“トレンディードラマ”と呼ばれ視聴率20%超えは当たり前。人気の枠として注目が集まる月9枠でヒット作が続出した、2000年までの作品をアンケート調査。思い出が蘇るドラマ話を、さあ始めよう!
もう一度見たい月9ドラマは?
「学生時代、いつも火曜日の朝は友達と“月9”の内容を話題にしていました。あんな恋愛したい、主人公のようなステキな人に出会いたい……。懐かしいです」(神奈川県53歳 会社員)
フジテレビ、月曜日の21時からのドラマ枠、通称“月9”─。現在も続くこのドラマ枠が確立したのは、'87年4月に放送が始まった『アナウンサーぷっつん物語』だった。冒頭のコメントのように、視聴者に数多くの話題を提供してきた。
そこで今回、今年で35周年となる月9の、黄金期ともいわれる'00年までの57作品を対象にアンケートを実施。もう1度見たい月9ドラマは?と、40代以上の女性1000人に聞いた。ベスト15に輝いたドラマについて、さまざまなメディアでドラマ関連の執筆をしている田幸和歌子さんと振り返っていこう。あなたの思い出のドラマ、ランクインしてますか?
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「ベスト5に入った作品はすべて順当ですね。それぞれの登場人物や、名場面、名ゼリフが今も鮮やかに浮かんできます」(田幸さん)
この言葉のとおり、ベスト5は放送当時、話題になった作品ばかり。
第1位『やまとなでしこ』('00年)
1位に輝いた『やまとなでしこ』('00年)は、主人公・神野桜子を演じた、松嶋菜々子の代表作といえるものだ。
「桜子のファッションに目が釘付けでした。ブランドものを取っ替え引っ替え着ているのが羨ましかった」(東京都44歳 専業主婦)
「松嶋菜々子の名演技の数々。本当は貧乏なのに、必死にいい服やカバンなどを身につけている姿と、その裏では質素な生活をしている姿が愛らしかった」(沖縄県51歳 公務員)
このように桜子のファッションに魅せられた視聴者は多い。
「今見ても桜子はすごく魅力的な女性です。あのドS感のある可愛さは最強(笑)。貧乏ゆえに“お金持ちが好き”と公言しているのも、視聴者の共感を得た部分なのでしょう。あと、彼女の相手、中原欧介を演じた堤真一さんがワンコみたいに可愛くて。ふたりの組み合わせがベストでしたね」(田幸さん)
堤が演じた欧介については、こんなアンケートコメントも。
「とにかく堤真一さんが可愛くて、何度見ても笑ってしまう」(京都府63歳 専業主婦)
「ラストの、欧介がアメリカに行って勉強している横で本を読む桜子の姿にキュンとしました」(大阪府54歳 専業主婦)
普段はクールな桜子が、欧介の前で見せる“素”とのギャップがよかった、という声も多かった。
第2位『ロングバケーション』('96年)
そして2位にランクインしたのが『ロングバケーション』('96年)。歴代の月9ドラマの中でも、平均視聴率29・6%という記録的な数字を残している。
「白いタキシードとウエディングドレスで、ボストンの街を駆けるシーンがありえないと思ったし、印象に残っています」(北海道69歳 無職)
「“何をやってもうまくいかないときは神様がくれた休暇だと思って”みたいなセリフが心に響きました」(神奈川県50歳 パート)
田幸さんは主人公の瀬名秀俊を演じた木村拓哉について、
「改めて見ると、この作品ではまだ完成された“ザ・キムタク”ではないんです。ナイーブ全開というか、気弱でちょっと情けなくて草食で……。
キムタクは絶対的な頼もしさというイメージがあって、彼が登場すると、なんでもできてしまうような説得力というか。でもロンバケの彼はそんなイメージとは違う“ダメさ”が滲み出ています。それも大きな魅力になっているんです」
また、作中で瀬名や山口智子演じるヒロイン、葉山南の何げない日常が視聴者の憧れにもなっていた。
「いろいろなことがカッコよく見えるように作られていました。スーパーボールをマンションの3階から落としてキャッチする、ワインを箱買いする、屋上で花火とか。あと、山口さんの膝丈のオーバーオールもファッションとして注目されましたね。
当時はこうしたことを“やってみた”という人が多かったです。ドラマの登場人物への憧れが、この時代はまだまだあったように思います」(田幸さん)
第3位『東京ラブストーリー』('91年)
3位に入ったのは『東京ラブストーリー』('91年)。小田和正が歌う主題歌『ラブストーリーは突然に』が印象的だった。ギターから始まる、あのイントロを聴くとドラマを思い出すという人も。
「どんな場面よりも、いちばんはあの主題歌」(埼玉県69歳 専業主婦)
「1話目を見た翌日、すぐにCDを買いに行ったことを覚えています。原作の漫画も全部そろえて、どハマりしたドラマでした」(埼玉県45歳 パート)
田幸さんは、織田裕二が優柔不断な永尾完治を演じたのは似合っていたと語りつつ、このドラマで強烈な印象を残した人物が頭から離れないという。
「ドラマをいろいろな意味で盛り上げたのは有森也実さんが演じた、“おでん女”こと関口さとみでしょう(笑)。“食べたいと言っていたから”と、完治の部屋におでんを持ってくるさとみ。いまだに人のカレを略奪する役がドラマに出てくるたびに、“おでん女”と呼ばれるくらいのインパクトがありました。
昨年放送されたドラマ『リコカツ』でも手作りの筑前煮とおでんを差し入れする女の子が出てきて、ネットでは盛大に“おでん女”と騒がれていました」(田幸さん)
ヒロイン・赤名リカ役の鈴木保奈美との対比も秀逸な“おでん女”。当時は完治とリカの恋路を邪魔する役として、視聴者からは演じた有森が恨まれ、事務所にカミソリ入りの手紙が届いたというエピソードも。
第4位『101回目のプロポーズ』('91年)
4位にランクインした『101回目のプロポーズ』('91年)。このドラマには、心に残っているセリフがある、というアンケートコメントが多数寄せられた。
「トラックの前に飛び出して“僕は死にません!”と叫んだあのセリフが忘れられません」(大阪府72歳 専業主婦)
「“僕は死にましぇん! あなたが好きだから”という命懸けのプロポーズは衝撃的でした」(埼玉県44歳 会社員)
浅野温子の演じる矢吹薫が、結婚式当日に事故死してしまった恋人のことがトラウマになり、再び好きな人を失うことが怖いと星野達郎役の武田鉄矢に告白してからのこのシーン。キーワードとして印象に残るセリフがあるのは強い、と田幸さん。
「セリフの認知度としては圧倒的でしょうね。これはドラマという枠を超えて度々パロディーもされています。みんながまねするようなセリフがあるドラマは、なかなかありません。こういう強い言葉を持っている作品は、視聴者の記憶に残りますね」
第5位『ひとつ屋根の下』('93年)
5位は最高視聴率37・8%を記録した『ひとつ屋根の下』('93年)。この記録は月9枠で、いまだ破られていない。
「強い言葉としてみると、まさに“名言製造機”ともいえるドラマです」(田幸さん)
という田幸さんの言葉のとおり、さまざまなセリフに対する思い入れのコメントが寄せられた。
「血がつながっていないと言った小雪(酒井法子)に、輸血をしたあんちゃん(江口洋介)が“これで俺たちはきょうだい。俺の血がおまえに流れているんだから”と話したシーンは涙ボロボロでした」(愛媛県53歳 専業主婦)
「チイ兄ちゃんが大好きでした。“そこに愛はあんのかい?”というあんちゃんのセリフも大好きです」(神奈川県44歳 専業主婦)
「福山雅治が演じていたチイ兄ちゃんが、妹を助けるために彼女が働いていたキャバクラを“なんならこの店を買い占めるか”というセリフが印象に残っています」(愛知県53歳 パート)
あんちゃんこと柏木達也を演じた江口洋介とともに、弟の雅也役の福山雅治の人気も高い。
「私は福山さんが主演を張る前の、脇役でいる時代が好きなんです。脇役だからこそ光ることもあります。この作品では役自体も魅力的でした。“なんなら~”のセリフ、私は今でもまねして使っています(笑)」(田幸さん)
第6位『あすなろ白書』('93年)
田幸さんが指摘する魅力ある脇役となると、6位に入った『あすなろ白書』('93年)の木村拓哉が挙げられる。
「2番手、3番手がおいしいぞ、ということに気がついて、当時20歳のキムタクを脇役にキャスティングしたのは彼の売り方として先見の明があったのだと思います」(田幸さん)
この言葉を裏付けるように、アンケートのコメントでは─。
「木村拓哉が脇役なのに存在感がある。青春時代にあんな秘密基地のような部屋が欲しかった」(千葉県43歳 専業主婦)
「木村拓哉さんが演じた役で、ヒロインに“俺じゃダメなのか?”と聞いたシーンに心臓がバクバクになりました。あんなこと言われてみたい」(神奈川県48歳 パート)
このシーンについて田幸さんは、
「“俺じゃ~”のセリフとともに後ろからのハグが“あすなろ抱き”と言われたくらいにインパクトがありました」
『妹よ』『愛しあってるかい!』も月9代表作
ランキングでは15位と、上位に食い込むことができなかったが、田幸さんは月9枠として記憶に残っている作品に『妹よ』('94年)を挙げる。貧しい家庭と資産家、それぞれで育った2組の兄妹とカップルの行方を描いたラブストーリー。その魅力をこう語る。
「このドラマが放送されたのは'94年でバブルは弾けていましたが、まだまだ世間的には浮かれていた時代でした。そんな世情の中、和久井映見さんが演じた松井ゆき子というヒロインは、ものすごく実直で純朴。そして素直だけれど、心の強い女性。
そんなヒロインの、ベタでピュアな照れくさくなるくらいのシンデレラストーリーというのが新鮮でした」
バブルで浮かれた時代から、その後の社会が停滞していく流れの中、20%超えの視聴率は当たり前というくらいの人気を誇った月9ドラマ。
「今振り返ると、バカバカしいくらいの陽気なドラマが作られていました。『愛しあってるかい!』('89年)や『教師びんびん物語』('88年)といった、はっちゃけたコメディーは、浮かれた時代の空気が生んだ作品なのでしょう」(田幸さん)
そんな枠もここ何年かは黄金期のような勢いはない。
「難しいですよね……。でも、恋愛ものから脱却したことで復調はしていると思います。何が正解かはわかりませんが、正解のひとつとして『監察医 朝顔』の成功があるのでは。医療ものと刑事ものをミックスしながらも、家族の姿をしっかりと描いています。こんなホームドラマの枠にするのもありかなと。
視聴率をとりにいくより、攻めて挑戦するのもいいと思います。フジテレビはせっかくシナリオ大賞ということをやっているのですから、そこで発掘した人を育てる。
あとは、オリジナル脚本のドラマが見たいです。どこかの局がやっていたと思いますけど、同じテーマで複数の脚本家がリレー形式で作っていく。そんな作品が見られる枠だと楽しそうですね」
取材・文/蒔田 稔