ライバー配信者が抱える闇とは……(写真はイメージです)

「最近、ライバーとそのマネジメント事務所とのトラブルの相談が増えています。そのなかには高校生など若年層からの相談も少なくありません」

 そう話すのは、『レイ法律事務所』の舟橋和宏弁護士。レイ法律事務所は芸能界の契約問題に詳しく、問い合わせレベルから数えれば、毎日何かしらライバー関連の相談が持ち込まれるという。

 “ライバー”とは、簡単にいうと、ネット上で“ライブ配信を行う人”のこと。配信アプリでは、ユーザー数が4億人を超える『BIGO LIVE』や『17LIVE』などがあり、『YouTube』『Instagram』果ては『Twitter』などでも動画・写真などの投稿に加えてライブ配信ができるように、様々なところでライブ配信の機会が増えている。

 配信されるライブ動画は、ゲームをプレイするものであったり、料理風景であったり、視聴者からの質問に答え続けるものであったり多岐に渡る。そして視聴者からの“投げ銭”や広告収入など、サイトやアプリによって収益を得るシステムはさまざま。ライブ配信で生計を立てているライバーも少なくない。

 また、ライブ(生配信)のため、動画の編集作業が不要であり、かつ多くの配信アプリは、スマホだけで配信できる設計がなされており、若年層も気軽に始められる。そのこともあり、ライバーは増え続けている。

「ウチに入ると稼げるよ」

人気のライブ配信アプリ『BIGOLIVE』(公式サイトより)

 しかし、舟橋弁護士が言うように、今このライバー界隈でトラブルが増えているというのだ。

芸能人が所属する芸能事務所と同様に、ライバーが所属する“ライバー事務所”というものが存在します。ライバー事務所の主な役割は芸能事務所と同じくマネジメント。動画の内容についてのアドバイスであったり、配信頻度についての助言といったサポートがあります。そのほか、オフィシャルパートナーやオーガナイザーなどとして、公式アカウント発行ができる代理店として活動することもあったりします」(舟橋弁護士、以下同)

 ‘19年の『闇営業問題』に端を発し、芸能界では事務所との契約問題が波紋を呼んだ。ライバー事務所とライバーではどのような問題が起こっているのか。

“ウチに入ると稼げるよ”などと誘われ事務所に入るのですが、特にマネジメントをしてくれない、また金銭面のトラブルが起こる。これらによって事務所との信頼関係が崩れ、ライバーは“やめたい”と思う。相談で最も多いのが、この“やめたい”という相談です。しかし、そこで事務所側が、“契約の縛りがあるからやめられないよ”、“やめるなら何年間は活動できないよ”、“契約の途中でやめるなら違約金が発生するよ”といったことを言い出すのです

契約書はLINEやインスタのメッセージで

 もちろん健全に運営している事務所もあるが、悪徳事務所も少なくないという。

 闇営業が問題になった当時、芸能事務所とタレント間で、“契約書がない”ことが問題に上がった。それはライバー事務所でも……。

ライバーというのは、“新しい職業”であることもあり、事務所に所属する際、契約書などきちんとした書面がないことがすごく多いんですね。ライバー事務所によるスカウト自体も、LINEやInstagramのメッセージで行われていることも多々。契約という大事な話が、それらのメッセージで行われており、書面に残されていない。

 私が見たやり取りを例に出すと、“配信頻度のノルマがあります”、“ノルマを達成しないとこうです”といったことを、LINEで簡単に済ましている。そして“これでよければ返信ください”というような流れですね。報酬なども大事な話ですが、それ以外の負担などについて事前に決めておかなくてはならない話を決めないまま、事務所に所属した形となっているという状況がある。なんとなくなし崩し的に所属が決まっているというケースはよく聞きます」

 ノルマの面で舟橋弁護士が受けた相談から一例を紹介すると、“月60時間配信しなければ罰金”というもの。計算上、毎日2時間必ずというノルマは重いのではないだろうか。

大学生の4割が“投げ銭”経験アリ! 10人に4人の大学生が、ライブ動画の配信者にお金を払ったことがあると回答した 【出典】KIRINZ「2021年大学生“ライブ配信”に関する調査」による

 社会人ではない若年層もお金を稼ぎたいという欲求はあるだろう。そこで気軽に始められるライバーというのはかなり魅力的。しかし事務所側の“大人”とのやり取りが、LINEやSNSとなれば、なかなか親も目が届かない。

 そしてライブ配信をするという行為は、少なからず承認欲求もあるだろう。その気持ちに付け込むように事務所は甘い言葉でスカウトをする。

「スカウトされて、きちんと契約内容を吟味する人もいれば、スカウトされて嬉しいと飛びついてしまう子もいる。事務所が出す条件に盲目的に返事をしてしまって、“所属”となってしまう。配信収入の一部が事務所に入りますから、ライバーさんを抱えれば抱えるほど、事務所にとっては美味しい。

 多くのライバーを抱え、頑張っている事務所ももちろんありますが、十分にマネジメントができていない事務所も多い。下請け的な事務所に仕事を丸投げしているところもあります。ライバー側は、“なんで最初の人たちじゃなくて、違う事務所と話しているんだろう?”なんて状況になることも

 事務所に不信感を抱き、やめたいとなるが……。

たとえば所属する際のLINEのメッセージで、“違約金がありますが、それでもいいですか?”と来て、それに対してOKした。そうなると、契約上は一応成り立ってしまいます

“途中解約が出来ない”、“解約するには違約金がかかる”、“解約後、数年間は活動できない”。ライバー相談者たちの悩み。このような理不尽な言い分は、法律的にまかりとおるのか。

芸能業界における競業避止義務は…

「たとえば、“何年間か活動出来ない”、“同じような仕事は出来ない”といったことは、法的に“競業避止”と言ってよく争いになります。たとえば技術系の開発職にある人が転職する場合、会社で得たノウハウを持って転職します。そこで同じ業種に転職されると他社が元会社で得たノウハウなどで儲かって、元の会社は割を食うといったことがあり得ます。

 そういったことから一定期間競業する会社への転職を禁じるといったことが一般に言う競業避止義務となります。他業種において同様のこういった規制(義務)を設けることが一切ダメ、無効かというと、必ずしも裁判所はそう判断してはいません。もっとも、各報道によりますと、公正取引委員会は、芸能業界における競業避止義務については、『正当な理由が想定できない』として、原則禁止であるとしています。もちろん、仮に一定程度“活動はやめてください”という義務を課してまで守るべき事務所の利益などがあるとすれば、法的に認められる可能性はあります。

 ただ、仮に守るべき事務所の利益があったとしても、例えばそれが何年という長い期間になったり、地域が限定されていなかったり、活動禁止する代償措置がなかったりすると、その制限は妥当ではないとして無効となることが考えられます。最終的には裁判によって決着するという話になります。

 ちなみに、音楽事務所の例ですが、先日、東京地方裁判所において、アーティストが契約解除後6か月の競業避止義務が定められていたケースにおいて、“(2019年当時)この種の条項が無効との一般的な認識が形成されていたという事情は認められない”というあたかも6か月の期間制限は有効と思える判断が出ました。

 個人的には、競業避止義務を課してまで守るべき事務所の利益があるかということもそうですが、それに比して活動できない=収入がなくなるアーティストの受ける不利益の大きさのほうが勝ると考えられますし、公正取引委員会の指摘のとおり、この業界で競業避止という考えはなじまないようにも感じます。また、先ほどの裁判も東京高等裁判所において、その判断が変わる可能性も十分にあります」

ライバーが身を守るためにすべきこと

 違約金については?

「たとえば大規模な企業とのコラボ案件があったとして、そういった仕事を事務所も与えていて、その途中でライバーが仕事をやめる、契約をやめますとなったとします。ライバーとライバー事務所は法律的には“準委任”という関係にある場合があります。この場合は民法の規定上、“いつでも契約解除をしてOK”というものがあります。ただそうは言っても、例えば、事務所に損害を与えるような一定の場合には契約を解除することによって発生する損害を払わなくてはならないという規定があります。事務所の辞め方や予定されていた仕事の内容によっては損害賠償が成り立つ可能性はあります。ただ、注意して欲しいのは、単純に契約書において違約金を定めてあるから、絶対に払わなくてはなりません、とはなりません。違約金を求められたりした場合には、必ず弁護士に相談した方が良いでしょう

 ライバーは自身の身を守るため、どうすればいいのか。

ライバー事務所はやはり、まだ“出来立て”の事務所が少なくありません。顧問弁護士をつけるなど、法的な部分をしっかりやっていこうという事務所も出てきましたが、一方でまったく進めていない事務所があるのも実情です。ライバー事務所に所属することが悪いわけではありませんし、メリットも多くあります。他方でフリーでやることも楽な面もあれば、大変な面もあります。ただ、契約をするにしても、その際、事務所は何をやってくれるのか。そして逆に自分は何をやらなくてはいけないのか。事務所を辞めるときにはどのような制限があるか。対価はどうなるのか。まずこのあたりをきちんとはっきりさせるべきです。

 書面であれデータであってもきちんとした契約書があるかないかも一つの判断材料となります。ライバーからの疑問に対し、ハッキリと答えることもなく信用できないなと感じた時には契約書の確認など含め弁護士に相談をしておくといった対応もあってよいかと思います。」

 若年層も多いライバーは、社会人経験や法律的な知識は薄いだろう。そこに付け込むような“罪”はあってはならない。