5月5日放送の『これが定番!世代別ベストソング ミュージックジェネレーション』(フジテレビ系)が物議を醸している。タイトルの通りに令和、平成、昭和の3世代の定番ソングをカテゴリー別に選出する番組なのだが、ここで選ばれた“昭和の名曲”に違和感を持たれたようだ。
問題視されたのが、【ウェディングソング】として「46歳〜」世代が選出した8曲のうち、『関白宣言』が流れた時だった。これに「〜25歳」世代として出演した藤田ニコル、乃木坂46メンバー・林瑠奈と弓木奈於から「え!? 嫌、ムリムリ」とブーイングが起きたのだった。
『関白宣言』といえば、1979年にリリースしたさだまさしの代表曲の1つで、各局の昭和の名曲特集などでも使われる定番だ。例外なく『世代別ベストソング』でも、
《俺より先に寝てはいけない 俺より後に起きてもいけない めしは上手く作れ いつもきれいでいろ》
お馴染みの歌詞が流れたのだが、この一見“亭主関白”を押し付けるような歌に令和世代がドン引き。ネット上でも是非をめぐる論争が起き、トレンド入りする勢いに。
初めての人はモラハラに聴こえる
「たしかに、途中まで聴くと“モラハラ”ソングですね」と、苦笑いするのは芸能ジャーナリストの佐々木博之氏。
「歌の最後まで聴けば、奥さんとして迎える女性への深い愛情が汲み取れる曲ですが、よくテレビ番組で使われるのは最初のフレーズ。その部分だけを初めて聴いたら、若い女性でなくとも、現代社会においてモラルハラスメントとして受け止められるかも」
実は、この『関白宣言』論争は何も令和だから起きたのではなく、リリースされた昭和でも指摘する声があったようだ。
「当時も時代錯誤だった部分もあり、“亭主関白”はいい意味で捉えられることは少なく、むしろ“ウチの旦那は亭主関白だから”などと揶揄されるように。“恐妻家”という言葉が出てきたのもこの辺りだったと思います。
もちろん、さださんもそれを承知の上での楽曲発表で、歌手としての矜持だったのでしょう。後にシャレを効かせた『関白失脚』(1994年)を出したのは、批判に対する“アンサーソング”ではないでしょうか」(佐々木氏)
あんな若い子たちにあんな歌
『世代別ベストソング』では、ニコルら若者世代をさらにドン引きさせた“名曲”も登場。同じく昭和世代が【女性アイドルソング】カテゴリーで選出した『セーラー服を脱がさないで』だ。
《セーラー服を脱がさないで 今はダメよ 我慢なさって セーラー服を脱がさないで 嫌よダメよ こんなところじゃ》
1985年から放送がスタートした、『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系)内で歌われていた『おニャン子クラブ』を象徴する歌。秋元康が書いた過激な歌詞に対し、「なんかすごい歌なんですけど…」「あんな若い子にたちにあんな歌…」とショックを隠せないニコルら。
『乃木坂46』『欅坂46』『AKB48』の歌を選出した令和世代にしてみれば、同じプロデューサーが手がけた歌とは思ってもみないだろう。
ちなみに乃木坂46は、2020年9月放送の『THE MUSIC DAY』(日本テレビ系)にて『セーラー服を脱がさないで』を披露したことがある。際どい歌詞の部分はコラボ参加した元おニャン子メンバー・新田恵利らが歌唱したものの、やはりネット上では歌そのものに“女性蔑視”などと指摘する声が上がったのだった。
前出の佐々木氏も「これはさすがに、アウトと言わざるを得ない」と笑うしかない。
「そもそも、当時は芸能人のベッド流出写真などを“ニャンニャン写真”とも称したわけで、今考えれば番組名からしてマズイ(苦笑)。ただ、おニャン子以前より性を連想させる歌は多くありましたし、番組も然り。それがウケていた時代でもありました」
たしかに冷ややかな目でVTRを見るニコルらを尻目に、「懐かしいな〜、高校生に戻っちゃうよ」などと嬉々として食いついていた『さまぁ〜ず』らオジサン。彼らはなぜ、令和世代が引いていたのかすらわかってないかもしれない。
たとえば新入社員歓迎会でカラオケに行ったとして、オジサン上司が若い女性社員に“これ歌ってよ”と他意なく要求して、セクハラを指摘されてもおかしくはない。そんな歌には“ミュージックジェネレーション”という名目だけでは到底受け入れられない、世代間ギャップが潜んでいる。
昭和の名曲が放送できない
特に放送内容において、近年は視聴者やネットユーザーからの“監視”の目が厳しく向けられがちなテレビ局。『関白宣言』や『セーラー服を脱がさないで』のような、モラハラ・セクハラとも捉えかねない、炎上しかねない歌を放送することは問題ないと言えるのだろうか。
「各局にはリスク管理、コンプライアンス委員会などの機関も設置されていて、特に差別的な内容や表現の有無に関しては厳しくチェック、指導が入っているそうです。ただ、昔の歌の歌詞で炎上するとは思いもしないでしょうし、そこ(放送するの)は制作現場の判断になっていると思います。
ただ、ネットの声に敏感になっている局も多く、たとえ少数でも批判の声に火がつけば大炎上する恐れもあり、大切なスポンサーに迷惑がかかることも。もしかしたら今後、取り残されたような昭和の名曲が放送できない時代が来るかもしれません」(佐々木氏)
時代を超えて愛される名曲といえども、時代の流れには逆らえないのか。