料理が得意だった梅宮辰夫さん

 女優・冨士眞奈美が語る、古今東西つれづれ話。今回はビートたけし、梅宮辰夫さん、山城新伍さんほか、シャイな男性について。

シャイの塊のような人

 男性の魅力って、私は色気だと思う。色気を醸し出すためには、やっぱりシャイな部分が必要。シャイじゃない男性は、どこか魅力的には映りづらい。想像してほしいんだけど、いつも自信満々の男性ってイヤだと思わない?

 シャイな人。たくさん出会ってきたけど、ビートたけしさんもそうだった。たけしさんとは『浮浪雲』というドラマ(1990年・TBS系)でご一緒した。

 私は、たけしさん演じる雲と、かつて関係を持ったことがある遊女の役。たけしさんの腕に抱かれながら死んでいく─といういい気分な展開だった。

 撮影が終わって、「(このシーンが)男に抱かれた最後よ」とふざけて言うと、彼は終始照れくさそうに笑っていた。たけしさんは、照れ屋というか、シャイの塊のような人。その雰囲気が、演技を含めて、とてもいい空気感をつくり出しているのだと思う。

 梅宮たっちゃん(辰夫)や山城新伍ちゃんも、ああ見えてとてもシャイな人だったわ。新伍ちゃんに関しては図々しさもあったけど(笑)。

『新伍のお待ちどおさま』(TBS系)でご一緒していたころ、新伍ちゃんが、私の誕生日にとても素敵なショールをプレゼントしてくれたことがある。でも、何やら様子がおかしい。

「一桁間違えて女房が買ってきちゃったんだ!」

 惚れぬいていた奥さまであった花園ひろみさんに私あてのプレゼントを頼んだところ、値札を見間違えて10数万円のショールを買ってきてしまったそうで、後悔しながら照れくさそうに言ってきた。そんなプレゼントの渡し方、初めて見たわよ。

 たっちゃんと新伍ちゃんはとても仲よしだった。“破天荒”とか“夜の帝王”なんて言われていたけど、2人ともお父さんがお医者さま。実際は聞き分けのよいお坊ちゃんだったから、求められる演技をまじめにしていたんだと思う。そりゃあ、カッコいいからモテたのは間違いない。

 たっちゃんが付き合っていたある女優さんが結婚することになったとき、その人は新伍ちゃんとも同時に付き合っていたらしく……ホント、それもどうかと思うけど(苦笑)、たっちゃんが「結婚祝いに何でも買ってあげる」と伝えたそう。

 すると、彼女は歯医者の請求書を持ってきたんですって。「目玉が飛び出るような額だった」と、これは新伍ちゃんの代返。でも、全額払ったというからきっぷがいいわよね。餞別(せんべつ)で全面的に歯を治す─その選択をした女優さんもすごいけど。

 たっちゃんとは、ある作品でラブシーンを演じたことがあった。でも、彼は私にキスをしなかった。たっちゃんたら、私がNHK専属だったからって、「NHKの人に変なことできねえや」と、結局尻込みしてしまったの。演技なのに、まじめよねぇ。

 2人はよく仁侠映画に出演していたけど、プライベートであの人たちが声を荒らげているところなんて見たことがない。本当に優しい人たちだった。

 ラブシーンといえば、松本清張先生原作のあるドラマで西村晃さんと共演したときのことも印象的。そのころは、ドラマが生放送だった……んだけど、失敗できないから、舞台みたいな緊張感があった。

 ラブシーンのとき、西村さんは汗をかいていた。生放送だけど、思わず私は西村さんの水滴を拭こうとタオルを当てようとすると、「これが大切なんだ!」と手を振り払われ、怒られてしまった。実はカメラに映る前の一瞬で、西村さんは顔にスプレーをかけて汗を作っていたのよ。演技派で、芸に厳しかった西村さんらしい出来事だった。

 そういえば─。清張先生に「『けものみち』を読んでいます」とお話ししたことがあった。『けものみち』といえば、若い人妻が、不甲斐ない夫を捨てて極貧から這い上がるお話。すると清張先生は「あなたのような若い女性が、あんな小説を読んではいけません」と。そんな時代もあったなぁ。

 ふじ・まなみ ●静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。

〈構成/我妻弘崇〉