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「女性5人が出る。顔で選んでくれれば1番を取る」夏の参院選に立候補を予定する女性新人の事務所開きにて、応援に訪れたある参院議員がのたまったセリフである。地方議員を中心に女性議員はこのようなハラスメント行為に、日常的にさらされ続け、さまざまな被害を受けているという。内閣府の調査によれば女性議員の約6割にその経験がある。実例を交え、映画界以上に異常な議員の世界を解説する。

町職員からのセクハラメール

 岩手県久慈市市議会議員の山内七恵さん。今年3月、議員の死去に伴う補欠選挙にて初当選した。当選直後からある男性からの執拗なメールに悩まされた。男性は町職員。本名を名乗る形でコンタクトを取ってきた。当初は「ちゃんとしている人」だと思い、「安心していた」。しかし。男性が山内議員に送っていたメールの一部を紹介する。

《ななえちゃん(あえて、山内市議ではなく)》

《この間、○○さんに、8千円でチューしようと言ったら、安いと言われ断られました》

《奥様がおきれいなので、いまだに先生がお求めになるかもしれませんが、そこは上手にこなしてください》(編集部注・山内さんの夫は久慈市長を3期務めた人物)

《旦那様がよく○○食堂で食事をしていると、情報が入っています。ご高齢なので、食事の管理はきちんとされたし。おまけでいいので できれば、私の分も。猫を飼っているそうですが、私は忠犬なので、犬を飼ってみませんか。ワンワン(笑・笑)》

《議員報酬が30万円程でると思いますが、すべて市民に還元(すこしは自分の女磨きや化粧に)するつもりで》

 以上はすべて原文ママ。

「私に限らず女性議員はこういった関係者や有権者からのハラスメント被害に遭っています。今回、私が強く感じたのは、“女性が非常に低く見られている”ことです」(山内議員、以下同)

 実はこの男性、アクセサリーを渡すなど付きまとったとして、5月に逮捕されている。ただし、付きまとったのは山内さんではなく別の女性だ。山内議員へのハラスメント行為を間近で見てきた後援者が振り返る。

「山内さんと“(あの男性は)気をつけよう”と話していたところでした。男性は山内さんの自宅まで訪ねてきたこともあって……。しかも朝の7時です。山内さんは怖がって居留守をし、機転を利かせてご主人が対応しました。警察か町役場に相談したほうがいいと考えていたところを逮捕されて……」

 逮捕がなければ、さらなる被害も考えられる状況だった。投票を盾に何かを要求する“票ハラスメント”もある。

「選挙のために我慢しなければならないというところはあります。泣き寝入りするしかないといいますか……」(山内議員)

議員なんだからハイヒールを履け

『Stand By Women』は、山内議員のようにハラスメント被害に悩む女性議員を支援する団体だ。

「被害で多いのが、街頭演説中のもの。身体を触られる、握手を離してくれない。写真をたくさん撮られて、“送るからLINEを教えて”と執拗につながりを求められたり、握手や撮影を何度も求められたりなど。あとは演説時の罵倒ですね」

 そう話すのは同団体の代表・浜田真里さん。街頭演説は“自分”を認識してもらうために非常に重要だが……。

「私が話を伺った女性議員さんの9割以上は、街頭演説の開催日時をSNSで告知していません。このような被害や待ち伏せされるなどのリスクを恐れ、事後報告にしているのです」(浜田さん、以下同)

 これらの被害は、地方議員がより受けやすいという。

「国会議員の場合は、『公設秘書制度』によって、国のお金で3人の秘書を雇うことができます。そのため街頭演説などの際、候補者・議員を守ることができる。地方議員のほとんどは秘書がいないので、自分で対処しなければいけないのです」

 ハラスメントは同性である女性からも少なくない。

「服装についてはよく聞く話で、ある議員さんが演説の際に長時間立っているのはつらいためスポーツシューズを履いていたら、女性有権者から“議員なのにハイヒールじゃないのはどういうことだ”と怒られたそう。服装や髪型など、ステレオタイプな女性像を求められがちです。

 また、子育てをしている議員さんは、子育て支援の政策を進めようとしていると、“まずは自分の子どもの面倒を見るべきだ”“子どもがかわいそうだから、応援したいけど投票しない”と説教されたそうです」

 前出の山内議員は、以前は“政治家の妻”という立場だったが、そのときも女性からのハラスメントを受けた。

「わざわざ自宅に電話してきて、“あのときの服装はマズいんじゃないの?”と……。また“あなたに政治家の妻、市長の妻が務まるわけがない”という言葉を投げつけられたりしました」(山内議員)

ハラスメントを訴えるのは勇気がいる

 女性議員へのハラスメントは有権者からだけではない。“敵”は議会にもいる。

「昨年末の内閣府の調査結果では、議員へのハラスメントの加害者は有権者と同僚議員からが約半々でした。議会での発言に対し、“こんなこと言うべきじゃない”と説教されたり、議会後に密室で延々と怒られたり。話を聞いていると、民間企業ではありえないような経験を頻繁に聞きます。議会は世間の感覚と大きくズレがある。相談を受けていると、民間企業で考えたら数十年遅れていると感じます。“宴会で裸踊り”なんて現代ではありえないですが、そういったことを聞いたことすらあります」(浜田さん)

 全国市議会議長会の調べによると、市議の年齢層は60~70歳未満が最も割合が高く、“高齢”だ。また、日本は女性議員が非常に少ないといわれる。全国の地方議会で“女性ゼロ”の議会は、調査年によって前後するが全体の2割ほどだ。海外では女性に一定の議席を割り振る『クオータ制』の導入が進んでいる。

「今はあまりにも女性が少ない。半数でなくとも、まずは3割を女性にするなどしていかないと、既存の権力構造は変わらず、ハラスメントが起こる状況は変わらないと思います」

山内七恵(岩手県久慈市市議会議員)

 前出の山内議員も、

票を減らすことにつながるものなので、ハラスメントを訴えることは非常に勇気がいることです。女性議員に限らずですが、“ハラスメントなんて覚悟のうえで議員になるべきだ”とか“政治家はハラスメントが付き物だ”というような古い価値観を変えていきたい。プライベートへの干渉や性的な要求をされる理由なんてどこにもない。若い世代や女性がもっと多く選挙に出てきてもらって変えていかなくてはならないと思います」

 ハラスメント被害の指摘および“なくす”活動を被害者が行っている現状がある。

「ハラスメントをしてくる人は、無自覚な場合も多いです。そのため、それがハラスメント行為だと指摘されない限り、気づかないこともあります。加害行為の指摘は被害をなくすために重要ですが、それを被害者がすることは負担が大きい。だからこそ、周りの人が一緒に“アウト”な行為を加害者に伝えることが必要です。また、各議会でハラスメントに関する政治倫理条例を制定するなど、ルール作りをすることは大きな抑止力になると思います」(浜田さん)