長期シリーズになった『ごくせん』

 近年、昔ながらの不良、いわゆる「ヤンキー」は絶滅危惧種となりつつある。統計がないので実数は不明だが、不良全盛期だった'80年代に比べると、改造制服を着た学生や、'90年代にはよく見かけた深夜のコンビニ前でたむろする特徴的な見た目の中高生など、一見して「ヤンキーだ」と思わせる若者は、もはや思い出の中にしかいない状態だ。

 しかし、ドラマや漫画の世界の“ヤンキー人気”は衰え知らず。ケンカに明け暮れていた不良少年が弱視の少女と恋に落ちる『恋です! ヤンキー君と白杖ガール』(2021年・日本テレビ系)や、現在放送中の『ナンバMG5』(フジテレビ系)などの“ヤンキーモノ”は、人気のジャンルとして確固たる地位を築いている。

 ヤンキードラマで描かれる男の友情や恋愛、ケンカシーンに、思わず胸をときめかせた経験がある人も多いのではないだろうか。

 そこで本誌は、全国の35歳以上の女性1000人にアンケートを実施。「好きなヤンキーテレビドラマ」と、作中の「好きな登場人物」を挙げてもらった。女ゴコロをつかむヤンキードラマの魅力に迫る──。

好きなヤンキードラマランキング

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 気合で第1位に輝いたのは『ごくせん』(日本テレビ系)シリーズ。同名漫画を実写化した本作は、2002年に第1シリーズが放送され、高視聴率を獲得し、多くの続編が制作された超人気ドラマだ。仲間由紀恵(42)演じる主人公の山口久美子、通称ヤンクミは任侠集団「大江戸一家」の三代目組長・黒田龍一郎の孫娘。実家の稼業を隠して教職に就いた彼女が受け持った「3年D組」は、学内でもっとも問題児が多いクラスだった。

「不良だが、根は純粋な生徒たちと先生との絆がよかった」(53歳)「起承転結がしっかりしていて『水戸黄門』タイプのドラマだったので安心して見ていられた」(40歳)など、わかりやすく、爽快なストーリーに魅せられる声が多く寄せられた。

 イケメン評論家の沖直実さんは「『ごくせん』はイケメンドラマの先駆け的作品」と語る。

「学園ドラマに登場するヤンキーたちには、不良っぽい男の子が醸し出す、独特な色気を感じますよね。しかも『ごくせん』の舞台は男子校で、若手俳優の原石がたくさん出演していました。私に限らず、女性はみんな『イケメン評論家』ですから(笑)、生徒の中から好きなタイプの俳優を発掘したい、という層にバッチリハマったのが『ごくせん』なんです」

 特に『ごくせん』は長期シリーズになったため、シーズンごとに学生の顔ぶれが変わる。同作は、視聴者の“青田買い心”をくすぐる作品でもあったのだ。

 また、主人公のヤンクミは好きな登場人物ランキングでも1位を獲得している。「誰よりも度胸があってスカッとさせてくれる」(77歳)「美人だけどダサい……でもカッコいい!」(38歳)など、典型的な男性のヤンキーではなく、情と仁義に厚い女性のヤンクミに惚れる声が多数!

義理堅い一面が共感ポイント

「ヤンクミは、作中の登場人物の中でケンカが強く“最強の先生”。生徒のために身体を張るという、守られるだけの女性ではなかったのも、長く愛された理由ではないでしょうか」(沖さん)

 ヤンクミ本人は“不良学生”ではないが、心に宿る極道魂が視聴者に響いていたようだ。

 第1シリーズに出演していた沢田慎(演・松本潤)も、好きな登場人物ランキングの5位に。彼のクールな仮面に隠された、義理堅い一面に票が集まった。

 そして、ドラマ部門第2位は2018年放送の『今日から俺は!!』(日本テレビ系)。'90年代に人気を博した“ツッパリ漫画”を平成の終わりに実写ドラマ化するという、なかなかチャレンジングな作品だったが、まさかのリバイバルヒット。2020年には劇場版も公開されている。

『今日から俺は!!』で共演した賀来賢人と伊藤健太郎

「『今日俺』は幅広い層に受け入れられましたよね。時代設定も原作どおりに'80年代のままだったのでアラフィフ以上の人は自分の青春時代を思い出し、若い世代はツッパリや不良の文化を新鮮と受け取りました。

 '82年リリースの『男の勲章』を主題歌に選んだのも大正解! 曲が流れた瞬間に当時の空気感を思い出しました。家族がリビングに集まりやすい日曜の夜に放送されていたので、親子2世代で楽しめたのもヒットの要因になっていますね」(沖さん)

 アンケートでも「懐かしいあのころを思い出した」(48歳)というノスタルジーに浸る声のほか、「ヤンキーモノながら、ほかの作品に比べると暴力描写が控えめ。ギャグシーンもおもしろかった」(41歳)のように、比較的安心して子どもに見せられる内容だったのも奏功したようだ。

「『今日から俺は!!』の原作漫画は、僕が中学生のころでも古い作品でした。なので、4年前にドラマ化したときは驚きましたが、世代を超えてヒットしたのも衝撃。でも、コミカルさと男の友情のバランスが巧みで、僕も毎週楽しくドラマを見ていましたね」

 そう話すのは、落語家の瀧川鯉斗さん(38)。元暴走族総長という経歴を持つバリバリの元ヤンキーとしても知られている。フィクションの設定は、現実とかけ離れてしまうのが常だが、鯉斗さんは「ヤンキー作品は実際の不良像と近い」という。

「『今日から俺は!!』は基本的にギャグ漫画なので、コミカルなシーンが多いですよね。僕がいた暴走族もしょっちゅうケンカをしているわけではなく、仲間と過ごす時間のほうが長いので良好な関係を保つためにも“ちゃめっ気”は必須。

 『今日俺』の三橋よろしく、いつもはふざけていても“決めるときは決める”というヤツも実際にいました。ほかのヤンキー作品も僕の実体験に近い印象がありますね」

 ヤンキードラマは、彼らの世界に触れられる作品でもあるようだ。

 そして、鯉斗さんのコメントにも名前が挙がった三橋貴志(演・賀来賢人)は、登場人物ランキングでも2位をマーク。「普段はおちゃらけていて姑息な手段でケンカをするけど、本気を出すとかなり強い。そのギャップがいい」(48歳)など、彼のユニークなキャラクターに好感を持つ声が多かった。

不良たちの熱い魂にひかれて

「不良たちが甲子園を目指す姿に胸がアツくなった」(38歳)「青春、スポ根、不良の三拍子がそろっていた」(41歳)などの声が多かったのが、第3位の『ROOKIES』(2008年・TBS系)だ。

『ROOKIES』で人気を集めた市原隼人

 部員の不祥事によって活動停止に追い込まれ、不良のたまり場になった元強豪校・二子玉川学園高校の野球部が舞台。同校に赴任し、野球部の顧問になった教師・川藤幸一が、部員たちとともに甲子園を目指すストーリーだ。

 沖さんは同作品について、ストーリーの熱量もさることながら「イケメン発掘ドラマ最盛期の作品」と評する。

「2005年の『ごくせん』の第2シーズン、2008年の『ROOKIES』、ヤンキー作品ではありませんが、2007年の『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』(フジテレビ系)。私はこれらを“三大イケメンドラマ”と位置づけています」

 登場人物ランキングの4位には市原隼人(35)が演じた、安仁屋恵壹が名を連ねた。「不良だけど野球に対する安仁屋のまっすぐな気持ちにグッときた」(60歳)「だんだん真剣に野球に取り組むようになる経緯が忘れられない」(41歳)など、彼の心情の変化に胸打たれた人が多数。スポ根とヤンキーの魅力が詰まったドラマだ。

 4位の『ナンバMG5』(フジテレビ系)は、現在放送中のヤンキードラマ。

間宮祥太朗(『ナンバMG5』公式HPより)

 間宮祥太朗(28)が演じる主人公・難破剛は、筋金入りのヤンキー一家に生まれながら脱ヤンキーを目指す、不遇な高校生。家族の前では金髪で特攻服(トップク)を着た「ヤンキー」姿で過ごし、親に内緒で通っている進学校では髪を黒く染めてきっちり校則を守る、まじめな美術部員……ほぼ一人二役状態の間宮の演技にも注目が集まっている。

「ヤンキー一家に生まれて仕方なくヤンキーをしている設定がおもしろい」(59歳)「まじめに高校生活を送りたいのに、いざケンカとなるとめちゃくちゃ強いというギャップがいい」(60歳)というコメントが多く寄せられた。はたして、難破に平穏な日々は訪れるのか。今後の展開から目が離せない!

 そしてドラマ部門第5位に名を連ねたのが、1998年放送の学園ドラマ『GTO』(フジテレビ系)。元暴走族の新任教師・鬼塚英吉(演・反町隆史)が、毎回破天荒な方法で生徒たちが抱えるトラブルを解決する。

主題歌も反町隆史が務めた『GTO』

 援助交際やいじめなど、作中では当時の社会問題も扱い、話題に。2012年にはEXILEのAKIRA(40)主演でリメイク作品も制作されている。

 前出の鯉斗さんも、鬼塚英吉には強い思い入れがあるという。

「バイクが出る不良漫画が好きで、鬼塚の暴走族時代を描いた前日譚『湘南純愛組!』(藤沢とおる/講談社)も夢中で読んでいたんです。当然『GTO』も読んでいて、反町さんのドラマも見ていました。鬼塚は教師になってもヤンキーとしての矜持を忘れない男。本当におこがましい話ですけど、暴走族を卒業して別の道を歩んでいる点で、鬼塚と自分を重ねていましたね」

『GTO』はさまざまな意味で大切な作品、と語る鯉斗さん。アンケートでも「型破りだけど、生徒のことを一番に考えている先生だった」(60歳)「こんなおもしろい先生がいれば、思い出深い高校生活が送れそう」(66歳)など、鬼塚へのラブコールがやまない。

「やっぱり鬼塚やヤンクミのように生徒ひとりひとりの個性を尊重して、道を間違えたら本気で怒ってくれる先生がいたら、学校に行きたくなりますよね。僕が中学時代にお世話になったサッカー部の顧問の先生は、そんな彼らのような熱い先生で、真正面から僕にぶつかってくれました。

 年々ヤンキー自体が減っていますが、全力で向き合ってくれる先生も減っているんですかね。久々に『GTO』のようなスカッとする学園モノが見たいです」(鯉斗さん)

 時代を象徴する“ヤンキー作品”の名前が挙がった今回。たとえ本物のヤンキーが絶滅してしまっても、ファンタジーな存在として生き残り続けるかもしれない。

【好きなヤンキードラマランキング】

1位『ごくせん』252 票
2位『今日から俺は!!』226 票
3位『ROOKIES』112 票
4位『ナンバMG5』87 票
5位『GTO』47 票

その他/『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)、『不良少女とよばれて』(TBS系)ほか

【好きなヤンキードラマの登場人物ランキング】

1位『ごくせん』……山口久美子(仲間由紀恵)101 票
2位『今日から俺は!!』……三橋貴志(賀来賢人)75 票
3位『ナンバMG5』……難破剛(間宮祥太朗)55 票
4位『ROOKIES』……安仁屋恵壹(市原隼人)42 票
5位『ごくせん』……沢田慎(松本潤)27 票

その他/『ごくせん』矢吹隼人(赤西仁)、『ヤンキー君と白杖ガール』黒川森生(杉野遥亮)ほか

【Freeasyの調査】時期:2022年5月6日 回答数:1000件 35歳以上の女性 方法:WEBアンケート 2作品について回答 ※有効回答のみで集計
お話しを伺ったのは……

瀧川鯉斗(たきがわ・こいと)
1984年、愛知県出身。中学生のころから反抗期が始まり、高校に入ってすぐに地元の暴走族の十二代目総長を務めた。18歳で総長を引退し、上京後に初めて見た瀧川鯉昇の落語に惚れ込んで弟子入り。2009年に二ツ目、2019年には“令和初の真打ち”に昇進して話題になった。

沖直実(おき・なおみ)
1992年にラジオパーソナリティーとしてデビュー。その後、FMやAMでパーソナリティーをしながら、2004年からイケメン評論家として「沖直実のいい男祭り」を開催。斎藤工、城田優や宮野真守、瀬戸康史などをいち早く見つけて発掘。ネクストブレイクタレントやオリンピックアスリートなどのイケメン傾向を情報番組や女性誌でコメントするなど精力的に活動。

【取材・文/大貫未来(清談社)】