100歳以上の人たちが住む「ブルーゾーン」の研究でわかったこととは? ジェロントロジーを学ぶTRFのSAMさんが解説します(撮影:皆川 聡)/東洋経済オンライン

 昔と比べると疲れやすくなった気がする。昨日の疲れがひと晩寝てもまだ残っている……。そんな悩みをお持ちの方は多いのではないだろうか。

 60歳を迎えてなお現役ダンサーとして活躍するSAM。そんな彼が初めて加齢による衰えを感じたのは47歳を超えた頃。このままではまずい。もっとずっと踊り続けたい。そこから、自分の体について今まで以上に興味を持つようになったそう。そんなときに出会ったのが「ジェロントロジー(加齢学)」でした。

 新刊『いつまでも動ける。』では、ジェロントロジーの学びをもとに、自身が実践してきた「いつまでも動ける秘訣」をあますことなく披露。本稿では、同書から一部を抜粋し、お届けします。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 ジェロントロジーとは、ひと言でいうと、人間がポジティブに歳をとることを何よりも大切にしている学問です。ギリシャ語の老人(geron)と学問(logy)を組み合わせた言葉で、日本語では加齢学とも訳されます。

 日本では、医学や看護系の大学を中心に、一部の大学で学ばれているようですが、一般的には、まだなじみのない学問でしょう。

商品・サービス・行政の土台に

 一方、欧米では、一般大学の科目としても、とり入れられていることが多いようです。人生100年時代では、どのように人間が年をとるのかを知ることが、あらゆる商品・サービス・行政をつくるうえでの土台となると捉えられているためです。たとえば、建築学などを学ぶ学生も、ジェロントロジーを学んでバリアフリーの設計などに活かしています。

 ジェロントロジーの研究で重視されているキーワードのひとつが「ブルーゾーン」です。

 100歳以上の健康な長寿の人たちがたくさん住んでいる地域のことで、日本では沖縄が知られています。ほかに、イタリアのサルデーニャ島、コスタリカのニコヤ半島、ギリシャのイカリア島、アメリカのロサンゼルス近郊にあるローマリンダが知られています。

 アメリカ人研究者ダン・ビュイトナーが2004年から雑誌「ナショナル・ジオグラフィック」と長寿地域の調査をした結果、発見されたものです。そしてブルーゾーンを研究することで、人間が健康的に生物的な寿命(120歳)近くまで生きられるコツがわかるのではないかと、ジェロントロジーのなかでも重要視されています。

ブルーゾーン研究でわかったこと

 ブルーゾーン研究によってわかった知見は、大きく2つにわけることができます。

 1つめは、健康的な生活習慣を保つこと。とくに運動や食事の習慣がカギとなります。2つめは、こうした健康的な生活習慣を送るコミュニティの一員となること。互いによい刺激を受けたり、生きがいや目標を共有することで、健康的な生活習慣を送りやすくなるのではないかと考えられているのです。

 振り返ってみると、ブルーゾーン研究で注目されていることと、僕が自然に実践してきたことと、重なる部分が多くありました。そのうち、この記事では、運動についてご紹介します。

 運動は、短期間だけがんばっても、その後やめてしまっては意味がありません。ご自身の生活に、運動が習慣として定着するように工夫していきましょう。

■姿勢こそトレーニング

 いま、この文章を読んでいる瞬間、どのような姿勢でしょうか? 背中や肩が丸まっていませんか? もしかすると、寝転がっている方もいるかもしれませんね。

 姿勢を整えることは、一番手軽に始められるトレーニングです。

 本を読むとき、食事のとき、テレビを見ているときなど、ついつい「楽な姿勢」で長時間過ごしてしまう人は多いはず。そこで少し意識して背筋を伸ばすと、それだけで筋力の衰えを防ぐ効果があるのです。

 日本人はどうしても猫背になりがち。歩いているときは胸を張らずに肩を巻いてしまう人、首が前に斜めになって顎を突き出すようになってしまう人が多いようです。

 僕自身も、19歳頃までは巻き肩で、ダンサーの先輩から「お前、猫背だな」と注意されていました。それがコンプレックスで、絶対に猫背を直そうと、常に正しい姿勢を心がけるようになったのです。

 猫背の人は、次の手順で、姿勢を正してみてください。

(1)後ろから肩甲骨を押されるようなイメージで胸を張る

(2)下腹に力を入れる

(3)腰骨(腰椎)を上に引き伸ばす

 正直、最初はつらいです。ですが、この姿勢をキープしていると、次第に筋肉がつき、自然と正しい姿勢の癖がつきます。

■日々の動きを変える

日常生活の動きも大切です。日常生活をキビキビ動くように意識し続けると、キレのある動作になっていきます。布団から出るときもちょっとキビキビ動いてみてください。スッと起きて早足で動いてみるのです。体がキビキビ動くと、頭の回転まで速くなる気がしてきます。そんな姿は、誰からみても健康そのものに見えます。

 姿勢と動きが改善できたら、次は、少しだけ負荷をかけてみましょう。

 たとえば僕は、エレベーターを待っているときなどに、かかとの上げ下げ運動をしてふくらはぎを鍛えます。余裕があるときは、エレベーターを使わずに階段を使ってもよいですね。

 毎日、少しだけ姿勢をよくしてキビキビ動く。ふと気づいたらつま先立ちして、たまには階段も使う。ほんの少しの行動の積み重ねで、体は着実にいい方向へと変わっていきます。

自分の体への興味も大きくなる

 ここまでできるようになれば、自分の体への興味も大きくなっていくでしょうから、日々の生活のなかで自然と体にいい行動を選択するようにもなっているはず。ちょっとした距離なら歩く。テレビを見ながらストレッチをする。そんな日々になっていくのではないでしょうか。

■筋トレにノルマはいらない

「もう少し体を鍛えたい」と感じたとき、ジムで指導を受けながら筋力アップをするのもいいのですが、そのための時間をとれないといった人も多いことでしょう。長く続けるには、日常の生活のなかで鍛えていくことも大切です。

 腕立て伏せ、スクワット、腹筋など、筋トレは器具もいらず、どこでもできます。世の中には運動の本やDVD、講座などがたくさん出ていますし、自分にあったものを選んで続けてみてください。

 ただし、ノルマを強く意識しないこと。ノルマ達成を目標にすると、続かなくなることが多いのです。

 たとえば「1日30回」と決めてしまうと重荷に感じるでしょうし、「今日はやりたくない」と思ったら1回もやらない日ができてしまう。やがて、それが2日、3日になり、気づけばずっとやらないようになってしまう。

 ノルマではなく、癖にする。「今日はやっていない」と気づいたら、1回でもいいのでやる。癖だからやらないでは終われない。1回でも体を動かせば、1回だけで終わることはまずないでしょう。いつのまにか5回、10回と回数が増えているものです。

■継続のコツは無理をしないこと

 運動を続けるためには、無理をしないことが大切です。僕はよりよいダンスを追求するために無理をすることもありましたが、ジェロントロジー視点ではおすすめできません。レベルアップや向上よりも、楽しさを優先して続けることです。

 ハードな動きを1回より、ソフトな動きを2回するほうがいいのです。ほどよいところで止めることができれば、無理なく楽しめるはずです。

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 僕たちの世代はつらいことに慣れるように指導されることが多かったと感じます。

 皆さんのなかにも、学生時代のイメージで「運動はつらいことを乗り越えるものだ」と思い込んでいる人がいるかもしれません。

 しかし、年を重ねてもアクティブに動き続けるためには、そうしたイメージはむしろ悪影響になりかねないのです。

「ちょっと疲れちゃったな」と感じるときは、ペースダウンすることも大切です。

 気持ちが乗らないときの筋トレは本当につらいですよね。僕自身もペースダウンすることはあります。もちろんやる気を出す努力をしていますが、それでも厳しいときは「無理矢理やるものじゃないな」と割り切ります。

 ゆるく、長く、それがジェロントロジーです。


SAM(さむ)
ダンサー、ダンスクリエイター、ジェロントロジスト、美齢学指導員
南カリフォルニア大学デイビススクール ジェロントロジー学科通信教育課程修了。1993年、TRFのメンバーとしてメジャーデビュー。コンサートのステージ構成・演出をはじめ、多数のアーティストの振付、プロデュースを行い、ダンスクリエイターとして活躍中。2016年には一般社団法人ダレデモダンスを設立、代表理事に就任。誰もがダンスに親しみやすい環境を創出し、子供からシニアまで幅広い年代へのダンスの普及と、質の高い指導者の育成、ダンサーの活躍の場の拡大を目指す活動を行っている。最近では、能楽の舞台にダンサーとして初めて出演した。