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 沖縄料理に夢を懸ける主人公・暢子の成長、奮闘を描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』。ドラマの料理監修・制作を務めるオカズデザインさんに、沖縄料理の魅力を聞いた。沖縄そば、ゴーヤーチャンプルー、ラフテー……今でこそ認知度が高く、作ったことのある人も多い沖縄料理が愛され、支持される理由を探った。

沖縄料理の豊かさが魅力

 連続テレビ小説『ちむどんどん』は、沖縄本島北部のやんばる地域で生まれ育ったヒロイン・暢子が、3人のきょうだいたちと共に沖縄本土復帰からの50年を歩んでいく物語。東京、そして鶴見に舞台が移り、料理人として成長していくなかで、沖縄料理をはじめとしたおいしそうなレシピの数々には思わず目が留まる。

 ドラマで料理制作・監修を務めるのは、夫婦で料理ユニットとして活躍する、オカズデザイン(吉岡秀治・知子)さん。おふたりの沖縄料理との出会いはどのようなものだったのだろうか。

「振り返ってみると、僕自身の沖縄料理との出会いは1990年代ぐらい。当時は沖縄料理を出す居酒屋さんが増えてきたころで“なんとなく珍しいから食べてみようか”という感覚でしたね。

 2001年に放送された、沖縄を舞台にした連続テレビ小説『ちゅらさん』以降、沖縄の料理や文化が一気に広まりましたが、それまでは今ほど沖縄料理は普及していなかったような気がします」(秀治さん)

「私は'90年代に何度か沖縄に旅行に行って、そこで沖縄料理に出会いました。実は私たちの新婚旅行も沖縄だったんですが、そのときに現地で食べたものの印象はそこまで強くなくて“お刺身がちょっと色鮮やかだったな”というような、旅先のおいしいものという感覚で触れていました。

 その後、お仕事でも沖縄料理に向き合うことが増えるなかで、多彩な沖縄料理の魅力を再発見していったという感じですね」(知子さん)

 オカズデザインさんが料理の仕事で実際に沖縄料理のレシピを初めて紹介したのは、2012年のことだという。

「料理雑誌のお仕事でゴーヤーチャンプルーとアンダンスーという沖縄の油味噌を作ったのが最初でした。ランチョンミートではなく塩豚を使って作るというのがこだわった部分です。

 ランチョンミートを使うと、その味が強くなりすぎてしまうなと感じていたんです。そうやって考えたレシピは『ちむどんどん』のゴーヤーチャンプルーのベースとなりました」
(知子さん)

ゴーヤーチャンプルー。『ちむどんどんレシピブック』では沖縄料理からイタリア料理まで、えりすぐりの絶品料理のレシピを紹介

「今回のお仕事のお話をいただいた際に、監督さんや脚本家さんと一緒に沖縄に取材に行きました。テーマや大筋は決まっていたのですが、実際に現地で料理を食べたり飲んだりしてストーリーを作るところからご一緒させてもらって“こういう要素を取り入れてはどうか”みたいなアイデア出しなどもしています。

 コロナ禍での準備期間だったこともあり、実際に一般の家庭に伺って沖縄料理をいただくといったことは難しかったですし、料理屋さんなどもお店を閉めているところが多かったですね。そのなかでもいろんなツテをたどって沖縄料理に触れる機会を多く設けていただき、取材を進めていったのも印象的です」(秀治さん)

 取材を通してますます沖縄料理の豊かさに気づいたというおふたり。沖縄料理の魅力はどんなところだろうか。

「独自の気候や歴史的経緯に沿った沖縄料理という文化があって、そのエッセンスを探し出す作業はとても楽しいですね。

 例えば、沖縄には油をしっかり使った料理が多いのですが、それはやはり暑いなかで食材を傷めないようにするといった工夫があるんです。そんな気づきがいくつもあるなかで、沖縄料理の面白さをしっかり表現できればと思っています」(秀治さん)

「日本料理の静かなイメージとはまた違って、食材の大胆な取り合わせや味わいの鮮やかさというのも沖縄料理の魅力だなと思います。

 一方で、調理方法自体は意外にシンプル。台所に長時間立って作るような料理というよりは、新鮮な食材をパパッと調理するようなものが多いです。そういった調理の簡単さも慌ただしい現代のニーズに合っているのかなと思います。これからの季節、夏バテをしたときでも、作って食べて元気になれるようなパワーがありますね」(知子さん)

沖縄料理をさらにおいしくするのは?

 沖縄料理の定番といえば、やはりチャンプルー。もともとは「ごちゃ混ぜにする」といった意味合いの言葉で、『ちむどんどん』のなかにもさまざまなチャンプルー料理が登場する。

「チャンプルーというのはただ炒めるだけではなく、より本質的には“炒め煮”という側面が強いんです。沖縄の食材は軽く炒めただけだと味がなかなか入らないなと感じていたのですが、ラードやだしを使って軽く煮込むことで全体の味がうまくまとまるし、食材に味もしっかり入っていきます。チャンプルーの奥深さをより感じるような発見でしたね」(知子さん)

「もちろんゴーヤーチャンプルーは人気なのですが、豆腐チャンプルーもよく食べられています。昔は夏になると採れる野菜も限られてきて、ゴーヤーかモーウイという赤瓜ぐらいしか出回らない時期もあったようです。そういった季節にはゴーヤーはたくさん食べられるのですが、独特の苦みが苦手だという子どもも多い。

 沖縄の人はみんなゴーヤーが大好きという話でもなくて……やっぱり苦いのが苦手な子も多いんだなっていう、当たり前だけどほほえましいエピソードに触れられたのもよかったです」(秀治さん)

 クランクインから半年がたつなか、『ちむどんどん』の撮影現場にはどのような苦労や楽しみがあるのだろうか。

「私たちの本業はギャラリー兼料理店なのですが、そちらの手を止めて、今はドラマの撮影にかかりっきりになっていますね。特に『ちむどんどん』は料理自体のボリュームも多く、すごくやりがいがあります。画面でアップになる料理だけでなく、エキストラさんが食べる料理なども含まれるので、準備はすごく大がかりです」(秀治さん)

 もちろん、おふたりの役割はドラマに出てくる料理を作るだけにとどまらない。

「役者さんに調理のちょっとした所作をお伝えしたり、料理の流れをチェックしたりということもやりますね。

 撮影スタジオのなかで“実際に調理をしたあとはこうなってるだろうな”とセットをちょっと動かしたり、“実際にはもっと汚れたりするな”と、シンクやまな板を汚してみたり……料理監修の視点からも、より自然なリアリティーを出せるようお手伝いすることも多いです」
(知子さん)

 ただの料理ではなく“暢子の料理”を仕上げていきたいという思いも強いようだ。

「物語に合わせて料理自体を工夫するのも楽しいです。比嘉家は裕福ではなかったので、沖縄そばを出すにしてもお肉があまりのっていないものにしたり、さまざまな調味料が売られていない時代だからこそラードでうまみを出したり……そういった工夫のなかで、暢子の料理はより素直で豊かなものになっていると思います」(秀治さん)

沖縄そば。。『ちむどんどんレシピブック』では沖縄料理からイタリア料理まで、えりすぐりの絶品料理のレシピを紹介

 撮影のなかで、オカズデザインさんが「ちむどんどん」する=(心が高鳴る)瞬間はどんなときだろうか。

「今回の撮影で初めて料理が出てくるのが、子ども時代のチャンプルーでした。水分が出すぎないよう、いちばんおいしく見えるタイミングを見計らうのが意外と難しい料理なのでかなり緊張して臨みました。

 撮影が終わったあと、子役のみんなが“ゴーヤーがとってもおいしかった!”と駆け寄ってきてくれたときには、うれしくて“ちむどんどん”しましたね(笑)」
(知子さん)

 5月27日には『ちむどんどん』に登場する料理のレシピ本も発売された。

「沖縄料理のスローな部分を大事にしつつも、時間がかかりすぎないレシピがたくさん載っています。ドラマの中で暢子が持ち歩く『おいしいものノート』をのぞき見るような気分で手に取っていただけたらうれしいです」(知子さん)

『ちむどんどん』の今後のストーリー展開はもちろん、オカズデザインさんが手がける豊かな料理にもご注目を。

ドラマで見たレシピ満載の一冊。
『ちむどんどんレシピブック』(NHK出版刊、1320円)

 教えてくれたのは…オカズデザインさん ●料理とグラフィックデザインのチーム。代表の吉岡秀治・知子夫妻を中心に“時間がおいしくしてくれるもの”をテーマにした幅広い活動を通して、シンプルで普遍的なもの作りを目指す

〈取材・文/吉信 武〉