100円ショップ「DAISO」を運営する大創産業の創業者の矢野博丈氏は、大学卒業後、学生結婚した妻の実家のハマチ養殖業を継ぐが失敗。借金を背負ってしまう。その後9回もの転職を重ね、広島県で荒物、鍋、雑貨を扱う移動販売業に従事。1972年に「矢野商店」と名付け、夫婦で働くことに。
【1】100円均一のビジネスモデルはひょんなことから
「訪れた先で、トラックから商品を降ろし、ベニヤ板に並べて売る。雨が降れば休業という、いわゆる露店のような商売だったそうです。
ある日、開店を待ちわびていたお客様から『これいくら?』と声がかかりましたが、多くの商品があるため、価格表を見なければ即答できません。そのとき、矢野が『100円でええ!』と口にし、これが100円均一というビジネスモデルの始まりだったといわれています。
わかりやすさが功を奏したのか、商売は小さいながらも順調に伸びていきました。『これも100円で買えるの?』と喜んでくれるお客様の笑顔が、矢野商店の原動力となりました」(大創産業・広報担当、以下同)
【2】店舗はなく移動販売からスタート
100円均一での商売は評判を呼び、矢野商店はスーパーマーケットの店頭で催事販売を行うように。大手の総合スーパーからも声がかかり、東京まで出向くこともあった。4トントラックに商品を満載して、広島から10数時間かけて走った。
「商売は順調でしたが、同じことを続けていては、いつかお客様に飽きられるのではないかと、通常の販売とは別に、アイデア商品ばかりを集めたコーナーや、手芸関連の商品だけに絞ったコーナーなどを考え、催事を行いました。
また、独自の自社での商品開発にも乗り出していきました。催事でお客様を集めていたら、あるスーパーから『4階に店を出してみないか?』と誘われ出店したところ、お客が来なかった4階に人が上がってくるように。
このときに、『よい商品を置いていれば、固定の店舗でも売れる』ことがわかり、常設店の展開が始まったのです。それから全国47都道府県へ、ついには海外にまで出店することができました」
【3】“大創”という名前に込めた願い
1970年代の中頃になると、同じように100円均一で商売をするライバル業者が現れる。それでも、品質にこだわる矢野商店の商品は、多くのお客様に評価され、飛ぶように売れていった。
「『年商1億円の大きい会社を創りたい』という思いで、社名を株式会社大創産業に改称したのは1977年です。字画も考慮してつけたそうです。
夫婦で始めた会社でしたが、社員も増えていき、社長の家でみんなでごはんを食べる家族のような生活でした。年商1億円を達成することができ、今年で50周年を迎えました。
最近では店舗数が伸びていることもあり、コロナ禍でも売り上げを伸ばしてきました。2021年度は今年の2月までで5493億円の売上高です。
衛生関連の製品の売れ行きがいいのも好調の理由です。さらに昨年はネットストアもスタートし、店舗に行かなくても商品が買えるようになりました」
【4】銀座に旗艦店をオープン
4月15日には、銀座という日本の一等地のマロニエゲート銀座店にオープン。暮らしを楽しくするアイデアあふれる生活必需品を誇る「DAISO」、国内生産者と生活者をつなぐサステナブルな品ぞろえの「Standard Products」、トレンドカラーで暮らしに彩りを添える新装「THREEPPY」の3ブランドが同じフロアに集結した、大創産業として世界初の取り組みだ。
「『DAISO』は、おうち時間が増えたことを意識してDIY関連の商品を新たに開発し、キャンプや釣り、レジャー関係の商品も増やしていきます。
『THREEPPY』は大人かわいい商品をそろえ、『Standard Products』は洗練されたデザインで、使い勝手がいい生活雑貨のブランドです。
みなさまの豊かな暮らしに貢献できるよう、銀座から世界へと発信していきます。ワンプライスで買い物や暮らしを支え、世界中をもっとワクワクさせる“欲しい、楽しい、新しい”がテーマです」
【5】ロゴは2019年に変更
DAISOのロゴは、以前はカタカナの「ダイソー」の文字であったが、2019年に変更となり、アルファベットのみに。Aが山のようになっているのが特徴だ。
「スリーアローズという山をイメージし、生活をアップデートしていこうという意味を込めています。カタカナでダイソーと書いたほうが日本ではわかりやすいと思いますが、海外でもブランドを認知してもらうため、アルファベットにしました。
スローガンは『だんぜん!ダイソー』で、だんぜん多い品ぞろえ、だんぜん高いクオリティー、だんぜん楽しいアイテムでお客様に笑顔と豊かな生活を届けてまいります。センスのいいデザインやトレンドも意識して商品開発を行っています。
今年は50周年企画として特別に、日用品増量キャンペーンを行っています。対象商品は、アルコール除菌ウエットシート、不織布マスク、メラミンスポンジ、ベビー用綿棒などの日用品なので、ぜひお試しください」
【6】アメリカで人気の商品はこれ
大創産業は、「DAISO」「Standard Products」「THREEPPY」の3ブランドを合わせて、2022年2月末現在、海外には2296店舗、国内は4042店舗で、世界中で6338店舗がある。
「2001年に台湾店を出店したのが海外初店舗です。アジアではほかに中国、韓国、香港、タイなどに出店。中東ではUAE、サウジアラビアなど。オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、ブラジルにも出店しています。
2022年度はさらに国内外に約500店舗の出店を予定しており、シンガポールにグローバル旗艦店もオープン予定です。商品展開は、海外も日本も基本的に同じですが、国によって売れている商品は異なります。
アメリカでは『アニマルトレーニング箸』が人気で、箸を上手に持てる練習をしたい人が多いようです。ふわっと軽い紙粘土やコットンパフの90枚入りといった商品も人気です」
【7】毎月1200の新商品を開発
新商品の開発は常に行われていて、毎月1200ほど! お店によって人気商品は異なる。商品の入れ替わりや改良が多いため、50年前の創業当初からずっと販売されている商品はない。100円とはいえ、使いやすさや耐久性など、常に進化を続けているのが「DAISO」の商品だ。
「商品は全部で7万6000アイテムぐらいありますが、すべてそろえているお店はなくて、大型店舗でも5万アイテムぐらいです。常にお客様のニーズを察知して、企画、商品化しつつ、昔からある商品も品質をアップしたり、改良したりしています。
プライベートブランドも1980年代から作っています。本来の使い方ではなく、お客様がそれぞれ工夫して使っていただけるのも、当社の商品の魅力です。
例えば、傘立てにラップを入れてラップケースにするなど、SNSや雑誌、テレビなどで紹介されて、お客様独自の使い方が広がります。お客様のアイデアにはいつも驚くばかりです」
数ある店舗のなかでも1600坪ある千葉のギガ船橋店が最も大きく、次いで1000坪の東京・錦糸町店などが続く。来店するお客様の層に合わせて、店舗によって品ぞろえは異なっている。
【8】一番大きい店舗は千葉のギガ船橋店
「消耗品はどのお店でもまんべんなく売れていますが、ソラマチ店、錦糸町店などでは、海外のお客様に日本の和雑貨などが人気でした。扇子や小物、お箸、お寿司のマグネットなどが売れていて、お土産で買われていました。
最近では“推し活”用のグッズもニーズがあります。当社はもともとトラックで移動して特設会場で100円グッズを販売していましたが、50周年記念でそういった企画もできればと考えています」
【9】サステナビリティにも取り組む
SDGs(持続可能な開発目標)は、100円ショップでも推進されている。オープンしたマロニエゲート銀座店は、サステナビリティ拠点として位置づけられている。
「当社は環境配慮型商品を多数展開し、エコな活動を推奨してきました。環境や安心への積極的な取り組み、お客様のより豊かな暮らしに貢献してまいります。
『Standard Products』では、東京都檜原村の間伐材や国産木材を活用したご祝儀袋、メモ帳などの文具商品と、しゃもじ、菜箸などのキッチン用品を発売しています。マロニエゲート銀座店では、店舗の改装にあたって、床材、レジ仕切り板などの資材に環境負荷の少ない材料を選定、活用し、100%リサイクル原料を使用した抗菌仕様の買い物かごを導入しました。
取り扱い商品も環境負荷削減を意識し、植物由来の成分を配合したポリ袋やプラスチックカップ、サトウキビの絞りかすからできる紙皿、フードロス削減につながる保存袋などがあります」
(取材・文/紀和 静)