市販の野菜ジュースの数々

 野菜不足を補うために便利な野菜ジュース。市販の野菜ジュースのパッケージには、「30品目の野菜入り」や「30種類の野菜」などの記載があり、日頃から野菜不足を自覚している人はついつい手が伸びてしまいがち。ところが、厚生労働省が掲げていた「健康作りのための食生活指針」のうちの「1日30品目」はすでに消えたのを知っているだろうか。

実は百害あって一利なしの不健康ジュース!?

野菜ジュースを飲む女性(※画像はイメージです)

 2000年の指針の改正で摂取目標は、1日30品目から「多様な食品で栄養バランスを」に変わった。実際に30品目も食べたら肥満のおそれがあるほか、数字だけがひとり歩きした結果、本来の目標である健康的な食生活に結びつきにくいことが明らかになったのだろう。とはいえ、1日30品目という古い常識に縛られた結果、野菜ジュースに助けを求める人は多い。メーカーの側も、「野菜不足はこれ1本で解決」や「1日分の野菜がとれる」などのキャッチコピーで野菜ジュースの効果を謳う。しかし、本当に野菜ジュースは健康の救世主なのだろうか。

濃縮還元の野菜ジュースは百害あって一利なしです。濃縮還元とは、野菜や果物のジュースの製法で、加熱したり水分を飛ばしたりして濃縮した野菜ペーストを保存し、後から水を加えてジュースの状態にしたもの。栄養はほぼないですね」

 と語るのは食習慣に関する著書も多い、ハタイクリニック院長・西脇俊二医師だ。

「加熱殺菌の際に野菜のビタミンは失われますし、不溶性の食物繊維は除去され、水溶性の食物繊維も加工の過程でほとんどなくなる。

 そもそも、野菜ジュースの原材料はほとんどが輸入品。国内で禁止されている農薬が使われている危険性もあるのです。それでも、輸入した濃縮還元の“ジュースの素”に日本国内で水を加えてジュースにすれば“国内製造品”として販売できるのです」(西脇医師)

ビタミンCの表示が、健康にいいもののように思えるが酸化防止剤だ

 ビタミンが失われ、食物繊維も少ない濃縮還元の野菜ジュース。加工の過程で失われた野菜本来の風味を加えるため、添加物が多く使われていることも多い。例えば、もともと野菜が持っているビタミンではなく、酸化防止剤としての「ビタミンC」が加えられている。

「添加物も多いですから、普通に野菜をとったほうが栄養の面からいっても正解! ビタミンもですが、カルシウムなどの摂取も期待できません。コーラを飲むなら野菜ジュースのほうがまし、というレベルでしょうか」

 と、医学ジャーナリストの植田美津恵さんも語る。

 では、濃縮還元タイプではなく、野菜をそのまま搾ったストレートタイプのジュースならば健康効果が期待できるのか? 

「野菜や果物のジュースは、搾ってすぐに飲まなければ意味がない。なぜなら時間がたつとビタミンがどんどん失われていくからです。その意味では市販の野菜ジュースは嗜好品。健康のためにではなく、味が美味しいから、好きだから飲むものだということです」(西脇医師、以下同)

 なんといちばんよくないのは街で見かけるジューススタンドだという。

西脇医師「スムージーなど何年も飲んでいません」撮影/吉岡竜紀

「いつ搾られたジュースか知りませんが、オーダー時にはミキサーを回して攪拌するだけで、搾りたてではない。搾られてから時間がたってビタミン類が失われているだけではなく、ガラス容器の中でずっと照明が当たっており、ビタミンCが壊れる。中にはハチミツを加えて売っているジュースもありますが、これも水あめを加えた安物のハチミツであれば栄養価は期待できず、ただの糖分。まったく健康によいとは思えません。唯一メリットがあるとしたら、ブドウ糖によるエネルギー補給の意味だけでしょう」

紙パックの野菜ジュースは糖質たっぷり

ジューススタンドの1杯は300~500円。決して安くない

 サラリーマンが朝食代わりに駅のジューススタンドで1杯。こんな光景もむしろ不健康であり、お小遣いの無駄でしかなさそうだ。

 さらにいうと紙パックの野菜ジュース。これには、もっと重要視すべきリスクがあると西脇医師は警告する。

「野菜ジュースの成分表示を見てください。糖質が含まれていますね。野菜には糖質がないと思っている人も多いですが、意外にしっかりと含まれていますよ。特に甘みのある根菜類には糖質がたっぷり。例えば野菜ジュースによく使われるニンジンに多いです」

 ほかにもごぼう、れんこん、たまねぎ、カボチャの糖質には注意が必要だ。

「これらの根菜を煮ると甘くなるのは、糖質がふんだんに含まれるからです。野菜=健康的というイメージは一度捨てましょう。ましてや紙パックジュースには、本来野菜を食べた時に摂取できるビタミンもなく、糖質と、保存料など添加物がたっぷりです

 糖質をとりすぎると肥満や糖尿病などの生活習慣病のリスクが高まるのはもちろん、肥満から高血圧や脂質異常症が発症しやすくなる。200ml紙パックの野菜ジュース1本に含まれる糖質の量が10~20gも含まれる商品もある。ちなみに、茶碗に軽く1杯のごはんの糖質が約55g、6枚切り食パン1枚が約27g。日本人における1日当たりの炭水化物での糖質摂取基準量は320gとなっていることからすると、野菜ジュースの糖質は決して低くない。

 野菜特有のえぐみや苦みを消すために、りんご果汁がブレンドされることも多い。

 野菜ジュースといっても果汁のブレンド比率が高く、なかには70%果汁の商品もある。野菜だけを使用した商品よりも甘く、飲み口がよいので、子どもから高齢者まで人気がある。

 

「果汁ブレンドのジュースはもっとおすすめしません。果物は糖質の固まり。バナナ1本には21・4g、みかん1個には8・8g、いちご10粒には、10・4gの糖質が含まれています。果物に含まれている糖は、果糖、ブドウ糖、蔗糖。その中でも果糖は、もっとも慢性炎症を起こしやすいという研究論文が近年、数多く発表されています

 この慢性炎症によってがん、リウマチ、アトピー、うつ、などあらゆる病気が引き起こされる。

「果物にはビタミン類などが豊富で健康と美容によいといわれていますが、果糖はむしろ万病のもと。その果糖を多く含んだ果汁と野菜のブレンドジュースなら、私は飲みません。健康どころか害にしかならない。野菜ジュースの中には、食塩・砂糖不使用を謳っているものもありますが、これも意味がない。砂糖を使っていなくても、果糖が入っていますから」

「そもそも朝食やサラダの代わりに野菜ジュースを、という発想が本末転倒。健康的とはいえません」(前出・植田さん)

 野菜不足を補い、健康のためと信じて飲んでいるものが実は単なるエネルギー補給でしかなく飲みすぎれば肥満となり、慢性炎症の危険も! まったく残念な話だ。さらに、野菜ジュースより高価なあのドリンクにもいくつか疑問点が……!?

野菜ジュースばかりじゃない酵素ドリンクも気休め!

ドリンクも粉末も活況の「酵素」市場

 健康に関係なさそうなのは手軽な野菜ジュースばかりではない、高額なあのドリンクもだ。通販や健康食品ショップで注目を浴びている酵素関連商品。“酵素ドリンク”や“粉末酵素”といったさまざまな形で売られている。特に酵素ジュースはファスティング(断食)やクレンズ(固形物をとらずジュースだけで過ごす)に使うドリンクとしても人気だ。

 そもそも酵素とはタンパク質だ。人間の身体の中には、摂取した食物を消化して栄養に変える消化酵素、代謝機能や修復、タンパク質やビタミンの合成、毒素の排出など、生命活動や生命維持に欠かせない役割を果たす数多くの酵素が存在する。

 何らか効き目がありそうだが、酵素ドリンクやサプリは美容や健康に有効?

「まず“その酵素は何の酵素なのか?”と聞きたいですね。酵素には多くの種類があり働きがまるで違う。代謝のパートによって必要な酵素が違うのです。でんぷんを分解する酵素はアミラーゼ、タンパク質を分解するのはプロテアーゼ、リパーゼは脂肪を分解する。酵素という物質があるわけではないので、種類は重要ですね」(西脇医師、以下同)

多くの商品が「やせる」と謳っている

 実際、例えば、市販品では、原液酵素、生酵素、国産酵素などの表記はあるが、“何の酵素か”を明記した商品は見当たらない。

 一方で「酵素は加齢とともに減少する」「暴飲暴食、乱れた生活習慣で酵素が大量減少」と不安をあおるような広告も散見される。

「体内にある酵素はそんなに消費されません。ですから、そもそも補充する必要はない。広告の作り手がわかってないんです。酵素はそれ自体が変化するのではなく、Aという物質をBという物質に変えるための触媒として体内で働くものなんですよ」

 その際、酵素が働くための補因子が必要となる。

「この補因子は体内で日々消費されます。例えばタンパク質が分解され、アミノ酸になって代謝され、セロトニン(機嫌よく過ごすための物質)とノルアドレナリン(やる気を出す物質)になる。それを変化させるための酵素と、酵素の働きを促進するための補因子があります」

 補因子は主にビタミンC、B6、鉄、亜鉛を指す。ほかにもあるが主にこの4つだ。これが不足していると酵素の働きが悪くなる。

「先ほどの例で言うと、セロトニンやノルアドレナリンが出なくなるとうつっぽくなる。例えば生理で出血の多い人などは鉄欠乏性貧血になり、補因子の鉄不足で酵素が働かず、うつになる可能性も。もし補充するなら酵素ではなく、補因子です」

 酵素は、生や粉末、サプリやドリンクなどの形で売られている。それらの効果に違いはあるのだろうか。

「どれも特別悪いものでもありませんが、飲むだけで健康増進になるというものでもありません。これで元気になるなら精神的にはいいと思いますが、栄養的な効果はさほど望めないと思いますよ」(前出・植田さん)

 酵素は酵素でも、発酵食品のように分解酵素を含む食品なら健康によいという説も。ただし、基本的には酵素を口から摂取しても、胃腸で分解されるだけだ。

 酵素は基本、タンパク質なので、そのまま酵素として吸収されることはない、と西脇医師も語る。

タンパク質は必ずアミノ酸に分解されますから、酵素としては体内で機能しない。生だろうと、ドリンクタイプだろうと、何の意味もありません。世の中のコラーゲン商品などと一緒ですよ。ドリンクなり食品なりでコラーゲンをとったところで、別にそれがほうれい線に届いて効くわけじゃないでしょう?」

 健康によかれと思って購入した高額の酵素商品が、なんの意味もないものだったとは。イメージ商法に乗せられる前に、基本的な知識を身につけるのが健康への近道なのかもしれない。

西脇 俊二 医師(撮影/吉岡竜紀)

教えてくれた人は……西脇 俊二 医師
●弘前大学医学部卒業。精神科医、精神保健指定医、認定産業医。ハタイクリニック院長。『断糖のすすめ 高血圧、糖尿病が99%治る新・食習慣』(ワニブックス)など著書多数。テレビ出演のほか、ドラマ『僕の歩く道』『相棒』『グッド・ドクター』、映画『ATARU』などの医療監修でも活躍。

<取材・文/ガンガーラ田津美>