごいことにもビックリです。
でも私にはどれも味が濃くて、油がきつくて、また食べたいとは思えませんでした。
それでもあえて私が食べるのなら、なるべく加工度の低いものを選ぶと思います。「塩むすび」「おかか」「昆布」などです。
なぜなら、加工度の低いものほど、その分、添加物、油も少ないことが多いからです。私がよく言うことですが、加工食品全般での「加工度が高くなるほど、添加物は多くなる」という基本傾向は、おにぎりにも当てはまります。
ただ、私の食べたおにぎりは「おかか」も「昆布」も、明らかにだしを取ったあとの「だしガラ」のような味でした。だしガラだから味が抜けてしまっていて、いろいろ添加物や調味料を混ぜて補っている感じでした。
あと海苔がおいしくない。私の食べたものは2番海苔か3番海苔が使われていて、値段はおにぎり1個で数円ほどだと思います。いい海苔を使えば、おにぎりの味は全然違うのに残念です。
「絶品おにぎり」は、自宅で簡単にできる!
もちろん私は「市販のおにぎり」を買ってはいけないと言っているのではありません。忙しいとき、手軽に空腹を満たしたいときもあると思います。
ただ、そのときは、たった1つのおにぎりで「少なくない量の添加物や油」を摂ってしまうこと、そして、おにぎりの多くは「手間賃代」であることを、よく「知って」買ってほしいのです。
それに、そもそも、自宅でも、簡単にできる「美味しいおにぎり」はたくさんあるのです。手の込んだ料理は作れない人でも、お米を炊いて、具を少し工夫するだけの「絶品おにぎり」は、「少しの手間」を惜しまなければ、簡単にできたりします。
たとえば、私が15年かけて開発した「安部ごはん」にも、手軽に簡単にできる「絶品おにぎり」をいろいろ紹介しています。
魔法の調味料の「甘みそ」を、そのまま具材にした「甘みそおにぎり」や、「かえし」だけで簡単に作れる「おかか昆布おにぎり」なども、子どもが喜ぶ味です。「焼きおにぎり」を作るときだって、たんに醤油を塗るのではなく、醤油と砂糖と混ぜ合わせて作る魔法の調味料の「かえし」を塗って焼くことで、たんに醤油辛いだけでなく、ほのかな甘味が加わり、味に「深み」が出て、ぐんとおいしくなります。
家でご飯を炊いて、炊き立てをおいしい塩で握って、いい海苔を巻くだけでも、それだけでご馳走になるぐらい、本来おにぎりはおいしいものです。
「市販のおにぎり」ばかり買う人は「冷たいおにぎり」が当たり前になっているかもしれませんが、本来、おにぎりは「温かいご飯」が当然、美味しいわけです。「冷めても美味しい」というコピーがありますが、それは裏返すと、「本当は、温かいものが美味しい」ということ。
一部のおにぎり専門店の中には、60°cから70°cの炊きたてのご飯を、我慢して熱いうちにおにぎりにしているところもあります。そうすることで、冷めても美味しさが減りにくいからです。
5歳の子どもが「おにぎりってこんなに美味しいんだね」と手作りおにぎりに感動したのは、それくらい、みんな「冷たいおにぎり」に慣れきってしまっているからだともいえます。「炊きたてのご飯で握った本当のおにぎりの美味しさ」を知らない人が増えてしまっているのです。
みなさんにも、「市販のおにぎり」ばかりに頼るのではなく、「手作りならではの家庭のおにぎり」の美味しさと楽しさを、ぜひ知って、体感していただきたいと思います。
安部 司(あべ つかさ)Tsukasa Abe
『食品の裏側』著者、一般社団法人 加工食品診断士協会 代表理事
1951年、福岡県の農家に生まれる。山口大学文理学部化学科を卒業後、総合商社食品課に勤務する。退職後は、海外での食品の開発輸入や、無添加食品等の開発、伝統食品の復活に取り組んでいる。NPO熊本県有機農業研究会JAS判定員、経済産業省水質第一種公害防止管理者を務めつつ、食品製造関係工業所有権(特許)4件を取得。開発した商品は300品目以上。2005年に上梓した『食品の裏側 みんな大好きな食品添加物』(東洋経済新報社)は、食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、70万部を突破するベストセラーに。その他の著書に『食品の裏側2 実態編 やっぱり大好き食品添加物』(東洋経済新報社)などがある。