今年の春ドラマも中盤に突入し、佳境を迎えている作品もある。現在放送中の民放ドラマのなかで、最長のシリーズ作品となっているのが『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)だ。
同作は、元ジャニーズ事務所所属で現・株式会社TOKIOの副社長、松岡昌宏(45)演じる女装をした家政夫のミタゾノが、派遣先の家庭・家族の内情をのぞき見し、家にこびりついた“根深い汚れ”をスッキリ落とすために奔走する。第1シーズン開始時は、そのトンデモ設定が話題になったが、第5シーズンまで続く人気シリーズになるとは予想しなかった。
日本の男性アイドルシーンを牽引するジャニーズ事務所所属のタレントは、その華やかな容姿から恋愛ドラマの主演に抜擢されがちだが、時にはミタゾノのようなクセが強い役柄を演じ、高い評価を得るケースも少なくない。そこで今回は、ジャニーズ事務所所属・出身のタレントが演じた“クセ強めのキャラクター”を振り返る。
「ジャニーズタレントが出演しているゴールデンタイムのドラマは、ストーリーの質が高い作品が多い。出演している人たちも、幼いころからあらゆるパフォーマンスのレッスンを受けているからか、演技力が高い人が多いですよね」
端正な顔立ちからの“顔芸”
そう話すのは、週刊女性で『アラフィフヴィジュアル系』を連載中の漫画家・かなつ久美さん。かなつさんは、毎クールすべてのドラマをチェックするほどの“ウォッチャー”でもある。そんな彼女がまっさきに名前を挙げたのが、2021年に芸能界を引退した元TOKIOの長瀬智也(43)だ。
「クセが強めな役を演じるジャニーズと聞いて、長瀬さんを思い浮かべる人はとても多いはず。約10年続いた『白線流し』(1996年・フジテレビ系)では繊細で儚い青年・大河内くんを演じていましたが、近年は『フラジャイル』(2016年・フジテレビ系)の偏屈な病理医役や、『泣くな、はらちゃん』(2013年・日本テレビ系)の漫画から飛び出してきたキャラクター・はらちゃんなど、多種多様な役にトライしてましたよね」
そして、彼の俳優人生を語るうえで欠かせないのが、脚本家・宮藤官九郎とタッグを組んだドラマの数々。かなつさんはもちろん、イケメン評論家の沖直実さんも、長瀬とクドカンのタッグをいつも楽しみにしていたという。
「『池袋ウエストゲートパーク』(2000年・TBS系)の真島マコトは熱い魂を持った若者。でも、それ以降は『タイガー&ドラゴン』(2005年・同)の落語家を目指すヤクザや、犯人ばかりに惚れる刑事を務めた『うぬぼれ刑事』(2010年・同)など、クセが強めの役柄を演じています。昨年放送の『俺の家の話』(2021年・同)では能楽師でプロレスラーと、クドカンワールド全開のキャラクターを毎回みごとに演じていましたよね。端正な顔立ちから繰り出される全力の“顔芸”も、目が離せませんでした」
ありえない設定のキャラにも、リアリティーを感じさせる長瀬の演技は圧巻だった。
長瀬と同様に「演技の振り幅が大きいジャニーズ」として名を連ねたのが、元SMAPの香取慎吾(45)だ。
長瀬智也・香取慎吾はクドカン作品に
「彼が19歳のときに主演を務めた『ドク』(1996年・フジテレビ系)ではベトナム人の留学生・ドクを演じていました。それまでは天真爛漫な若者、というイメージでしたが、ドクではとても繊細な演技をしていましたよね。それにとどまらず『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(2009年・TBS系)の両津勘吉や、『西遊記』(2006年・フジテレビ系)の孫悟空など、アイドルの枠を超えた振り切れた演技がハマっていました」(沖さん)
『西遊記』は、全話の視聴率が20%を超え、大ヒットを記録。子どもから大人まで楽しめる娯楽作品になっていた。そして沖さんは、前出の長瀬と香取の共通点についてこう分析する。
「長瀬さんはクドカン作品、一方の香取さんは『新選組!』(2004年・NHK)など、三谷幸喜作品に多く出演しています。おふたりとも、脚本家に愛されている役者さんですよね。脚本家の『彼ならやってくれるはず』という期待に、しっかり応えてくれる。双方の信頼関係が、作品の魅力につながっているのかもしれません」
ヒット作のカギは、ジャニーズタレントと脚本家の運命の出会いが握っている?
ジャニーズタレントは、現実ではありえない設定の漫画・アニメ原作作品にも多数出演している。かなつさんが「忘れられない」と語るのは、KAT-TUNの亀梨和也が妖怪人間を演じた『妖怪人間ベム』(2011年・日本テレビ系)だ。
「原作のアニメを見ていた世代なので、いったいどんなドラマになるのかまったく予想がつきませんでした。いざドラマを見てみると、亀梨くんの切ない演技から“人間になりたい”というベムの悲哀が伝わってきたし、ストーリーもしっかりしていて、思い出に残っています」(かなつさん)
漫画やアニメの実写化作品は原作ファンの厳しい視線にさらされがちだが、同作はアニメの世界観やテーマをくんだ硬派な作品として高評価を得ている。
絶世の美男子・山田涼介が
そして、若手ジャニーズタレントの登竜門となっているのが、大人気漫画『金田一少年の事件簿』の実写ドラマ(1995年・日本テレビ系)だ。同作は名探偵・金田一耕助の孫である金田一一が難事件を解決する本格ミステリー。これまでKinKi Kidsの堂本剛(43)、嵐の松本潤(38)、亀梨和也、Hey! Say! JUMPの山田涼介(29)など、そうそうたるメンバーが主人公の一を演じてきた。4月からスタートした新シリーズでは、なにわ男子の道枝駿佑(19)が5代目に抜擢され、話題を呼んでいる。
「初代一役の堂本剛くんは、当時まだ15歳で初々しくて輝いていましたよね。剛くんに比べると道枝くんの演技は落ち着いている印象。個人的にはもっと熱のこもった『ジッチャンの名にかけて』を聞きたい気持ちもありますが、演者によって役の解釈が変わるので、見ているほうも楽しいです」(かなつさん)
一方、沖さんは、山田涼介版の『金田一』が印象に残っているという。
「それまで“絶世の美男子”というイメージが強かった山田くんが、下ネタを連発して原作に寄せた役作りをしてましたよね。彼はさまざまな役に挑戦しているので、自分の殻を破ろうという気概を感じます。山田くんはこれから、年齢を重ねるにつれいい意味で“枯れ”が出てくると、さらに味のある役者になりそうです」(沖さん)
山田は現在、『俺の可愛いはもうすぐ消費期限!?』(テレビ朝日系)で本格ラブコメに挑んでいる。彼が演じるのは、生まれながらの愛らしい顔立ちと愛嬌で、仕事や人生を“受け身”で切り抜けてきた主人公が、受け身人生からの脱却を目指すという、これまたクセ強めな役どころ。眉目秀麗な山田が、転身をどう表現するのか楽しみだ。
ドラマを愛するかなつさんには、ジャニーズタレント出演作品ならではの楽しみ方があるという。
「私のようにドラマ漬けの人間にとって、ジャニーズ主演作品は青田買いの場所。一緒に出演するジャニーズJr.の男の子をいち早くチェックできるのが魅力ですね。例えば、亀梨くんが主演を務めた『野ブタ。をプロデュース』(2005年・日本テレビ系)には、当時12歳の中島裕翔くん(Hey! Say! JUMP)が出演していました。小柄でとってもかわいかったあの中島くんが、長身のイケメンに育って主役を張る姿を見るのは感慨深いです。甥っ子の成長を見守る気分が味わえます!」(かなつさん)
発掘した若手ジャニーズが、後に長瀬のような個性派になる可能性も高い。ジャニーズドラマは画面の隅々までチェックするのが鉄則!
沖直実さん 1992年にラジオパーソナリティーとしてデビュー。2004年からイケメン評論家として「沖直実のいい男祭り」を開催。斎藤工、城田優や宮野真守、瀬戸康史などをいち早く見つけて発掘
かなつ久美さん 1990年漫画家デビュー。1999年に『OLヴィジュアル系』が大ヒット。趣味は美容と保護犬ボランティア。最新刊は『もしボクにしっぽがなかったら』(みなみ出版刊)
取材・文/大貫未来(清談社)