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 円安が止まらない。一部の専門家は140~150円台に続伸、との予想も。

「日本は生活に関わるほぼすべてのものを海外からの輸入に頼っています。円安は『円の価値が下がる』ということ。つまり海外の品物を仕入れるにも、こちらが払うお金が全部割高になる。これが、物価が上がる仕組みです」と経済評論家の荻原博子さん。

 円が安くなれば、日本からの輸出品は値頃感が出てどんどん売れ、日本国内は儲かって好景気になる──というのが、これまでの「円安メリット」の筋書きだった。

モノの価格が世界中で高騰

 しかし、生産が海外頼みになった今の状況ではその利点は減り、輸入品の値段がアップするという悪影響だけが残ることに。自国資源が極端に乏しい日本にとって何より影響が大きいのは、石油などのエネルギー資源と食料だ。

「昨年からは世界的な異常気象での不作や新型コロナ流行も重なり、多くのモノの価格が世界中で急上昇。そこにウクライナ・ロシア問題も加わり、価格上昇が勢いづいてしまったんです。

 ならば、国産なら安く買えるのかといえばそれも違う。国内の畜産も、育てるためのエサなどは輸入頼り。円安でそれらの仕入れが高くなれば、やはり値上げせざるをえないのです」(荻原さん、以下同)

 消費者も苦しいが売り手も苦しい。都内を中心に安価な生鮮食品を届けるスーパーマーケットのチェーン、「アキダイ」。秋葉弘道社長はこう語る。

「お客様の懐にお金がいっぱいあって、みんなついてこられるというなら値上げできるかもしれないけどさ、今の状況じゃ、ムリでしょ? うちらもなるべく安く提供したいのが本音。でも次から次へと値上がりが続くんじゃ手の打ちようがないのよ」

「アキダイ」でも、4月後半から輸入ものは軒並み値上がりしている。「マグロ、アスパラ、ベビーコーン、かぼちゃ、グレープフルーツ、バナナ、じゃがいもなどね。マグロは2割増し、1・5倍くらいになっているものもある」

 肉の価格も上がっている。「ミートショック」といわれる輸入牛肉の高騰により、大手牛丼チェーンのすき家、吉野家、松屋も昨年後半から看板メニューを値上げ。そして今回の円安がさらに直撃。

 農畜産業振興機構のデータによると、2021年1月に1キロ687円だったアメリカ産冷凍ばら肉の卸売価格は、2022年1月には1キロ1047円と、ここ1年で1・5倍近く値上がりした。  ブラジル産の鶏肉、アメリカ産の牛タンなども、高くなっている。

「輸入肉は国産よりも安いから、重宝していたのに、ジワジワ高くなっている感じ。カレーに入れる肉も最近は減らしぎみ」と育ち盛りの子どもがいる都内在住の主婦は、これ以上の家計負担はムリと嘆く。

大手牛丼チェーン店も値上げ

「ゼロ金利」で日本はジリ貧

 そもそも、円安はなぜ起こるのか? 

「いちばんの要因は『金利差』。景気をよくするため、国内にたくさんお金を流通させたい日銀がとっている『ゼロ金利政策』が問題なんです

 世界的な新型コロナ大流行が経済に与える悪影響の負担を減らそうと、アメリカをはじめ世界中が採用したのが「ゼロ金利政策」。しかしコロナ禍も3年目に突入し、多くの国々は金利の引き上げに戻りつつある。ところが日本だけは今でも「ゼロ金利」を続けているのだ。

「例えば『金利が高い銀行』と『金利が安い銀行』があったら、誰でも『金利の高いほう』にお金を預けたいですよね。つまり、みんな金利がつかない円を処分して米ドルなどに乗り換えたいと考えるのは当然。円は買い負けして、どんどん安くなります。結局、『ゼロ金利』の政策的な体制が変わらないなら、この流れには歯止めがきかない」

 今まさに「円安」と「世界的な物価高騰」というダブルパンチが、国内でのあらゆる値上げを勢いづけている。

 例えば、日本に輸入される小麦は、政府が買い付けてから国内の製粉会社に配分する仕組みがある。その売り渡し価格が、今年4月からの半年の間、なんと17・3%も引き上げられた。

 これはこれまでで2番目の高水準。おもな産地のアメリカやカナダでの気候不順による不作も影響しているというが、ウクライナ情勢の長期化が予想されるなかでは、10月以降の改善も難しい。

 ロシアとウクライナも世界最大級の小麦生産国。その大穀倉地が、戦争で大きな影響を受けるはめになるのだから、しばらくの間は世界全体で小麦の値上がりは避けられない。日本の小麦価格も当然、上がる。

小麦粉を使うパン、輸入フルーツたっぷりのフルーツサンドも、さらに高級化?

 最近では、中国でのコロナ再流行の影響も。

「穀物系は争奪戦。コロナを封じ込めるために上海をロックダウンしたことで、経済が滞る影響がいわれていますが、実はそのなかで、中国は国民の食糧確保のため、大胆な買い占めに走っている。大豆などは、世界の供給量の51%までが中国に押さえられたという話さえあります」

 需要と供給のバランスが大きく崩れるなか、高騰していく穀物の相場。そこに、すっかり安くなった円で勝負を挑んでいかなければならないのが今の日本だ。

家計はさらに悪化、打つ手はあるのか

 消費支出のなかで、食料費が占める割合を指すのが「エンゲル係数」。2020年にはその割合は24%から26%へと上昇している。収入が大きく増える可能性は少ないのに、支出ばかりがかさむ一方。

「今後値上がりはあっても、値下がりはない。さらに苦しい時代となるのはまちがいない。家計のやりくりも、思いつく限りの工夫が必要でしょう。例えばしばらくはお米を積極的に食べるようにするとか。

 新型コロナで外食が壊滅状態になったことでコメの在庫が積み上がり、今は値段も安い。お茶碗1杯分でも20円くらいですみます。原料の小麦が値上がりしているパンを食べるよりはずっと割安ですから」

 デメリットが多く「悪い円安」と表現される現況。企業も家庭もコストカットの知恵が試される。

監修……荻原博子(おぎわら・ひろこ)●経済ジャーナリスト。経済事務所勤務後、1982年からフリーランスで新聞・経済誌などに連載。マネー分野の記事も多く手がけている。著書に『コロナに負けない!家計引きしめ術』(毎日新聞出版)、『一生お金に困らない お金ベスト100』(ダイヤモンド社)など。

(取材・文/オフィス三銃士)