ニュース討論番組に出演するマルガリータ・シモニャン氏(RUTUBEより引用)

 開戦より2か月が経過したロシアのウクライナ侵攻。

 当初、圧倒的優勢と見られていたロシアが大苦戦しているが、ウクライナ東部に再攻勢を仕掛け、戦況は泥沼化の様相を呈している。

 正確な数は不明なものの、ロシア側の戦死者は1万5千人にものぼるという見方があり、さらにイギリス政府は“ロシア軍は投入した陸上戦力の4分の1以上を損失した”と発表している。

「また、ロシア軍の将軍クラスの指揮官9人程度が戦死させられたものと見られます。
さらに4月13日、ロシア黒海艦隊の旗艦『モスクワ』が沈没しているのです。ウクライナのミサイル攻撃によるものと見られ、ロシア首都の名前をつけた戦艦の沈没にプーチン大統領は激怒したという情報もあります」(通信社記者)

ロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領。2017年にナショナルジオグラフィックが放送したインタビュー番組『プーチン大統領が語る世界』より

 このように日に日に増える“屈辱的”なニュースに、ロシアメディアも苛立ちを強めているようだ。

 テレビメディアのほとんどが政府や国営企業の影響下にあるロシアでは、報道も戦争支持一色となっている。

「ウクライナはネオナチスが牛耳っており、ロシア軍は、その“ネオナチ”からウクライナを解放するために戦っているというのがロシアの大義名分ですが、ニュース番組では、この筋書きに沿ったニュースが日々報じられています。現在一般市民に多くの死者が出ており、悲惨な包囲戦が行われているマリウポリ市も、ロシアのテレビによると“ネオナチが非戦闘員の市民を人質にとっている”ということになるのです。また討論番組では、コメンテーターが“この戦争に反対する奴らは強制収容所で再教育しろ”と言い放つなど過激な意見が飛び交っています」(ロシア在住経験のあるジャーナリスト)

ウクライナを罵倒する女性コメンテーター

 そんな“好戦的”女性コメンテーターの一人として国際的ににわかに注目を集めているのが、マルガリータ・シモニャン氏だ。

 彼女は42歳。ロシアの国外向けのテレビネットワークである『RT』の編集長。ただのテレビウーマンではなく、ロシア保守派の論客の一人であり、数々の報道系テレビ番組に出演している。彼女のテレビでの発言の数々を紹介しよう(抜粋要約あり)。

『そのウクライナのナチスは、彼らの民族性に基づいて子どもたちの目を引き抜く準備ができている』(3月26日テレビ番組で)

『私たちはウクライナと戦っているのではないことを理解する必要があります。我々は巨大な武装した敵と戦っているのです。ウクライナじゃないんだ! NATOだ!』(4月14日テレビ番組で)

ニュース討論番組に出演するマルガリータ・シモニャン氏(RUTUBEより)

『マリウポリの街を復興するには“卑劣なモンスター”であるウクライナの捕虜を使うべき』(4月14日テレビ番組で)

『YouTubeを禁止すべきです。そうしないとそこで行われている(反ロシア的な)言動に対抗できない。すべての言論を検閲し、私たち自身のものに置き換えるべきです。10年以上前から(言論の自由が制限された)中国のようになることを夢見ています』(4月17日テレビ番組で)

『(ウクライナとの戦争がエスカレートし)核戦争によってすべてが終わる可能性は高い。恐怖だが、そういうものだと考えている。私たちは皆、いつか死ぬのだ』(4月26日、テレビ番組で)

 シモニャン氏はプーチン大統領のおぼえもめでたく、直接勲章を授与された経歴もある。ウクライナ侵攻を支持する観衆がスタジアムを埋め尽くす光景で衝撃を与えた、ロシアによるクリミア併合8周年イベント(3月18日)でもシモニャン氏はスピーチしており、「ロシアの兵士はウクライナで“悪霊のような汚れたもの”と戦っている」と鼓舞している。

シモニャン氏「核戦争がしたいのか?」

 極め付きはこちらだ。4月末、ロシア領内のベルゴロド市で爆発があったことを受けてのツイッターへの投稿。こちらの爆発の原因ははっきりとしていないが、おそらくシモニャン氏はウクライナ側あるいは西側諸国の工作と判断して、こうつぶやいている。

『あなた達は私たちにどんな選択を迫っているのですかバカども! ウクライナの完全な破壊ですか? それとも核攻撃?』

 このような言葉の数々はプーチン大統領を始めとするロシア政府関係者の意向を“忖度”どころか“拡大解釈”したものに思える。過激な愛国心のなせる技なのかはわからないが、隣国の国民をモンスターや悪霊に例えるなどあまりに“中世的”で私たちの常識とはかけ離れたものであるのは確かだ。3月14日「NO WAR」のプラカードを持ってニュース番組スタジオに乱入し、侵攻反対を訴えた元テレビプロデューサー、マリーナ・オフシャンニコワ氏とは正反対の存在といえるだろう。

「ロシアの独立系調査機関の世論調査で、ウクライナでの軍事作戦を“支持する”との回答が4月の時点で74%だったそうです。この侵攻は依然として高い支持を集めていますが、3月の調査よりは7ポイント下がっているそうです。相次ぐ西側企業の撤退や物価の高騰などでさすがに不満が高まってきているのでしょう」(前出のロシア在住経験のあるジャーナリスト)

 そんな中、“核戦争も仕方ない”というほど煽るシモニャン氏の存在が世論にどんな影響を与えていくのかは注目に値するといえる。願わくば、彼女の“煽り”とは逆方向の「厭戦」の方向に進んでほしいものである。