持っておくと収入アップや仕事に就くうえで有利になることも多い「資格」。しかし、将来性が期待できない分野の資格を取得しても、ムダになってしまうことも。資格の専門家であるXさんによれば、時代の流れによって「稼げる資格」も大きく変化してきているという。
資格の将来性も見極めよう
「例えば行政書士の書類作成など、パターン化できる仕事は、技術革新によってAIに取って代わられる可能性があります。また、医療事務のように人気で取得者数が多いと、ほかの志望者との差別化がしにくくなることも。今後、電子カルテの導入が進めば効率化され、求人は減っていくのではないでしょうか」(Xさん、以下同)
時代の変化とともに手書き文字に対するこだわりも薄れた。国会でも音声自動認識システムが導入され、速記者による手書きの速記は段階的に廃止する方針だ。賞状やのしなどの文字を書く「賞状技法士」の仕事も減り、印刷が増えている。ここ数年、さまざまな資格が作られているが、今後は消えていく資格も出てくるのかもしれない。そのうえ、長引くコロナ禍で、資格の価値も変わってきている。
また、資格取得には意外とお金がかかる。費用対効果が悪い資格にも要注意だ。
「資格の中には、野菜ソムリエのように受講料に高額の費用がかかったり、登録料、更新料などでジワジワお金がかかるものもあるので、取得前に必ず調べておきましょう。知名度が低い資格も使い勝手が悪いので、お金に換えるのは難しいですよ」
資格のブランド戦略に惑わされないで
食生活アドバイザーや整理収納アドバイザーなどの資格については、あの有名な資格の通信教育講座のCMを見て存在を知った人も多いのではないだろうか。
「芸能人に資格試験を受けさせ、興味をひかせて資格の認知度を上げ、イメージアップを図っているんです。イメージにつられて趣味で取得する分にはいいですが、仕事につなげるのは難しい資格も多い」
芸能人が勉強する姿を見ると前向きな気分になるが、無計画にいろいろ取ろうとするとテキスト代や講座料、受験手数料などの費用がかさむ。
「稼ぐのが目的なら、どんな能力やスキルが必要か考えることが大切です。ムダな努力をしなくてもいいよう、求人情報を調べてみたり、社内で人事評価が上がったり、合格すると資格手当が出るものに絞るべき。戦略的に資格取得を目指しましょう」
人気のわりには社会での需要なし!ニーズが低めな資格
おもしろそうだと思って趣味の延長で取得しても仕事で活かせない資格もある。しっかり稼ぎたい人には不向き。
野菜ソムリエ
費用が高く、これだけでは意味なし!
多くの女性タレントが取得していることで一気に知名度が上がった民間資格。合格するには受講料などが「野菜ソムリエ」で約15万円、「野菜ソムリエプロ」で約32万円がかかるうえ、毎年更新料も必要。この資格が必要という仕事はないので単体で持っていても就職や転職で有利にはならない。ただし、栄養士などの資格と組み合わせればほかの人との差別化ができるかも。
西村知美も取得!
芸能界きっての“資格マニア”西村知美のほか、里田まい、安倍なつみなども取得。芸能人のイメージアップや、家族の食生活などでは活かしどころがあるのかも……。
どんな資格?
野菜にまつわる資格の中で、最も有名。もともとは野菜や果物の幅広い知識を身につけ、その魅力を消費者に伝える役割を果たせるようになるための資格。講座を受講して試験に合格することで資格を得る。
●最低収入目安
月収約12万円(50代)
食生活アドバイザー
飲食業の就業には役立たない
飲食業や食品メーカーなどへの就職に役立つなど、仕事につながることはほぼない。食の総合的な知識は身につくが専門性を高められるわけではないので、専業で活躍する道も険しい。そのわりに、合格率が2級が平均で40%と意外と難関。ただ、比較的知名度が高く、食に関する幅広い知識を得られるので、食関連の資格勉強の入り口としては悪くない。
ローラも取得!
某通信教育の会社のCMで食生活アドバイザーの試験に合格したことが話題に。料理好きだし、体形維持やユーチューブのネタにも十分役立っているよう。
どんな資格?
多様化する現代の食生活を総合的に考える見識を持ち、的確な指導やアドバイスができるようになるための民間資格。資格区分は2級と3級の2つ。栄養と健康や食文化、衛生管理、食品表示、食をとりまく法律や社会問題などの知識が学べる。
整理収納アドバイザー
片づけられる人にはなれても稼ぐのは…
基本となる「整理収納アドバイザー2級」は1日の受講で資格を取ることができるが、ほぼ全員合格する。仕事にも活かせるとのうたい文句はあるが、就業に有利な資格でもなく、独立してやっていけるのはひと握り。整理収納の様子をユーチューブやSNSなどで情報発信するのがうまい人には向いている。
DAIGOも取得!
昨年、妻・北川景子との間に女児が誕生したDAIGO。育児ではあんまり役立っていないようだが、資格を活かして整理収納はしているかも。ただ、今はネットの情報でも十分か……。
どんな資格?
整理収納の考え方を学び、ノウハウを身につける、片づけに関する資格。3級、2級、準1級、1級があるが、「整理収納アドバイザー」と名乗れるのは1級の取得者。
●最低収入目安
家事代行会社で時給1300円前後(40代)
カラーコーディネーター
独立開業でやっていくのは超困難
独立して行う仕事として代表的なのは「パーソナルカラー診断」だが、さまざまな人種がいるアメリカで生まれたもので、肌や瞳の色が大差ない日本人にとっての需要は低い。そのため、カラー系の資格は、色の知識を役立たせるスキルが必要になってくる。理論に基づいた色の知識を得られるので、デザインやアパレル、建築系などでは商品を引き立たせる並べ方など仕事上で役立つメリットも。
篠原ともえも!
改定前の階級「アシスタント・カラーコーディネーター」(3級)を取得。若いころは超個性的だったが「自分の見せ方」が上手なのは今も変わらない。
どんな資格?
ビジネスにも役立つ実践的な色彩の知識を学ぶことができる資格。店舗の演出、コンサルティングなどでも活用できる。現在はアドバンスクラスとスタンダードクラスの2階級。
産業カウンセラー
使いどころがないメンタル系民間資格の代表
資格取得のための受講料が約30万円、民間資格なのに資格登録料がかかるなど、費用が高すぎる。仕事として「産業カウンセラー」に就けるのは主に大手企業となるが、募集が出ることも少ない。もし管理職になったとき、部下との定期面談などでは役立つかも。
どんな資格?
心理学的手法を用いて、仕事や職場で生じるストレスや心の問題に対するカウンセリングをする資格。以前は国の公的資格だったが、2001年度から除外された。
●収入目安
年収200万~300万円未満が24%と最も多い(2009年実施『産業カウンセラーの実態調査』より)
難関のうえ市場は飽和ぎみ!ライバル多め資格
人気の資格は取得者数も多くその分、仕事にあぶれてしまう可能性が。就職や転職で有利にならないものまで!
医療事務
種類が多く、スキルアップにならない
主に病院の受付や会計、診療報酬明細書の作成業務を担当する、女性を中心に人気の職業。しかし資格の種類が多く、難易度もさほど高くないため、ひとくくりにされて特別感がなくなっているのが現状。実は資格がなくても働ける。差別化を狙うなら最難関といわれる「診療報酬請求事務能力認定試験」がおすすめ。
どんな資格?
種類が多く、「医療事務技能審査試験」「診療報酬請求事務能力認定試験」「医療事務管理士技能認定試験」「医療事務認定実務者」の4つが代表的。出題内容や水準はバラバラ。勤務形態は近年の人件費削減のためパートや派遣社員が増えている。
行政書士
難関資格なのにライバル多し!
行政手続きのオンライン化が進んでいるので、今後需要が落ちていくと考えられる。ライバルが多く、行政書士の登録資金が約25万円のほか月会費、登録免許税などがかかるためコスパも悪い。独立開業した場合の収入も二極化しており、メインの仕事にするのは難しい。稼ぎたいなら行政書士の信用を活かしつつ、違うビジネスの展開を。
どんな資格?
主に行政への許可申請が必要なとき、官公署など役所関係に提出する書類を代理人として作成したり、代わりにその申請をしたり、相談業務を行う専門の国家資格。遺言の作成などにも携わる。公務員として長期間勤めれば無試験で資格を得られる制度もある。
通訳案内士
無資格でも通訳ガイド可能になって意味なし!
語学系唯一の国家資格だが、2018年から無資格者も有償で通訳ガイドができるように。スキルの証明にはなるが難関資格なのにメリットは低下し、コロナ禍で外国人観光客も激減。さらに登録や更新時に費用がかかったり、最近では5年ごとの研修が必要。今後は日本文化や地域、アニメに詳しいなど、通訳案内士にも個性が求められている。
小林克也も取得!
大学在学中に今でいう通訳案内士の資格を取得し、通訳ガイドをしていた。日本人でもラジオDJ風にガイドしてもらいたい。
どんな資格?
日本の文化や伝統、生活習慣など幅広い知識を持ち、外国人観光客に付き添い、外国語を用いてガイドを行って報酬を得る。資格があると観光地によっては無料で入場できる。
●最低収入目安
月収約10万円(50代)
“残念な資格”も組み合わせで使える資格に変わる!
今回紹介した“残念な資格”を持っていても落ち込むことはない。ほかの資格や新たなスキルがあればいいのだ。
「別の資格と組み合わせると相乗効果が生まれやすく、オンリーワンの存在になれます。野菜ソムリエの場合なら栄養士と組み合わせれば、野菜に特化した栄養の話題を提供できるようになり、仕事の幅が大きく広がる可能性も」
中でも行政書士に必要な民法などの知識は、ほかの資格とかぶっていることが多く、ダブルライセンス向きだ。登記申請を独占業務とする「司法書士」や不動産取引を行う「宅地建物取引士」、ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士なども相性がいい。1人で多くの業務を提供できると、かなり重宝される。
「行政書士の仕事は機械化や事務手続きの簡素化を受けてだんだん減り続けており、同業者の間での競争が激しくなっています。専門性の高いコンサルティング業務ができるようになれば、企業から信頼してもらいやすくなりますよ」
ライバルが多い仕事では資格を活かしたセルフプロデュースが必要になることも。未経験の職種であれば実務経験者の話を聞いてみるのも手だ。
「行政書士のような難関資格を持っていても今の時代、独立開業の道は険しい。そのためには自分から営業ができるようなコミュニケーション能力を磨いておきましょう」
介護や保育は業界的に稼げない
社会的に意義のある仕事だが、キツいわりに稼げないといわれているのが介護や保育などの福祉のジャンル。
「多少改善されたものの、業界特有の収支構造的に高収入は望めないのが現状です。しかし、資格の組み合わせで転職するときの高付加価値化につながります」
介護職であれば、介護ロボットなど最先端の技術を扱える「スマート介護士」や、高齢者や障碍者の住環境の整備に関わる「福祉住環境コーディネーター」などが、現在はダブルライセンスにおすすめの資格だという。
「英語教育を実施する保育園も増えているので、保育士なら英語の資格を取得するのもいいですね。今後、求められる能力に合った勉強をすることで、稼ぐ力を身につけてみてはいかがでしょうか」
資格に精通しているスペシャリスト。宅地建物取引士など100個以上の資格を取得。