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 ノンフィクションライター・大塚玲子さんが教師たちの本音に迫る『先生のホンネ』シリーズ。今回はのテーマは「運動会」。最近の運動会は“見栄え”重視!? 先生たちは運動会にどんな思いを寄せているのでしょうか。

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 運動会の季節です。昔は「運動会」は秋が定番でしたが、最近はこの時期、5月に開催する学校が多くなりました。コロナ禍で規模が縮小されているものの、今の時期はやはり、練習や準備のたけなわでしょう。

 みんな子どものときに経験しているおなじみの学校行事ですが、最近の運動会は、昔とはいろいろ異なる面もあるようです。先生たちは、運動会の練習のためにかなりの時間を割いているのだとか。

 今回のテーマは「先生から見た運動会のウラ事情」。今の運動会はどんなもので、先生たちはどんな準備をしているのか? 6名の先生たちに聞かせてもらいました。

運動会は「9割ダンス」の声も

 いま、運動会のどんなところに手がかかってますか? と尋ねたところ、ほぼすべての先生が口を揃えて「ダンスの練習や準備」をあげました。「運動会は9割ダンス」と言いきった先生もいます。

 さっそく驚きました。運動会というと、徒競走やリレーなどの「かけっこ」がメインで、ソーラン節やダンスなどの「踊り」はおまけのようなイメージを筆者はもっていたのですが、ここから既に古かったようです。

 ダンスの担当をした先生によると、準備はこんな感じで進めるのだとか。

「まずは自分で振り付けや曲を考えて、覚える。次に学年の先生たちにそれを教えて、みんなで踊って覚える。そして『(子どもたちが)いつまでにどこまでを覚える』といった細かい指導計画を立てます。5月の末に運動会があるときは、ゴールデンウィークの間中、ずっとダンスのことを考えています(笑)」(千葉県 公立小学校O先生 40 代)

 さらに、振り付けに合わせて曲を切ったりつないだり、パソコンソフトで音楽を編集する作業もあるのだそう。「最後が盛り上がるようにする」など、工夫やセンスが求められる作業なので、担当の先生は手を抜けないようです。

 振り付けや曲が決まったら、次は子どもたちにダンスを覚えてもらいます。

「ダンスをタブレットで撮影して、それをみんなに休み時間に見せて、覚えてもらったりしています」(神奈川県 公立小学校N先生 50代)

「空き時間はすべてダンスの練習にあて、給食の時間にはダンスの音楽を流して、宿題でダンスを覚えてきてもらうこともあります」(神奈川県 小学校U先生 30代)

 なかなか大変そうです……。もうちょっと簡単なダンスにしてもいいのでは? と思いますが、さらなる難易度を要求する意外な“外野”もいるようです。

「1年生のダンスは、幼稚園の先生から『簡単すぎる』と言われることがあります。『幼稚園のときはあんなに難しいダンスをやらせていたのに……』と残念に思われるみたいです。『今年は言われないように』と奮起して、難易度をあげた年もありました(笑)」(千葉県 公立小学校K先生 30代)

 なんと、運動会のダンスにそんな要望もあるとは……。そんなことを言われたら悔しくて、つい頑張ってしまう先生たちの気持ちもわかりますが、「いいよ、気にしなくて!」と言いたくもなります。

「組体操」でもダンスの要素が増えた、という声もありました。最近はコロナ禍で組体操をやめた学校が多いですが、7、8年前から組体操による事故や怪我の多さが知られるようになり、危険度が高いピラミッドなどのワザをやめ、代わりに隊列変更などダンス的な要素で見せ場をつくる傾向があったのだとか。それはそれで難易度が上がり、練習時間が増えていたようです。

ほかにも動線確認、トイレ掃除

 ダンスの練習のほかに時間がかかるものとしては、「かけっこの並び順」や「競技ごとの入退場」の練習もあげられました。つまり「見栄え」が重視される傾向があるようです。

「5月の運動会は、1年生にとっては入学してすぐなので、他のクラスの子の顔までわからない子もいます。『誰の隣に並ぶ』といってもなかなか覚えられなくて、時間がかかってしまったことがありました」(千葉県 公立小学校K先生 30代)

「学年主任だったときは、種目ごとの入退場の動線を確認するために校庭の図面を起こして『ここから入って、こう進む』といった確認をしていました」(長崎県 元公立中学校Y先生 60代)

 そんな作業もあったとは。たしかに言われてみたら、我々も子どものときに「かけっこの並び順」や「入退場」をさんざん練習したはずですが、すっかり忘れていました。それに子どものころは、先生たちが裏でどんな「お膳立て」をしていたかなんて考えもしなかったものです。

 運動会当日は、会場以外でもいろんな作業が発生します。たとえば「トイレ掃除」や「駐車場の誘導」など。

「教員たちが合間をぬってトイレ掃除をしていましたが、大勢の人が見に来るので大変でした。駐車場の誘導をしているPTAの保護者の人たちもいましたね」(長崎県 元公立中学校Y先生 60代)

 なるほど、筆者もPTAで運動会のトイレ掃除をしたことがありますが、知られざる作業はほかにもいろいろとありました。

 トイレまで土足で入れるよう廊下にシートを敷く。トイレの案内板やタバコ禁止の注意書きをあちこちに設置する。当日は、間違った場所に自転車を停める保護者に注意をする。こういった作業は、学校が保護者に直接ボランティアを募るのがいいように思います。

練習期間は、疲れてしまう子も

 運動会の前は、練習時間以外にも影響が出ていることがわかりました。

「練習期間は、子どもたちが荒れがちです。疲れてしまうせいかトラブルが起きやすくなったり、先生もきつい指導になってしまったりして、教室の雰囲気が悪くなることもあります。でも運動会の練習が終わると、それがピタッとおさまる(苦笑)」(神奈川県 公立小学校U先生 30代)

「低学年の子は特に、練習で疲れちゃうので、いったんお昼寝をさせてから、午後の授業をしたこともあります」(千葉県 公立小学校K先生 30代)

「集団競技の作戦会議にも、意外と時間をとられます。『台風の目』(団体競技)をやるときは誰を中心にするかとか、外側を走る脚の速い子を誰にするかとか、休み時間などに相談しています」(神奈川県 公立小学校U先生 30代)

「高学年の子どもたちが忙しくなります。放送委員は運動会の実況をしたり音楽をかけたりする準備があるし、リレーや応援団の練習がある子もいる。そういうのに疲れて、運動会がいやになってしまう子もいました」(神奈川県 公立小学校N先生 50代)

 なるほど、もちろん運動会の練習を楽しみにする子どもも多いのでしょうが、一方ではこんなふうに疲れてしまう子や、気力がそがれてしまう子どもたちも、少なからずいるのでしょう。

 さらに「運動会の練習が、授業時間を減らしている」という指摘もありました。

「この時期は練習ばかりで、授業が進まなくなるんです。運動会が、他のやるべきことを削っている。消化できるのは体育の授業時間だけです」(神奈川県 公立小学校U先生 30代)

「(運動会の練習で)体育はいっぱいやるので、体育の先生だけは運動会の後、しばらくのんびりできますが、ほかの教科の私たちはやることが溜まって大変です(苦笑)」(長崎県 元公立中学校Y先生 60代)

 運動会の練習で犠牲になっているものも、意外といろいろあったのでした。

コロナで運動会縮小に歓迎の声

 さて、そんな運動会も、この1、2年はコロナで縮小してだいぶ様変わりしています。これについては、歓迎の声が多く聞かれました。

「コロナで『午前中だけ』とか『ダンスと徒競走だけ』という運動会になりました。『このくらいでよかったんだな』というのが、半数以上の教職員の本音だと思います」(神奈川県 公立小学校N先生 50代)

「(縮小された現在の形で)このまま戻らないでほしいです。保護者からは、『学年別の開催になったおかげで自分の子どもがよく見えた』という声もありました」(神奈川県 公立小学校U先生 30代)

「日本の運動会のように、地域のお祭りを兼ねたイベントは外国の学校にはありません。コロナでやっと、ちょうどよくなったのでは」(長崎県 元公立中学校Y先生 60代)

 筆者も、縮小の方向性に賛成です。一日がかりの運動会や、昔から行われてきた騎馬戦などの競技にも懐かしさはありますが、準備や負担、事故の危険などを考えると、ほどほどにとどめたほうがいいように感じます。

 先生たちががんばって準備をして、子どもたちのダンスを披露してくれれば、保護者は「ありがとうございます! すばらしかったです!」とお礼を言うしかありません。内心「そこまでしなくてもいいんだけどな……」と思っていても、まず伝えないものです。

 先生たちは保護者の声をあまり真に受け過ぎず、練習の負担が大きくならない程度に運動会をとどめてくれるといいな、と感じるのでした。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。ノンフィクションライターとして活動し、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。著書は『さよなら、理不尽PTA! ~強制をやめる!PTA改革の手引き』(辰巳出版)、『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(太郎次郎社エディタス)など多数。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。

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