その朝、人波に揉まれてJR武蔵野線の電車を降りた千葉県内の女子大生(20)は、
「電車内で服を切られ、身体を触られた」
と駅員に被害を訴えた。
さぞ、不快で怖い思いをしたに違いない。
駅員から通報を受けた千葉県警行徳署が4月15日、強制わいせつと器物損壊の疑いで逮捕したのは千葉市花見川区に住む自称アルバイト・矢部誉容疑者(30)。
満員電車内で女性の着衣を切って痴漢
県警によると、2月16日午前6時54分ごろから同7時3分ごろまでの間、JR西船橋駅から市川塩浜駅間を走行中の電車内で、刃物のようなものを使って被害者の着衣を切り裂き、身体を触るなどのわいせつな行為をした疑い。
行徳署によると、
「間違いありません」
と容疑を認めている。
犯行のあった東京行きは通勤・通学客で満員状態だったとみられ、終点までの各駅間で最も所要時間の長い区間が狙われた。カッターナイフかハサミのようなものを使った可能性が高い。
「結構揺れる区間で危険だったが、被害者にケガがなかったのが幸い。しっかり捜査して犯人を捕まえなければならない事案であり、車内の防犯カメラ映像などを解析して逮捕に至った。余罪についても調べている」(捜査関係者)
矢部容疑者は実家暮らし。トランプやコインを使うテーブルマジックが得意だった。
《マジシャンです。ポン太theやべっちという名前で活動してます。あちこちで突然マジックを披露しています》
SNSでそう自己紹介しながら、活動実績は見当たらない。業界関係者は「聞いたことのない名前。自称マジシャンだろう」と口を揃える。
マジックの技術をどう犯行に悪用したのか。
プロマジシャンの男性は「犯罪抑止のため種明かしに協力しましょう」と話す。
「刃物を隠し持つ方法はすぐ2つ思いつきました。例えばベルトに挟んで上着で隠し、ベルトを直すふりをして持つ。手のひらの筋力で掴んでおくやり方もあります」
マジシャンは、親指の下の土手部分を巧みに使ってモノを掴む技術に長けているという。ほら、と言ってカッターナイフを手の内側にぶら下げるように掴みながら、手の甲は自然だった。
揺れる満員電車内で、女性を傷つけず衣服だけをそっと切るのも簡単なのか。
「いや、女性を傷つけない自信は持てませんね。衣服の正確な厚みと素材、フィット感を把握しないと、刃先をどのくらい差し込めば服だけを切れるかわかりませんから。突然電車が揺れる不安定要素もあって危険です」(同)
悪用された危険なテクニック
犯罪に使った時点でマジシャンとして失格だという。
「スリやギャンブルのいかさまのテクニックはマジックに転用されています。相手の腕時計をかすめとる“ウォッチ・スティール”や財布を抜き取る“ピック・ポケット”も舞台外でやれば犯罪です。エンターテイメントとして人を楽しませるために駆使するのがマジシャンです」(同)
人を笑顔にするどころか、真逆の行為に走った罪は正当に裁かれなくてはならない。