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 がんの死亡率が最も高いのは青森県、いちばん低いのは長野県。その差はこれまで、食生活や喫煙率などと考えられてきた。ところが、最新研究で地域格差を生んでいる原因に新説が。死亡率が高い県に住んでいる場合のサバイバル術もお伝えする。

住んでいる地域でがん死亡率に差が!

 新薬や治療法の開発が進み、かつて「不治の病」とされたがんも、今や5年生存率は60%を超えるまでになった。ところが、がんの死亡率は地域によって大きく違うことをご存じだろうか。

 命にかかわる現実を明らかにしたのは、今年3月に発表された『がん対策白書』。これは、日本有数のがん患者支援団体であるがんサポートコミュニティーの関連組織「がん対策総合機構」によってまとめられたもの。事務局として同白書の作成に携わり、長年、がん患者支援活動に取り組んできた大井賢一さんに話を聞いた。

「2006年に成立したがん対策基本法は、全国どこでも質の高いがん医療を提供することを目的として施行されました。以来15年間で、地域のがん医療を支えるがん診療連携拠点病院の数も400を超え、一定の成果を挙げてきましたが、それでも地域格差はいまだ厳然としてあります」(大井さん、以下同)

 例えば、がん死亡率ワースト1位の青森県は、ベスト1位の長野県よりも死亡率が1・5倍も高い。なぜ、これほどの開きが生じるのか。これまでは食生活や喫煙率、がん検診の受診率が原因だと考えられていたが、別の要因も考える必要があることがわかってきた。

都道府県で大きく違うがん対策の“本気度”

 というのも、検診受診率や食塩摂取量の成績が悪い県が必ずしも死亡率が高い「がんで死ぬ県」ではないのだ。

 例えば、食塩摂取量ワースト1位の青森県やワースト3位の秋田県など、食塩を多くとっている県は確かに胃がんの死亡率が高い傾向にあるが、ワースト4位の長野県は全国で2番目に胃がんの死亡率が低い。

「そこで今回の白書で大きく取り上げたのが、各地域の医療政策や医療体制の格差です。例えば、都道府県のがん対策推進基本計画を進める会議を調べたところ、構成人数や開催数に大きな開きがあることがわかりました」

 会議の構成人数が91人、年間開催数が19回と、ともに最多である奈良県は死亡率の低さがベスト6位に、また51人、8回と比較的多い滋賀県はベスト4位にランクインしている。一方、秋田県、福島県、埼玉県など、人数と回数ともに少ない県は死亡率が全国平均を下まわっているケースが多い。

 また、がん対策推進基本計画の目標設定についても大きな違いがあることがわかった。例年がん死亡率ベスト1位の優等生である長野県は、計画の全体目標に「死亡率の低さ全国1位」や、「尊厳が保たれ、切れ目なく十分な治療、支援を受けたと考えている患者の割合を81・3%以上」といった数値目標を掲げている。

 一方、死亡率ワースト1位の常連である青森県は、具体的な数値を挙げた全体目標は一切ない。

 少人数で議論の場も少なければ当然、大人数で検討を重ねるよりも、対策の多様性にも精度にも限界がある。また、数値目標がなければ評価も責任もあいまいになり、絵に描いた餅になりかねない。

「会議の人数や回数などと死亡率に明確な相関関係があるわけではありませんが、がん対策への自治体の“本気度”が、検診受診率などに影響を与え、その結果、死亡率に関係しているケースもあると考えられます」

死亡率が高い県で生き残る方法は?

 では死亡率の高い県に住んでいる場合は、どうしたら自分の命を守れるのだろうか。医療体制の格差に関しては、一般住民としては対処のしようがないと思うかもしれないが、行政のがん予防対策の基本は、生活習慣改善や検診受診の住民への働きかけにある。裏返せば、自分の生活習慣を見直して、がん検診で自衛することで、地域格差を埋められるということだ。

「ただ、いかに予防を心がけていても、最大のリスクである加齢は誰しも免れません。がんと診断されると衝撃を受け、動揺する気持ちのなかで病院や治療法など重要な選択を迫られることになるのが現実です。自分の命を人まかせにせず、また同時にがんをむやみに恐れないことも大切。日ごろから、がんや地域の医療に関心を持って情報を得ておくことが、いざというときの備えになるでしょう」

がんによる死亡率が高い県

【1位】 青森県 〜がん対策に数値目標なし〜
 がん対策推進計画の全体目標に数値目標がひとつもなく、具体性に欠ける。

【2位】 北海道 〜喫煙率ワースト1位
 肺がん死亡率だけでなく、乳がん死亡率、乳がん検診受診率もワースト1位。

【3位】 長崎県 〜子宮がん検診受診率ワースト3位
 子宮がん死亡率ワースト1位。胃がん、大腸がんなども検診受診率が低い。

【4位】秋田県 〜がん対策会議の人数17人と少なめ〜
 都道府県のがん対策推進計画の策定のための会議の人数が17人とかなり少ない。

【5位】 宮崎県 〜大腸がん死亡率ワースト5位
 大腸がん検診受診率もワースト11位と低め。喫煙率と肺がん死亡率も高い。

6位:福岡県、7位:福島県、8位:岩手県、9位:大阪府、10位:高知県

がんによる死亡率が低い県

【1位】 長野県
〜がん対策に数値目標あり
 がん死亡率は2017年を除き、21年間にわたり連続ベスト1位。

【2位】山梨県 〜胃がん検診受診率ベスト5位
 検診を受けている人が多いためか、胃がん死亡率は全国で5番目の低さ。

【3位】 福井県 〜子宮がん死亡率の低さベスト1位
 がん検診受診率は全国平均並みだが、子宮がん含め全体にがん死亡率が低い。

【4位】滋賀県 〜がん対策会議の人数51人と多め〜
 都道府県のがん対策推進計画の策定のための会議の人数が51人と多い。

【5位】大分県 〜喫煙率の低さベスト1位
 多くのがんリスクになる喫煙率が低いためか、大腸がんや乳がん死亡率が低い。

6位:奈良県・岐阜県、 8位:岡山県、9位:富山県、10位:島根県

 ※参考資料/『がんの統計2022』(国立がん研究センター がん情報サービス)、『家計調査 2018』(総務省)、『がん対策白書 がん対策基本法成立から15年を振り返る―検証と5つの提案』(がん対策総合機構)

死亡率が高い県でもがんで死なないための鉄則3

(1) 生活習慣を見直す
 禁煙、減塩、肥満解消など、がんリスクの低い生活習慣を心がける

(2) がん検診を受ける
 個人的、地域的リスクを考えて定期的に検診を受診する

(3) 地域医療に関心を持つ
 がんを人ごとと思わず、在住地域の医療情報を得ておく

 教えてくれた人…大井賢一さん ●がん患者を支援する認定NPO法人がんサポートコミュニティー事務局長。歯科医師。2022年、がん対策総合機構の「がん対策の15年を振り返るワーキンググループ」に参加し、日本のがん医療を検証し、提言をまとめた『がん対策白書』の作成に尽力。

〈取材・文/志賀桂子〉