懐かしの缶ジュース。左から「維力」「ピコーストレートティー」「サスケ」「はちみつレモン」「ジャズイン」

 1954年(昭和29年)4月28日、明治製菓から日本で初めての缶ジュース『明治オレンジジュース』が発売された。

 それまではビン入りのジュースが主流だったが、みかんの缶詰製造のノウハウを生かし、商品化に成功。当時の缶ジュースは完全密封タイプで、付属の小さな缶切りを使って上ぶたの対角線上に2か所穴をあけて飲んでいた。

「プルタブ式の商品が出てきたのは、1970年代初めごろ。缶から完全に分離する構造で、空き缶のポイ捨てとともにゴミ問題にも発展し、“プルタブは空き缶に入れて 空き缶はくずかごに”というマークが付けられるようになりました。現在流通しているような、缶にくっついたままのステイオンタブが使われるようになったのは1990年代になってからですね」

 そう教えてくれたのは、清涼飲料水評論家の清水りょうこさん。

いちばん飲みたいのは1987年発売の『維力』

 その後はペットボトルの商品が主流となり、2020年の清涼飲料水容器別生産量のデータでは、ペットボトルの飲料が76%で、缶飲料は11%ほどになっている。

「2020年には1000種類以上の清涼飲料水の新商品が出ています。すべてが定着するわけではなく、タイミングを逃すと飲めなくなるものも多い。ジュースと私たちは一期一会の関係にあるんです」(清水さん、以下同)

 そこで、今回はこれまで数々の清涼飲料水を味わってきた清水さんに、もう1度飲んでみたい懐かしのジュースについて教えてもらった。

「今でもいちばん飲みたいのは、1987年にポッカコーポレーションから発売された『維力(ウィリー)』ですね。オリンピックの強化選手のために開発された中国のスポーツドリンクがもとになっていて、中国産の植物エキスが入っていました。好き嫌いが分かれる特徴的な味でしたが、私は好んで買っていました」

1987年にポッカコーポレーションから発売された『維力(ウィリー)』

 好みの分かれる独特の味わいから、『維力』とともにジュース好きの間で今も語り継がれる伝説のドリンクがある。それが『サスケ』だ。

“コーラの前を横切るヤツ 冒険活劇飲料サスケ”というキャッチコピーが印象的で、『ドクターペッパー』や『チェリーコーク』に近い独特の味わいの炭酸飲料だったそうです。なぜか私は手に入れる機会が得られず、そのまま発売終了に。私の前を横切ってはくれませんでした(笑)」

 手に入らなかったからこそいつか会いたいと願ってしまうのは、缶ジュースも一緒なのかもしれない。『IMO』というドリンクも、そういった憧れを覚える1本だという。

「1986年にカゴメから“焼き芋ハイテク飲料”と銘打って発売されました。大々的に売られていたはずが、やはりこちらも手に入らず……いつか再販される日がきたら飲んでみたいですね」

出ては消えるを繰り返す紅茶の炭酸飲料

 そもそも「ジュース」とは、厳密には100%果汁のもののみを指すが、この記事では一般的なソフトドリンク全般をジュースと呼びたい。日本に初めて登場したジュースは1853年のペリー来航とともにやってきたレモネードだと言われている。その後も甘酸っぱい柑橘系の飲料はジュース界の定番商品となった。

「もう1度飲みたいレモン飲料といえば、カルピスが発売していた『B&L』です。ビター アンド レモンという名のとおり、レモンの苦みを生かした大人向けの味わいが特徴でした。缶のほかにビン入りも売っていましたね」

 また、ホットで楽しめるのも柑橘系飲料の魅力。特にサントリーの『あったまるこ』は思い入れが深いという。

「キンカンとカラマンシーという柑橘類を使用したドリンクで、ホットで飲むジュースはレモネードぐらいしかなかったので、新鮮でした。甘さ控えめでおいしく、その後発売された『なっちゃん』と同じデザイナーによるパッケージもかわいかったですね」

 なかなか定着せず、現在も出ては消えるを繰り返しているのが、紅茶やコーヒーの炭酸飲料。なかでも『ジャズイン』は印象的な1本だ。

“誰でもオイシイ成人飲料”というキャッチコピーでペプシコから1990年に発売された、紅茶を使った炭酸飲料『ジャズイン』

「“誰でもオイシイ成人飲料”というキャッチコピーでペプシコから1990年に発売されました。紅茶を使った炭酸飲料で、甘さを抑えてスッキリ飲める味わいでしたね。紅茶やコーヒーの炭酸飲料は今でもたまに発売されていますが、なかなか定番商品が生まれていません」

 当時の飲料メーカーは自社の自動販売機を多く持っていたため、少し挑戦的なドリンクを開発する余裕も販路もあったと清水さんは分析する。個性的な自販機や地方にしかないメーカーの自販機もあり、それらの商品を眺めるだけでも新しい出会いがあった。なかでも特に思い入れが深いのが、『花紅茶』だという。

「今は飲料事業から撤退してしまった日本たばこ産業が発売していた無糖の紅茶です。いわゆるローズティーで、ほのかなバラの香りをよく覚えています。私のまわりではJTの自動販売機でしか売っていなかったので探すのは大変でしたが、無糖の紅茶は当時は珍しく、食事のときなどにもよく飲んでいました」

 もうひとつ、よく飲んでいた紅茶ブランドとして挙げてくれたのが、女性向けのかわいらしい商品デザインが魅力の『ピコー』だ。

紅茶ブランドとして女性人気が高かった『ピコー』

「パッケージデザインだけでなく、CMもとにかくかわいかった。マザーグースの早口言葉を歌にのせて、女学生風の外国の女の子が軽快なステップで踊るという内容で、“ピコー”と言いながら片足を上げたポーズをとるのが大流行していましたね」

 現在でも手に入る、懐かしジュースもある。サントリーの『はちみつレモン』だ。

「1986年発売の大ヒット商品なので覚えている方も多いはず。“はちレモ”なんて呼ばれていましたが、平易すぎる一般名称のため商標登録ができず、類似商品が多く販売されました。当時は缶でしたが、現在はペットボトルで度々再販されていますね」

 もう1本、海外で今も飲める可能性があるのが、スイスの乳清炭酸飲料『リベラ』だ。

「ヨーグルトの上澄みである乳清を使ったジュースで、日本ではカゴメが輸入し、国内販売をしていました。ハーブの香りがして、身体によさそうな味わい。現在もスイスや周辺国では売られているようなので、海外に行けば再会できるかもしれませんね」

 数々の商品が生まれては消えていった、約70年の日本の缶ジュースの歴史。清水さんにとって懐かしジュースの魅力とはなんだろうか。

「手軽に買うことができる身近さこそがジュースのいいところ。自分が飲んでいた時代や、当時の記憶を呼び起こす“記憶のスイッチ”みたいな要素も魅力のひとつですね」

 今飲んでいるジュースも、いつか思い出とともに懐かしむ日がくるのかもしれない。

清水さんセレクト!懐かしジュース10選

『維力』(ウィリー) ポッカ/1987年 植物エキスによる酸味とすっきりした甘味が特徴の、中国由来のスポーツドリンク。

『B&L』(ビター アンド レモン)カルピス/1979年代
レモンの苦みが特徴的な、大人向けのレモン飲料。1998年に復刻されるも、発売中止に。

『ピコー ストレートティー』 (Pekoe)サントリー/1993年
商品名は茶葉の等級「ペコ」が由来。同社が『リプトン』を発売した2001年に終売となった。

『IMO コンダク』(アイ エム オー)カゴメ/1986年
さつまいもが原料。白濁した『コンダク』、透明な『クリア』、炭酸入りの『タンサン』があった。

『サスケ』(SaSuKe)サントリー/1984年
コカ・コーラに対抗する商品として登場したものの、わずか1年後、1985年に販売終了。

『リベラ』(rivella) カゴメ/1984年
スイスを中心に発売されている、乳清炭酸飲料。国内ではカゴメが輸入販売していた。

『はちみつレモン』サントリー/1986年
ハチミツとレモン果汁を使用した、言わずと知れた清涼飲料水。ホットでも楽しめる。

『花紅茶』日本たばこ産業/1990年
かすかにバラの香りがする無糖紅茶。1990年に登場したあと、1998年にも再販された。

『ジャズイン』(JAZZ'INN)ペプシコ/1990年
紅茶の炭酸飲料。後の缶デザインには「スッキリ飲める紅茶です」の一文も追加された。

『あったまるこ』サントリー/1990年
缶を顔に見立てたデザインの柑橘系ドリンクで、サントリー『なっちゃん』のお姉さん的存在。

『日本懐かしジュース大全』辰巳出版・刊/1320円※記事の中の画像をクリックするとAmazonの購入ページにジャンプします

お話を聞いたのは……
清涼飲料水評論家 清水りょうこさん
1964年、東京都生まれ。1980年代から、飲料関係の記事やコラムを執筆し、各種メディアにも登場。思い出の昭和ジュースの数々を誌面の許す限り網羅。『日本懐かしジュース大全』辰巳出版・刊/1320円

取材・文/吉信 武 写真協力/久須美雅士、スタジオ クライン