「これまで舞台はいろいろと出てきましたけれど、今まででいちばんどうなるかわからない作品です(笑)」
と語る中村勘九郎。6月8日から12日まで開催されるスペクタクルリーディング『バイオーム』に主演する。
8歳の男の子と女の子を演じ分け
「朗読劇としてお話をいただいたんですが、台本を読ませていただいたら、“本当にこれ、朗読劇なの?”という感じでした(笑)。演出の一色(隆司)さんから、カーテンを使って映像を映したり、舞台機構も使うとうかがって、朗読劇の枠に収まらないようなものが生まれるのではないかと、とても楽しみになりましたね」
“スペクタクルリーディング”という、これまでに見たことがないような、ものすごい舞台が誕生しそうな今作。物語は、政治家一族の8歳の息子ルイ(中村)を主人公に展開していく。家長としてルイを抑圧する祖父、家族を顧みる暇のない父、心のバランスを欠いた母は怪しげなセラピーに逃避している。
そして、いわくありげな老家政婦と、その息子の庭師。抑圧され逃げ場がないルイにとって、拠りどころとなるのは庭の木々やフクロウたちだけだったーー。
今作で特徴的なのが、キャスト全員が1人2役を演じる点。中村以外の6人は、人間と植物の2役だが、中村はルイと、8歳の女の子ケイを演じる。
「ルイはすごく純粋な少年なんですけれど、愛されていないということを心の中でとても感じていて。しかも、家庭内は暴走して崩壊しかけているような状態で居場所がなく、時に暴発しそうになるんです。対するケイは冷静で、ルイの暴発を止めてあげるような存在」
2人で話す場面が多いというルイとケイ。いったいどうやって演じ分けるのか尋ねると、「大変ですよ〜」と苦笑する。
「8歳だとまだ声変わりもしていないから、声の高さもそこまで違いがないでしょう? これはとてつもなく難しい課題を提出されたなあと思いました。簡単なやり方は、顔の向きをその都度変えてセリフを言う方法なんですけれど、それでは収まりきらないので」
朗読劇だからこそできるこの設定。どう表現してくれるのか。期待に胸がふくらむ。
雨がきれいだからプレゼントしようと
次男が役の年齢に近いという中村。
「子どもから出てくる言葉や行動って、やっぱり純粋だなあと思いますね。僕たちも同じ道を通ってきたはずなんですけど、いろんな欲や感情に流されて、いつの間にか失ってしまった。ルイとケイは、特にその純な部分が強い子どもだなと思います」
そんな中村自身は、8歳のころどんな少年だったのだろう?
「ちょうど歌舞伎座の『八月納涼歌舞伎』に出演するようになったので、舞台に立てているという喜びと楽しさを初めて味わえたのが、8歳くらいでしたね」
そして、純粋さあふれるこんなエピソードが。
「僕自身は覚えていなくて、母から聞いた話なんですが。ある雨の日に、びしょ濡れで帰ってきたそうなんです。傘を持っていたのに。なぜ傘をささなかったのか聞いたら、雨がすごくきれいだったから、傘を逆さにして裏に雨をためてお母さんにプレゼントしようと思った、と答えたんですって。そんな純粋な時があったんだ!と。とうの昔になくしてしまったなあ(笑)」
中村少年の素敵なエピソードは、さらに続く。
「不思議な子どもだったみたいですよ。うちの坂の下に川があるんですけど、ある日、家に“お子さんが3時間くらいずっと川を見ているけど、大丈夫か?”と連絡が来て。行ってみたら、僕だったんですって。そりゃあ、子どもが3時間もひとりで川を見ていたら、心配になりますよね(笑)。かといって、友達と遊ぶのが苦手とかひとりの世界が好きだったとか、そういうわけではないんですが」
こちらも本人は覚えておらず、川で何を見ていたのかもわからないとのことだが、では今、もし何かを見続けるとしたら、何を見る?
「ずっと見続けられるものといったら、僕は猿山ですね。動物園でいちばん好きな場所。あそこのコミュニティーの中でいろんな力関係があったり、それぞれの猿で性格がさまざまだったり。見ているとわかってくるので、面白いんですよ」
ということは、ルイと同様、自然が好きなのかと思いきや。
「僕はルイくんとは真反対。土とか、そこで裸足になることがすごく苦手で。だって汚れるじゃないですか(笑)。海も好きじゃないから、泳ぐならプールのほうがいいし。植物は嫌いではないし、お花を妻にプレゼントしたりするのは好きなんですが、コバエが心配なので、なるべくコバエが出ないような花を選びます(笑)」
ストーリー的にも視覚的にも、新しいものが詰まった今作。
「日々イヤなニュースが続く状況ですが、だからこそ感じ取ってもらえる部分がある作品だと思います。今までに見たことがないものを見られると思うので、ぜひお楽しみに!」
自分好みの庭を作るとしたら?
「僕は純和風のものが好きなので、庭も和な雰囲気がいいですね。形から入るタイプなので、どこかのお寺のお庭をまねて、それで満足しちゃいそう(笑)。凝った感じではなく、枯山水のような落ち着く庭にしたいです」
スペクタクルリーディング『バイオーム』
■日程/6月8日〜12日
■会場/東京建物 Brillia HALL