いつ何時、危ない目に遭うかわからない時代だ。2021年10月には小田急線の車内で無差別殺傷事件が発生した。今年に入ってからも、1月に大学入学共通テストの会場の東大キャンパス付近で無差別殺傷事件が発生。自分の身は自分で護る、そんな意識改革が必要な時代なのかもしれない。
そこで役に立つのがスマートフォンだ。iOS11以降のiPhoneには「緊急SOS」という標準機能が搭載されており、本体右側の電源ボタンと本体左側どちらかのボリュームボタンを同時に長押しすれば警察や救急などの通報先へダイヤルが始まる仕組みになっている。
機種ごとに機能は若干異なるものの、基本的にAndroidには「緊急通報」機能が搭載されている。ロック画面にある「緊急通報」ボタンをタップすれば緊急用の番号入力画面が表示され、ロック解除せずとも居合わせた人が通報できるのである。
代表的な防犯アプリ
防犯用のアプリとして代表的なのは、警視庁公認の「Digi Police」(iOS/Android/無料)だ。アプリを立ち上げると「痴漢撃退」「防犯ブザー」が表示され、「痴漢撃退」をタップすると「痴漢です 助けてください」というメッセージがスマートフォンの画面に表示されて「やめてください」というアナウンスが流れる。「防犯ブザー」をタップすると大音量の防犯ブザーが辺りへ鳴り響く。実際に今年4月、電車内で50代の会社員に痴漢をされていた10代女性がこのアプリを利用し、その会社員が東京都の迷惑防止条例違反などの疑いで逮捕された。
「Digi Police」は、自分の活動地域を登録すると周辺で起こった事件(ひったくりや通り魔など)の最新情報を知らせてくれる。「撃退アラーム-振るだけで鳴る防犯ブザー」(iOS/無料)はスマホを振るだけで「パトカーのサイレン」「女性の悲鳴」といった警告音で不審者を遠ざけることができ、同時に登録しておいた緊急連絡先にメールが送信されるので、危険を家族や友人に知らせることもできる。「防犯アラーム&助けてメール送信(現在地付き)」(Android/無料)も、ほぼ同内容の機能を持つアプリだ。
スマホのライト(懐中電灯)機能を最大出力に設定しておくことでも、威嚇として活用できる。不審者に出くわした際、相手に光を直視させれば、一時的に視力を奪うことが可能。その隙に、そこから即離れればいい。
“女らしさ”の枷を外す!
機能だけではなく物理的な意味で、スマホそのものがあなたを守る武器にもなりうる。子どもや女性などに護身術を指導する「大神拳」師範・生駒大貴さんが考案した「スマホ護身術」は、ここぞというときにスマホを使って不審者に反撃するための技術だ。
ナチュラルグリップ
普段ゲームやSNSをする際の自然な持ち方。握りが弱いのでのどか股間へのアタック向き。
フェンシンググリップ
スマホの左右をつかんだ持ち方。顔、のど、脇腹、股間へのアタック向き。
ミリタリーグリップ
スマホの上部を親指でおさえ、しっかりサイドを握った持ち方。相手の首や肋骨へのアタックなど、もっとも強力な攻撃ができる。
「以前は、みなさんが持っている鍵を用いた護身術を指導していたのですが、スマホが主流になってきた時期、『いつも手にしているものだし、護身にも使えるのではないか』と思って取り入れたんです。
鍵は相手を突き刺すことしかできないし、取り出すのに手間がかかりがち。スマホなら持ち方によっては鈍器のように使うことができます」(生駒さん)
ナイフやフェンシングの剣のような握り方でスマホを持ち、相手の鼻やのど、こめかみにヒットさせる。そうすれば、相手にダメージを与えることができるのだ。さらに、もし相手にスマホを奪われたとしてもロックがかかっているので、個人情報を見られる心配もない。位置情報機能を使えば、GPS機能で相手の居場所を特定できるという利点もある。
とはいえ、とっさに身体が動く女性はなかなかいないだろう。その問題を乗り越えるには、普段からの練習が必要。ミット代わりのクッションを用意し、手にしたスマホで突いたり叩いたりするのだ。
基本、スマホは男性の手の大きさに合わせて作られており、女性の場合はスマホグリップのアクセサリーを付けるとより握りやすくなるかもしれない。
こうした練習を重ねることで、技術の向上だけでなく意識面の改革を図る。つまり、「身を護るためにスマホでもなんでも使って相手に反撃をしていいんだ」と、自らに気づきを与えるのだ。“女らしさ”という名目で、女性たちはずっと「乱暴なことをしてはいけない」と教えられてきた。その枷を外し、「自分の身を護ることこそ第一なんだ」と、練習を通じて身体に覚えさせるのだ。
「まずは自分が助かることを優先しないと、手が出せなくなってしまいます。手を出さず、もし性犯罪に遭ってしまったら、その心の傷は一生続きます。いわば、魂の殺人です」(生駒さん)
護身術を使うシチュエーションはさまざま。特に女性が襲われた場合、強弱の“弱”が“強”に抗うという構図になる。多勢に無勢の場合もあるし、ヨーイドンの合図は街中にはない。とにかく、窮地に陥ったら自分の身と命を守ることのみ考えてほしい。襲われたらそこで打つ手なし……ではないことに気づくべきなのだ。
スマホに固執しなくていい
勘違いしていただきたくないのは、逃げられるときはまず逃げるのが先決ということ。そのほうが安全だし、助かる可能性も高い。剣のようにスマホを持ち、相手に立ち向かえとすすめているわけではない。
「優先順位はちゃんとあります。最優先は逃げることです。逃げられなかったら、とりあえず抵抗しないそぶりを見せる。それでも襲ってきて、命の危険を感じたときに使っていただきたい技術なんです」(生駒さん)
スマホ護身術に固執しないという意味で言えば、スマホ以外のものを手にしてもいい。ヘアクリップや折りたたみ傘、パンプスなども有効だし、そこにある石を取ったほうが早いならそっちのほうがいいだろう。目に入ったものを握る、くらいの意識でいいのだ。
もちろん、人に助けを求めるのもアリ。ただ、真っ正直に「助けてー!」と叫んでも、周囲の人たちから見て見ぬふりをされる可能性がある。
「そういう場合は、『動画撮って!』と声を上げるといいです。今はみんな、SNSに投稿したいものを探しているから、『何かあるのかな?』って人が集まって撮影してくれる。そうしたらもう、犯人は逃げるしかないですよね。
要は、襲われたら恐怖で動けなくなってしまうのではなく、本当はいろんな対処法があると気づいていただくのが、私の教える護身術なんです」(生駒さん)
デジタルの武器でもあり、物理的な武器にもなりうる。スマホ1つあれば、今のままのあなたで身を護ることができる!
教えてくれた人は……生駒大貴さん
●大神拳師範。中学より独学で空手の練習を開始。童顔で細身のためトラブルに巻き込まれながら格闘技とストリートの違いを知り、'91年に大神拳を立ち上げる。ナイフ戦、複数戦などの経験を活かして護身術を指導中。著書『スマホ護身術』はKindleで購入可能。
大神拳:https://ohgamiken.com
Instagram@selfdefense_ohgamiken
<取材・文/寺西ジャジューカ>