年齢が上がるにつれ、男女ともに多くなる「夜間頻尿」。たかが頻尿と思われがちだが、睡眠不足からうつ傾向に陥るなど生活の質を低下させることも。日ごろから飲み続けている薬の副作用、という点は意外と知られておらず、一度チェックをと医師は促す。
頻尿の副作用リスクが高い薬
厚生労働省によると、75歳以上の実に40・7%の人が「5種類以上」の薬を飲んでいるという。その薬ひとつひとつの副作用をチェックしている人は少ないかもしれないが、副作用として自覚しやすいのが頻尿だ。
昼間であればまだしも、夜トイレに起きる回数が増えると、睡眠不足で昼間ぼうっとしてしまい、活力がなくなったり事故につながったりする危険がある。だから「たかがおしっこ」「年だから仕方ない」と我慢するのは禁物。
「60歳以上であれば、多くの人が夜1回トイレに起きるようになります」と話すのは、日本大学医学部附属板橋病院・病院長の高橋悟先生だ。
「夜中に2回以上トイレに起きるようであれば、夜間頻尿の治療の対象になります。睡眠不足になり昼間の生活の質が落ちてしまうからです」(高橋先生、以下同)
夜トイレに起きるのは、「夜の尿量が多い」「トイレに行きたくなる」と主に2つの理由があるのだが、そうしたことがいま飲んでいる薬が原因かもしれないのである。
高血圧や糖尿病の人は要注意!
では、どんな薬に注意したらいいのだろうか。高橋先生によると、主に高血圧や糖尿病の治療薬の副作用が考えられるという。
高血圧の治療に使われる降圧剤は「ARB」「β遮断薬」など種類が多い。夜間頻尿に影響があるとして特に覚えておきたいのが、「カルシウム拮抗薬」と「利尿剤」だ。
カルシウム拮抗薬は血管を広げて血圧を下げる薬で、腎臓への血流が増え、腎臓で濾過される血液量が増えるため頻尿を引き起こすことがある。
利尿剤は尿量を増やして体内の余分な水分を減らす薬だが、これは飲む時間によっては夜間頻尿にはメリットになることもある。
「利尿剤は午後2時、3時ごろまでに飲めば、かえって夜間頻尿を改善するという論文もあります。日中にたまった下半身の水分を、夕方までに1回出して就寝することができるからです」
そもそも高血圧の人は夜間頻尿であることが多く、そこに降圧剤を使うことで、さらに夜間頻尿の原因を増やすことになってしまう。
糖尿病の治療薬では「SGLT2阻害薬」と呼ばれる薬が、夜間頻尿の原因になっている場合がある。体内の余分な糖を体外に出すために尿をつくる薬だ。
「この薬は強力な血糖値降下作用があり、糖尿病の改善にはいい薬ではあります。ただ糖を尿中に排出させることで、浸透圧によって排尿量が増えてしまいます。すると体内に水がなくなるので、余計のどが渇いて水を飲むため、夜間多尿になりやすい」
さらに糖分の多い尿がたくさん出るため雑菌も増えやすく、女性は膀胱炎や尿路感染症のリスクが高くなる。
「実際、SGLT2阻害薬の副作用には尿路感染症が明記されています。重症化すると腎盂腎炎に至ってしまうので注意が必要です」
この薬の影響か、近年、排尿障害で病院に駆け込む中高年女性が増えているという。できれば生活習慣を改善し、高血圧や糖尿病を直すことが理想的だ。
「コロナ禍で外出しなくなったため糖尿病が悪化したり、血圧が高くなったりする人も少なくありません。さらに女性の場合、骨粗鬆症の影響で排尿障害になることも。症状があってもコロナ感染を恐れ、診察控えをする人もまだまだ多く、潜在的な患者さんは多いと思われます」
かぜ薬で頻尿になることも
頻尿の副作用リスクが高い薬には「抗コリン作用」があるものが多い。
「抗コリン作用は、お腹が痛いときなどに胃腸の動きを穏やかにする作用があります。そうすると膀胱の収縮も抑えられ排尿障害が出てしまい、残尿が増え、結果として昼も夜も頻尿になる可能性があります」
抗コリン作用が含まれるのは、胃痛薬や腹痛薬、いわゆるかぜ薬である総合感冒薬、花粉症などの抗アレルギー薬などで、身近な薬に多く、だからこそしっかりチェックしておきたい。中でも総合感冒薬は、尿道が締まってしまう危険があるため、前立腺肥大症がある男性は、飲まないことが推奨されている。
また、統合失調症の薬「クロルプロマジン」など心療内科や精神科で処方される薬には、だいたい抗コリン作用があるので、排尿障害を引き起こす可能性があるという。
「1つの薬だけでなく複数の薬にそれぞれ抗コリン作用がある場合、その合わせ技で排尿障害が起きることがあります。最近懸念されているのは、高齢者がこうした薬を飲むと、認知障害が進むこと。そのため抗コリン作用がある薬は特に高齢者には安易に使わないよう、厚生労働省や日本老年医学会でも注意を促しています」
頻尿の症状は、こうした薬を飲み始めて2、3日のうちに起きるという。ただし、新たな薬ではなくて、以前から服用していた薬でも頻尿になることがあるそうだ。
「抗コリン作用のある薬は便秘にもなりやすいのです。女性の場合であれば、便秘を合併することで頻尿になることがよくあります」
それまで特に症状がなかったのに「便秘+頻尿」になったら、薬の影響も考えるべきだという。
医師に相談を
「もしかして夜間頻尿は薬が原因かも」と思ったら、医師には早めに相談したい。
「受診時に『最近夜中にトイレに起きることがよくあるけれど、飲んでいる薬が影響あるということはありませんか』と聞いてみましょう。
きちんとした医師ならその薬を処方する理由や、副作用の可能性などを説明してくれるでしょう。今後の薬の処方についても配慮してくれます。もし医師が何も対応しなければ、思い切って医師や病院を変えることも検討していいかもしれません」
なるべく影響の出にくい薬に変更したり、飲むタイミングを変えてみたりするほか、同じ薬でも減量すると症状が治まることがある。
「自分で勝手に薬が原因かもと判断して、服用をやめることは厳禁です。糖尿病の薬も高血圧の薬も飲まないと命に関わる場合があるので、勝手な判断でやめずに早めに医師に相談しましょう」
夜間頻尿改善のための市販薬には漢方薬が多いがエビデンスは十分ではないそう。しかし最近では、女性向けには日本初の市販薬が発売された。なお食品ではクランベリージュースに閉経後の女性に対して膀胱炎への予防効果があるという研究発表がある。
「とはいえ、また服用する薬が増えることになるので、まずは薬の見直しが大事です」
夜間頻尿の要因は、もちろん薬だけではない。高血圧や糖尿病などの基礎疾患、腰が曲がって神経を圧迫する腰部脊柱管狭窄症、尿を出す力が低下する低活動膀胱などがあげられる。さらに女性の場合は肥満などさまざまあり、こうした複合的な要因があると、当然だが治りにくい。
「高齢になるほどに排尿トラブルは起こりますから、薬を飲むようになったら副作用の説明を必ずチェックし、体調の変化にも気を配りましょう。夜間頻尿の予防には、散歩や軽い運動をするといいですね。夜間頻尿の一因である足のむくみもとれますし、体重も減り、夜ぐっすり眠れます。生活習慣病や肥満の予防にもつながりますよ」
病気別でわかる 夜間頻尿の副作用のある薬
●高血圧
カルシウム拮抗薬、利尿剤
●糖尿病
SGLT2阻害薬
●花粉症・アレルギー
抗アレルギー薬
●かぜ
総合感冒薬(市販)
●胃痛・腹痛
抗コリン薬(コランチルなど)
●心不全
利尿剤
●うつ病・統合失調症
抗不安薬(クロルプロマジンなど)
〈取材・文/江頭紀子〉