「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
松田ゆう姫

第71回 松田ゆう姫

『5時に夢中!』(MXテレビ)水曜コメンテーターの松田ゆう姫の発言が炎上しました。

「誰かに激怒された経験はあるか?」というテーマで話を振られた松田は、オジサンに怒られたエピソードを披露します。友人が歩きタバコをしていたら、オジサンに「路上で歩きタバコを!」と怒鳴られたそうです。「心臓が止まるほどびっくりした」松田は、「そのまま、オジサンのところに行って、“その怒り方はないんじゃないですか?”って怒り返した」そうです。

 歩きタバコを禁止している自治体は多いですし、そうでなくても、喫煙にはマナーや配慮が求められるでしょう。かといって、いきなり怒鳴ってくるオジサンもどうかと思いますし、「やられたらやり返す」とばかりに、わざわざオジサンのところに行って逆切れする松田もいかがなものか。

 登場人物全員ヤバいパターンだと思いますが、それはさておき「炎上の条件」について考えさせられたのでした。ものが燃えるには、「可燃物」「熱」「酸素」が必要だと理科の授業で習った気がしますが、炎上にも同様の3つの条件があるのではないでしょうか。

(1)炎上はタイミング

 松田は過去にも、電車の中でリップを塗っていたら、オジサンに「電車の中で化粧なんてしているんじゃねぇ」「みんなに迷惑かかってるんだよ!」と怒鳴られたことに納得がいかず、オジサンに抗議し、車内の人に「ご迷惑でしたか?」と質問したエピソードを明かしています。「やられたらやり返す」は歩きタバコに限った話ではなく、平常運転というか、そういう性格なのだと思われます。

 しかし、この時はさほど炎上しませんでした。つまり、炎上は必ずしも発言内容によってもたらされるわけではないと言えるのではないでしょうか。ちょうど今は大衆をあ然とさせるような芸能ニュースのないネタ枯れの時期です。こういう“獲物”のいない時は、必要以上に問題発言が注目を集めて、その結果、炎上してしまうのではないでしょうか。

(2)テレビから、怒り役がいなくなっている

 番組内で問題発言があったとき、視聴者の声を代弁するようなツッコミがなされると、印象はだいぶ違ってくると思います。松田の歩きタバコの件で言えば、「先に友達を注意すべきだったんじゃないの?」「やられたらやり返すアンタもどうかと思うわよ」というようなツッコミがあれば、一応のオチがついてそれほど燃えなかったのではないでしょうか。

 しかし、今、テレビの世界から“怒り役”が消えつつあります。『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)でマツコ・デラックスは「若い人に何か言うのは、極力避けている」とし、有吉弘行も同意して「俺、ディレクターがその辺で小便しても何も言わないよ」と冗談をまじえて同意していました。

 毒舌で鳴らした二人ですが、なぜ怒り役から降りたのかといえば、それがパワハラと言われ、イメージが低下する可能性に気づいているからではないでしょうか。

『マツコ&有吉の怒り新党』記者会見('11年10月)

 毒舌キャラは「人に厳しいが、自分にも厳しい。しかし、礼儀は重んじるし、的確なことを言っているので本当の優しさがある」という絶妙なバランスで成り立っていると思います。しかし現代では、自分の表面的な評価だけ気にする人が多くなり、怒り役に対して「あの人は私を悪く言うから、嫌な人」「あの人は若者を叱るから、パワハラ」と、一面的な解釈をする人が増えていると感じます。マツコや有吉のように、人気商売の人にとってマイナスイメージは避けなければなりませんから、怒り役を買って出る人はいなくなるでしょう。

(3)炎上は「何を言うか」より「誰が言うか」

「ヤバいことを言うと、炎上する」と思われがちですが、同じ発言内容でも、その発言者が女性か男性か、またその人のキャラクターや社会的ポジションによって、受け止められ方はずいぶんと違うものなのです。

 例えば、元NHKのフリーアナウンサー・有働由美子は2月11日放送のラジオ番組『うどうのらじお』(ニッポン放送)において、北京五輪スノーボード男子ハープパイプ決勝で、金メダルを獲得した平野歩夢選手に対し、「久しぶりに女心がキュンキュンとしましたね。残り少ないホルモンが出てきたみたいな気持ちになりました」「素晴らしい演技、素晴らしい滑り以上に、いち日本に住むオバチャンのホルモンっていうとやらしいですけど、気持ちまで若返りました」と発言しています。

 自虐の女王、有働サンですから、話を面白くしようとして、サービス精神でホルモン発言をしたのでしょう。しかし、この発言を男性アナウンサーがしたら、どうなるでしょうか。20代の女性アスリートに対し、50代の男性アナウンサーが「久しぶりに男心がキュンキュンとしましたね。残り少ないホルモンが出てきたみたいな気持ちになりました」「素晴らしい演技、素晴らしい滑り以上に、いち日本に住むオジサンのホルモンっていうとやらしいですけど、気持ちまで若返りました」と言ったら、炎上必至ではないでしょうか。

 私はこの発言がセクハラに感じられましたが、特に炎上はしませんでした。そこには国民的アナウンサーと言える有働サンの抜群の好感度、自虐キャラが好意的に解釈されていることと関係していると思います。

「やられたらやり返す」精神は本業でぶつけて

 結果が正しければ、その仮定も正しい、その反対に結果が出ないと、その仮定もすべて間違いと解釈してしまうことは、バイアス(思い込み)の1つで、“信念バイアス”と呼ばれています。つまり、仕事ができたり、社会的成功を収めている人の言うことは、正しいこととして受け止められてしまうわけです。

 私たちは誰もが自分の頭で考えて、物事を冷静に判断していると思いがちです。しかし、実際には多くのバイアスに影響されていることは、心理学が証明しています。

'21年5月、高級天ぷら店を後にする『ウーマンラッシュアワー』の村本大輔と松田ゆう姫

 松田のお父さんはハリウッド進出も果たした名優・松田優作さんです。例えばの話しですが、彼女がハリウッド映画で活躍するような女優であれば、歩きタバコや電車内メイクについて全く同じ発言をしたとしても「世界でやっていくには、あれくらい自己主張が強くなければ無理なのでは?」と好意的に受け止められるのではないでしょうか。

 個人的には、松田のようなキャラもいたほうがテレビは面白くなると思います。ただ、SNSは常に獲物を探していますから、一度炎上すると目をつけられて、今後も炎上する可能性が出てくるでしょう。そんな時は「やられたらやり返す」精神を本業のアーティスト活動にぶつけて、炎上を“芸の肥やし”にしながらさらにパワーアップしてほしいと思います。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」