新年度になり、新人研修や異動で初めて会う若者と話す機会も多い。はたして何と言って励ませばいいのか、悩む人も少なくないはずだ。少なくとも、やる気をそぐようなことは避けたいところ。
しかも最近は、人前でほめられたくない、目立ちたくない、埋もれていたい……といった複雑な心理を抱える若者が増えている。
新著『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』の中で、金間大介氏は、今の若者たちのこうした行動原理や心理的特徴を「いい子症候群」と表現している。イノベーションとモチベーションの研究家である著者から見た、若者たちにかけてはいけないNGワードとは。
「もっと勉強しなさい」と言ってはいけない
普段から若者と接する機会のある人は、彼らのやる気を引き出そうといろいろな言葉をかけてきたことだろう。うまくいったと手応えを感じることもあっただろうし、まったく響かなかったと凹んだり、結果的に若者を批判した経験もあるかもしれない。
筆者の経験上、勉強に対するモチベーションを低下させる最良の方法は、今まさに勉強しようとしている人に「もっと勉強しなさい」と言うことだ。これは効果絶大、間違いない。「もう、今からやるところだったのに……なんか逆にやる気なくなった」と切り返された経験をお持ちの方も多いことだろう。
こういったNGワード、実はほかにもたくさんある。たとえば「お、勉強がんばってるね」もそうだ。単に見たままの行動を言葉にしただけなのに、人によってはマイナス効果が働く。同様に、「いつも勉強していてえらいね」、「たくさん勉強していい大学入ろうな」なども、ネガティブ効果を発症する危険性がある。こうなると、勉強しようとしている人に対して、勉強という言葉を使うこと自体がNGなんじゃないかと思えてくる。いや、むしろそう思っておいたほうが無難かもしれない。
もちろん「いつも勉強していてえらいね」をポジティブに受け取る若者もたくさんいる。特に、ほめる側とほめられる側、両者の間に絶対的な安心感と信頼関係がある場合はそうだ。逆に(あなただけではなく)双方にとって信頼関係が醸成されてない状態でこういった言葉をかけるのは、今のいい子症候群の若者にとっては「いじり」か「圧」でしかない。
ちなみに、正の効果を生むかどうかは保証できないものの、負の効果はないだろうとされる言葉としては、「何の科目を勉強しているの?」「目標はどのあたり?」といった問いかけがある。これらは先と同じように勉強に関する言葉ではあるものの、単純な情報のやり取りであるためセーフだ。
ただし、残念な大人はちょっと気を抜くと、この後すぐに「おー!」とか「えらいじゃん」と言ってしまいそうになるので要注意。そんな時は(できれば無表情で)「何か必要なものがあったら言って」と言って(できれば一瞬だけ目を合わせる程度で)立ち去ることをお勧めする。
それ、本当に相手のための言葉ですか
ネガティブ効果を発生させる多くの場合、あなたが発する言葉はあなたのために放っている。そうであるがゆえに、相手にとって妨害電波となる。「自分のためかどうか、そんなの自分ではよくわからない」という人もいるかもしれないが、確認するのは簡単だ。
100%相手のための言動なら、相手がそれをどう受け取ろうとあなたの感情には関係しない。
逆に、相手のリアクションを受けて、もしあなたが残念な気持ちになったとしたら、それは相手に何らかの期待をしていた証拠だ。
前置きがやや長くなったが、今回、「その言葉をかけた瞬間、高確率で若者は引くだろうNGワードワースト5」を考えてみた。以降、単に若者と表現する場合は「いい子症候群の若者」を想定していただきたい。
第5位は、「お互い切磋琢磨できる友人関係を作れ」だ。
友だちとの付き合いが自分を成長させてくれた、と感じる人は多いだろう。これには大きくわけて2つのパターンがあって、1つは部活や、学外におけるクラブ活動などを通して、チーム一丸となって目標を追いかけたパターン。もう1つは、気の合う友だちと昼も夜も一緒に過ごし、くだらない話ばかりしていた関係が、徐々に成熟して一番の相談相手になっているというパターンだ。2つ目は、切磋琢磨というのとは少し違うかもしれないが、なぜか大人が若者相手に語りたくなるのはむしろこちらだろう。いわゆる武勇伝語りというやつである。
もちろん今の若者だって友人関係は大事にしている。だが、その関係が切磋琢磨する状態に昇華することは滅多にない。たとえば部活で、毎日きつい練習に汗を流したとしても、「お前、将来何やりたいの?」と聞くことは稀だし、当然、自ら語って聞かせることも少ない。気恥ずかしさが先に立ち、無難な会話から抜け出すことはない。切磋琢磨する友人関係が欲しいと思っている若者は一定数いるが、決して自分から仕掛けることはない。こういった言動はその場の空気を変えるが、それは今の若者が最も恐れる行為の1つだ。
今の若者に試行錯誤を期待しても…
第4位は「まずはやってみなさい」「できあがったら持ってきて」だ。
この言葉をかける背景には、「若いうちは試行錯誤が必要だ。そうすることでしか自分を成長させることはできない。そうやって自分の型を作っていくことが大事だ」という考えがある。大変すばらしい考えだし、そのとおりだと思う。
しかし、そのとおりと思う言葉を発することが、必ずしも意味を持つとは限らない。「やってみなさい」もしかり。そもそも、今の若者たちは、幼少のころから試行錯誤して成長した経験がないし、これからもそんなものは求めていない。10代になってからも、試行錯誤する前から「何をどうすればいいか」が書かれた“手順”が何かしらの形で与えられる。与えられない場合は、ググればいい。必ず”答え”が載っている。
そういう意味では、極論すれば、もはや日本の若者の辞書からは試行錯誤という言葉は消されているのかもしれない。したがって、「できあがったら持ってきて」と若者に言った後の顛末は次の3パターンに集約される。
1つ目は、どうしていいかわからずに、期限ギリギリになって「よくわかりませんでした」と言ってくるパターン。その間、あなたはとてもジリジリするはめになる。2つ目は、ネットの情報をコピーしてくるパターン。私などは大学で教えている立場上、著作権侵害については目を光らせているつもりだが、残念ながらすべての大学でそうしているわけではないらしい。
3つ目は、同期や友だちに相談するパターン。「みんなでやりました」と言って当たり障りのない結果を持って来る。今の若者は60~80点を取ることは得意だ。いずれにしても、「今のうちに試行錯誤を促そう」というあなたの親心は打ち砕かれる。
(後編に続く)
金間 大介 (かなま だいすけ)Daisuke Kanama
金沢大学融合研究域融合科学系教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授
北海道生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、 東京農業大学准教授、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系准教授、2021年より現職。主な研究分野はイノベーション論、技術経営論、マーケティング論、産学連携等。著書に『イノベーションの動機づけ:アントレプレナーシップとチャレンジ精神の源』(丸善出版)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)など。