いま、日本でもっとも勢いのあるYouTuber、コムドットをご存知だろうか。
2018年10月「地元ノリを全国に」をスローガンに掲げ、やまと(23)・ひゅうが(23)・ゆうた(23)・あむぎり(23)・ゆうま(23)の幼馴染5人組で結成され、現在では登録者数338万人(5月8日現在)を誇る人気の男性YouTuberグループだ。今や若者たちのカリスマとなった彼らはYouTubeというプラットフォームの垣根を超え、さまざまなメディアに活躍の場を広げ、世間の話題をさらっている。
2020年8月にリーダー・やまとが上梓した初エッセイ本『聖域』は累計発行部数40万部のべストセラー、2021年12月に発売した『コムドット写真集 TRACE』は30万部超の売り上げ。歴代男性写真集1位の記録を塗り替えた。
今年に入ってからもその勢いは止まらない。3月に国内最大級のファッションイベント『第34回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2022 SPRING/SUMMER』に登場。4月に女性誌『ViVi』が新たなプロジェクトとして、ムック本『ViVi men まるごと1冊コムドット』を発売すれば、予約が殺到し発売前から重版がかかった。『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ系)で地上波テレビ出演も果たしている。
コムドットはどのようにして日本中のファンを熱狂させるトップYouTuberに成り上がったのか──。
YouTube作家の肩書きをもち、ヒカキンや東海オンエア、ヒカルなど数多くの大物クリエイターの企画を手がける『株式会社こす.くま』代表取締役のすのはら、たけちまるぽこの両氏に、コムドットについて解説・分析してもらった。若くてヤンチャなイケメン集団……そんな外野のイメージからは想像もつかないほど緻密な“戦略”がそこにあった。
メンバー全員のインスタフォロワー100万人超! 地元ノリを全国に
まずコムドットとはどのようなグループなのか。彼らには他のYouTuberとは異なる、これまでにない特性をもっているようで、
「『地元ノリを全国に』と謳っているように、撮影場所が地元(場所については明言していない)中心なのが特徴です。メンバー以外の地元の友人とも遊んでいる様子や地元トークものが主軸なのですが、高いトーク力と構成の面白さで爆発的人気を博しています。
また、メンバー全員のインスタアカウントのフォロワーが100万人を超すなど、グループでありながら、個々がこれほど人気を持っているというのもかなり珍しい。ファン層についても、男女差はそこまでないように感じますね。メンバーのゆうたさんのファッションを真似する男子学生も増えるなど、男性人気も高い。若者を中心に、“好き”というよりは“憧れ”に近い存在なのだと思います」(すのはら氏)
YouTubeでなくTikTokでバズらせた『ラファエル野球拳』
《【宣戦布告】全YouTuberに告ぐ コムドットが通るから道をあけろ 俺らが日本を獲る》
2020年12月、Twitterでリーダーのやまとが出した宣言が、ネット界隈で大きな波紋を呼んだ。その時点での登録者数は52万人だったが、2021年3月には登録者数100万人を達成。同年6月に200万人、12月には300万人を突破。半年ごとに100万人の登録者を増やすなど、爆発的な伸びをみせ、“YouTube界の革命児”と称されるように。
しかし、自身で“底辺YouTuber時代があった”と語るように、はじめはチャンネル登録者数の伸び悩みを経験したという。試行錯誤をくり返すなかで、ブレイクスルーのきっかけとなったのが『TikTok(ティックトック)』。意外なことに、別のSNSだった。
「コムドットはTikTokがまだ今ほど浸透していないころに、それをうまく活用して登録者数を伸ばした最初のYouTuberでしょう。初期のコムドットがYouTube上にアップしていた定番企画のなかに『ラファエル野球拳』というものがあります。YouTuber・ラファエルさんの“偏見に満ちたあるあるを言う”というお決まりの挨拶をメンバーが即興で披露するという大喜利的な人気企画ですが、彼らはそれらを切り抜き、TikTokにも転載していたんです。
TikTokは新規アップロードされた投稿がユーザーに“おすすめ”される仕様になっているのですが、そのなかにあって“偏見あるある”というジャンルは『面白い』と感じる人、『嫌な気持ちになる』人もいて賛否両論を生み、コメント欄が盛り上がる。TikTokはコメント数が増えるごとに、ユーザーに表示されやすくなるというアルゴリズムももっています。彼らはそれを意識したうえで意図的に“偏見”をアップし、『名前はわからないけれどこの人たち最近よく見るな』という認知を集めていったと思われます。やまとさんがTwitterで『道を開けろ』と発言していたのも、あえて賛否を呼ぶことで認知を獲りにいったかたちでしょう」(たけち氏)
えびすじゃっぷとの対談で語っていた“戦略”
自分たちの存在を知らしめたあと、どのようにしてファンを獲得していったのか。こちらについてもこれまでにない珍しい試みをしていたようで、
「複数のYouTuberとのコラボを同時期に行い、相手方のチャンネルで一気に露出を増やしていきました。TikTokでなんとなく見かけた人たちに『いつも見ているYouTuberの動画に出てきたぞ?』と興味を抱かせ、自分たちのチャンネルへと誘導。動画の面白さで登録者数を増やしたというのが初期の戦略でしょう」(すのはら氏)
動画再生数のアベレージが常に高いというのもコムドットを語るうえで外せない要素のひとつ。2021年以降、メインチャンネルにアップされた動画はすべて100万回再生を超えている。なかには1000万回目前の動画も。彼らの動画がここまで支持される理由とは?
「初期のころは他のYouTuberと同じような“面白い企画”を配信していましたが、今では企画そのものよりも、仲良しメンバーの関係性や目標に向かってゆく姿などが垣間見える“日常”を切り取って動画にしているといったイメージでしょうか。いわゆる『プロセスエコノミー』に近い」(すのはら氏)
『日常を切り取り動画にする』とはどういうことか。
「最近の例をひとつ。メンバーのなかで『ミニストップ』の『なめらかプリンパフェ』というスイーツを食べることがブームになり、インスタのストーリーズで日々『美味しい』と発信していた時期がありました。その影響もあったのかはわかりませんが、同じタイミングで“売り切れ続出”してしまったんです。すると彼らは、チームに分かれて、ドライブをしてプリンパフェを探しに行こう! といった内容で動画を出した。そういった日常生活の延長を企画に落とし込んだコンテンツがファンにウケています」(たけち氏)
彼らがアップする動画の1本あたりの分数が“長尺”なことについても触れたい。2022年4月中にアップロードされた動画を見ても、短いもので32分、最長のものは1時間28分と、他のYouTuberと比較してもかなりの長編だ。
その理由についてリーダーのやまとは先輩YouTuber『Evisjap /えびすじゃっぷ』のチャンネルでリーダーのフジと対談し、このように語っている。
《他のYouTuberを見る隙を与えないほど自分達の動画で生活を埋め尽くしたい。それこそ、YouTuberはあんま知らないけどコムドットはめちゃくちゃ見てる、みたいな人をたくさん生み出したくて。動画を長くすることで“おすすめに”載りやすくなって結果的に再生回数もとれるし、多くの人に生活の一部にしてもらうみたいな》
意識的にコンテンツを長尺にするという戦略もYouTube市場とうまく噛み合っているとすのはら氏。
「現在のYoutubeのアルゴリズムでは視聴者の総再生時間を多く積み上げたチャンネルほど、優良なコンテンツと判断され“おすすめ”の欄に上がりやすくなる。結果として再生数も伸びる仕組みがあります。
今やコムドットには固定ファンが何百万人もいます。“どんなに長い動画を出しても最後まで見てくれる層”を獲得できたことが彼らの勝因だと思いますね。そのファンがチャンネルの総再生時間の積み上げをしてくれるので、新規ユーザーにも“おすすめ”されるかたちでリーチできる。その繰り返しの状態に入っています」
国民的スター・嵐のようなグループに
動画のおもしろさを認知させ、ファンを獲得する。しかしながら、そこから熱狂的なコムドットフリークに至らせるまで、視聴者の心を掴むことは決して容易ではない。メンバーはYouTube以外のSNSでも自己発信し、ファンが多層的に楽しめるよう全力を傾けているという。それは、ファンが日常的にコムドットを応援したくなる仕組みにもなっていて──。
「YouTubeの動画内でインスタグラムのストーリーズ画面を差し込んだり、逆にインスタグラムのストーリーズでは撮影時間外に遊んでいる様子をあげたり、動画編集中の裏側を載せたりと、ファンが喜ぶことをメンバー全員で徹底して行っている印象があります。
インスタグラムで日常を覗き見し、さらにTikTokやTwitterも全部見たうえでYouTubeの動画をより楽しめる。YouTubeチャンネルのファンというよりも、コムドットというチームやメンバーのファンを作るための工夫を細やかにやっている印象ですね。YouTubeは事業の一環であり、グループを広く知ってもらうための集客ツールなのだと思います」(すのはら氏)
今ではYouTuberが『UUUM(ウーム)』『Kiii(キー)』といったマネジメント事務所に所属するケースも多いが、コムドットはやまとが社長を務める個人事務所を設立。アパレルブランド『Birdog(バードック)』も開始。事業は多岐に渡る。彼らの今後について予測してもらった。
「ここ最近、テレビ出演や雑誌の表紙を飾るなど、メディア露出が増えていますが、これもTikTokで認知を高めてきたように、テレビ・雑誌を見る層に向けての発信。新たなファンを獲得しようとしているのだと思います。
コムドットはジャニーズでいうところの嵐のような、“国民的スター”の枠を狙っていると考えられます。常にあらゆる市場を分析し、戦略を立てているんじゃないかなと。コムドットは自らを“革命児”とたとえていますが、まさにその通りだと感じますね。これからの活動も非常に楽しみです」(すのはら氏)
コムドットは売れるべくして売れたのだ。
こす.くまが選ぶ! コムドットおすすめ動画3選
1.「編集合宿」
コムドットを象徴する企画のひとつ。動画の納期直近に泊まりがけで編集をしよう!とひたすら編集をしている様子の動画で、再生数も安定的に高い。
「視聴者に“裏ではこんなに頑張っているんだよ”とさらけ出すことで、ファンも応援したくなるのが人気企画の秘訣でしょう」(すのはら氏)
2.「24時間逆鬼ごっこ」
日常系の動画が多いコムドットのなかでは珍しい手の込んだ大型企画。原宿や吉祥寺といった繁華街を舞台に鬼ごっこの鬼と逃げる人の数を逆転させてみせた。最後まで逃げ切った者には優勝賞金300万円が与えられる。
「動画見てもらうとわかりますが、シンプルにクオリティが高く、新規の人でもつい見てしまう仕上がりに。純粋に面白いものを作る力があることを見せつけられるというか、“コンテンツでもこれだけ勝負できるんだぜ”という気概が伝わってくるような気がして……。彼らの幅の広さがわかります」(たけち氏)
3. チャンネル登録者数運動会
スカイピースとのコラボ企画。次世代の人気YouTuberたちが結集し、赤組と白組に分かれて大運動会を繰り広げた。赤組のリーダーをコムドットが務め、平成フラミンゴ・ばんばんざい・きりたんぽ・とうあ、白組のリーダーはスカイピース、ジュキヤ・夜のひと笑い・くれいじーまぐねっと・中町兄妹が参戦。1ヶ月間のチャンネル登録者の伸びを競う要素もあり、その得点を合わせて勝者を決めた。
「企画としての面白さはもちろん、参加したYouTuberの登録者数も増えますし、参加者全員にメリットがある仕組みを作るのがとても上手な印象です。コラボして互いのチャンネルで動画をあげるのは一般的ですが、長期間にわたってコラボを継続するという試みは他に例を見ません。これは彼らの発明でしょう」(すのはら氏)
こす.くま(Kosu.Kuma)
すのはら・たけちまるぽこによるYouTube作家チーム。個人、企業を問わず、YouTubeチャンネル運営におけるブランディング・企画制作・マーケティング支援を行っている。制作協力した動画に『ウ”ィ”エ” ヒカキンVer.(HikakinTV)』、『この動画は再生回数0回を目指します。(東海オンエア)』、『泥酔したら即帰宅「地獄の48時間」ネクステ初旅行(ヒカル)』などがある。