市原隼人(撮影/佐藤靖彦)

『おいしい給食』は連ドラとして '19年秋にスタート。舞台は '80年代の公立中学。厳格な教師・甘利田幸男(市原隼人)は、実は給食を溺愛。うんちくたっぷりに、真正面から給食を受け止め、味わい尽くす。しかし意識してやまないのは、斬新なアレンジ技で給食を堪能する生徒・神野ゴウ(佐藤大志)。甘利田にとって苦手な生徒だったが、給食バトルを繰り広げる中で好敵手、そして同志ともいえる関係へ……。

  '20年春には映画化され、 '21年秋には連ドラのシーズン2が放送に。そして5月13日には映画化第2弾となる『劇場版おいしい給食卒業』が公開を迎える。

コメディーに振り切った市原隼人の新境地

『劇場版おいしい給食卒業』2022年5月13日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開配給:AMGエンタテインメント(c)2022「おいしい給食」製作委員会

 始まりは在京キー局ではなくローカル局での放送と、派手なスタートではなかったが、作品がこれほどまでに大きくなると思っていた?

「先のことを考える余裕は一切なかったです。まずは原作のないオリジナルということで、0から1を作れる喜びをすごく感じていました」

 がっちりファンを獲得した大きな要因は、コメディーに振り切った、市原の新境地ともいえる演技だ。

もう修行のような感じですね(笑)。1シーン1シーン、燃え尽きる思いで挑んでいました。手を抜いたらやっぱりバレてしまうと思うので。今まで本当にいろんな感情芝居や、保険をかけたアクションなどもやらせていただきましたが、そのすべてを差し置いていちばんハードな現場でしたね

 しかし、ここまでコメディーに振り切った演技は嫌いではないとニヤリ。

「とにかく一貫して、滑稽な姿をたくさん見てもらう。負けた姿もさらけ出して、どこまでも一生懸命。甘利田は給食のために学校に通ってるといっても過言ではない男。給食愛に満ちあふれ、給食に翻弄されながらも、自分の好きなものを好きだと言い、人生を謳歌している。多くの方にその姿を見ていただきたいですし、“こんな大人になりたい”と羨ましく思う気持ちもあります

必死すぎて、本当に記憶がないんです

『劇場版おいしい給食卒業』2022年5月13日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開配給:AMGエンタテインメント(c)2022「おいしい給食」製作委員会

 シリーズを追うごとに、甘利田のキャラもパワーアップ。演じる側はさぞ、大変なのでは?

「はい(笑)。『おいしい給食』は赤ん坊から、100歳を越えるご年配まで楽しめる大衆エンターテイメント。姿形や動きを見て楽しめるし、知識や教養を培っていける内面的な面白さもある。やりすぎはいけないし、引きすぎてもいけない。常にその選択の連続で、必死すぎて本当に記憶がないんです(笑)。コロナ禍で撮影に規制もある中、40度を超える夏を15歳の子どもたちとともに走り抜けた経験は忘れられない。誇りとなる時間になりました

 くしゃっとした笑顔には、作品への愛情と自信が満ちあふれる。市原にとってのハマり役、新たな代表作という声も聞こえてくるが、

「そう思っていただけたら本望です。役者の醍醐味というか。でもそれは自分で決めることではなく、みなさまに自由に思っていただくことで、こうして公開にたどりつけるのは『おいしい給食』という作品のファンのみなさまの賜物ですので、そこにはもう感謝しかありません。“何かお返しがしたい”という思いだけで現場に立っていました。シリーズを通して2年の月日が流れ、今作で神野ゴウも卒業へと向かいます。旅立ちに対しての哀惜は大切にしました

 宿敵の卒業によってシリーズは一息つくと思われるが、今後も甘利田をライフワークにしていきたい気持ちは?

「すごくうれしいのですが、僕の体力がもたないかもしれません(笑)」

何度も嫌いになり、 何度も好きになった芝居

市原隼人(撮影/佐藤靖彦)

 甘利田にとっての給食のように、市原が心の底から愛しているものを尋ねてみると、

「よくも悪くもやっぱり芝居の世界ですね」

 スカウトされたのは11歳。映画『リリイ・シュシュのすべて』( '01年)で鮮烈な主演デビューを飾ったのは14歳のとき。ちょうど神野ゴウくらいの年齢だと振り返る。

「若いころはやっぱり、プレッシャーや圧に負けることもあって。感情が商売道具であるがゆえに、自分がわからなくなってしまったり。部屋の隅っこでひざを抱えて泣いたり、吐いてしまうこともありました。改めて考えると、人生の約3分の2は、役として人の人生を生きていると思うんです。ほかのことを考えてしまうとその役に対して失礼になるから、プライベートでもどこかでずっと役のことを考えていて」

 それが寂しくなるときもあるという。

「役者は、ちょっと特殊な職業でもあると思うんです。何度も嫌いになって、何度も好きになって……。もう、好きなのか嫌いなのかよくわからない領域に来ていますが(笑)、何より芝居に助けられている面もあって。結局はずっと現場にしがみついている。やっぱり芝居の魅力に取り憑かれてしまった人間なので、だからもう、死ぬまで現場で芝居と向き合っていたいと思っています」

 演じ続けることで、本当にいろんなことを感じさせてもらえると感慨深げ。

ファンの方から“余命わずかですが、隼人くんの作品を見ると頑張れます”“手術前で怖いんですが、力をください”という言葉をもらうこともあって。いろんな思いで見てくださる方がいるからこそ、改めて自分のやるべきこと、担う居場所、努力すべきポイントを教えてもらえる。だから、僕にとっては芝居なんです

 心のうちをここまで語ってくれる俳優はなかなかいない。カメラが回っていようがいまいが、俳優・市原隼人はいつだって全身全霊だ。

忘れられない先生は?

「どの先生も、みんな愛情をもってくださったと感じています。たくさん怒られて、たくさん褒めていただきました(笑)」 

 ぶっちゃけ、けっこうやんちゃだった?

そうですね(笑)。トム・ソーヤみたいに、とりあえず冒険に出たいという探求心と好奇心の塊でしたから。教師にとって印象的な生徒だったかはわかりませんが、僕は本当に手を焼く子どもだったと思うので……いい印象だといいんですが(笑)


衣装協力/73r