21年ぶりの日本対ブラジル

「発売日当日から販売サイトにアクセスしましたが一向につながらず、“混み合っています”という表示ばかりでした。

 数分で発売日の販売分が完売となり、その後何度か再販がなされましたが、基本的に同じ状況でした。つながったとしても購入ページまでいけなかったり。結果的にチケット売買サイトで買いました。

 購入価格は7万円……。私が買ったのはいちばん安い“カテゴリー4”で定価は3200円だったので、約22倍でしょうか……

21年ぶりの対戦でチケットが高騰

 そう話すのは、6月6日に開催された『キリンチャレンジカップ』サッカー日本代表の対ブラジル代表戦を観戦した男性。日本対ブラジルは、対戦自体が'17年11月以来で4年半ぶり。日本国内での対戦となると'01年6月以来と、実に21年ぶりだった。

「久々の国内対戦ということ、またエースのネイマールを筆頭に“世界トップレベル”のメンバーが来日ということで非常に人気が集まりましたね。チケットは、5月7日にファミリーマートで先行販売がスタート。開始10分少々で全席種が完売となりました。

 一般販売は5月14日でしたが、こちらも即予定枚数が終了。すぐにチケット売買サイトでの高額転売が相次ぎました。

 当初は定価の2倍や3倍といった程度でしたが、開催が近づくごとにさらに高騰。このような注目の対戦でも、たいていは諦める人が増え、当日まで売れ残ったチケットは値崩れを起こしますが、今回はキックオフ直前まで超高額で売買されていましたね」(スポーツ紙記者)

 前出の観戦した男性は某チケット売買サイトで購入した。そこではいわゆる“転売ヤー”との攻防が……。

「そのサイトは “オークション形式”ではなく、出品者が値段を決め、その値段に納得した人が購入を申し込む形です。購入を申請して、出品者が申請を許可すると売買成立になります。当初は3万円くらいを予算に考えていましたが、そんな値段で買える出品はほぼなかった。低額で出品されても、“秒”で無くなる状況でした。

 そこで5万円で出品されているのを見つけて購入申請をしました。すると申請が却下され……。そのころは四六時中サイトに張り付いていたのですが、同じ出品者が1万円上乗せして再度出品していました。

 おそらく“もっと高く転売できる”、“もっと高額で買ってくれる人をSNS等の別口で見つけた”という状況だったのだと思います。

 “市場原理”といえばそれまでかもしれませんが、金額を決めて出品し、それの購入を申し込んでいるのに却下されるシステムはどうなのか……。オークション形式なら理解できますが」(前出・観戦した男性)

 チケット売買サイトを見ると、なんと数千円台のチケット1枚が10万円を超える値付けがなされ、そしてそれが実際に売れていた。このようなチケットの“転売”に違法性はないのか。時折アイドルのライブチケットの転売での逮捕は報じられているが……。

『特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律』、一般に“チケット不正転売禁止法”と呼ばれる法律があります。チケットの適切な流通のために,'18年12月に制定されたものです。それ以前はネットなどでの高額転売は禁止されていませんでした

 そう話すのは杉並総合法律事務所の三浦佑哉弁護士。同法において“転売が禁止されるチケット”は限定されており、以下の要件を満たすものとなる。

(1)販売に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、その旨が券面(電子チケットは映像面)に記載されていること。
(2)興行の日時・場所、座席(又は入場資格者)が指定されたものであること。
(3)例えば、座席が指定されている場合、購入者の氏名と連絡先(電話番号やメールアドレス等)を確認する措置が講じられており、その旨が券面に記載されていること。

 実際にブラジル戦のチケットを見てみよう。(1)についてはチケット裏面に小さな文字で《営利を目的としてチケットの転売は、いかなる場合にも固くお断りします》という記載があった。

 また、ブラジル戦は“全席指定”でしたので、(2)も満たす。また(3)については、今回のチケットは日本サッカー協会の販売サイト『チケットJFA』及び『チケットぴあ』の販売であり、購入には個人情報の登録が必要となっている。

チケット転売の違法性

「禁止されているのは、このようなチケットを“購入価格より高額”に、そして“業として”売ることになります。

 急用でイベントに行けなくなり、友人などに定価より安く売ったり、あげたりした場合はこの罪には問われません。

 ”業として“=“くり返し売る意思で”転売を行っているかどうかは警察側にもわかりづらいので、1度だけの転売を確認して立件することは実際には難しい。大量に転売しようとしている、もしくは転売しているのを確認してからの立件となるでしょう」(三浦弁護士、以下同)

 このようなチケット売買サイトは、高額転売に加担しているとも言えるが違法とならないのか。

「結論として、違法とは言えないでしょう。チケット不正転売禁止法において、直接このようなプラットフォーマーを対象に取り締まる規定はありません。

 ただ、この法律で禁止されている不正売買は刑事罰もある違法行為なので、違法な出品だとわかっていても放置している、違法な出品を促しているなどの事情があれば、共同正犯や幇助犯(ほうじょはん)になる可能性はあります

 かつて株式会社ミクシィの子会社の運営で『チケットキャンプ』というサイトがあったが、複数の転売業者に対し、売買成立時の取引手数料を減免していたことが判明。運営会社に家宅捜索がなされている(翌年、サービス停止)。

「ただ、今回のブラジル代表戦で転売に使われた売買サービスは、サイトを見ると、“転売目的で購入されたチケットの掲載は固くお断りさせて頂きます。”や。“弊社では商品の掲載時、全ての出品者様に掲載物が不正転売にあたるものではないことをご確認いただいております。”などの記載がありました。

 もし、たまに不正転売する人がこのサイトを利用して売却したりすることがあっても、“犯罪者に協力した”として、共同正犯や幇助に問われることはまずないでしょう」

日本サッカー協会からの回答は

 日本サッカー協会に今回のチケット販売や高額転売について話を聞いた。

――今回のブラジル戦、『チケットJFA』はアクセス過多により、多くの人がアクセスすら出来なかった。サーバーの増強など、今後対策を取る予定はあるのか。

「アクセスがしづらかったことは事実ですが、ブラジル戦の一般販売前に増強はしていました」(日本サッカー協会広報、以下同)

――今回のチケットの販売は、「先着制」だった。「抽選制」にした場合、アクセス過多や転売目的の購入がある程度防げる可能性があるが、抽選制の導入の予定はあるのか。

「1月、3月に行った最終予選では抽選制を導入しており、本試合においても抽選制を予定していました。しかしながら、まん延防止措置の解除など、スタジアムにおける入場可能者数の決定が、抽選制を実施するために必要な準備期間の締切を過ぎてしまったため、先着制にせざるを得ませんでした」

――今回のブラジル戦のチケットの裏面には、《営利を目的としてチケットの転売は、いかなる場合にも固くお断りします》と記載されている。これは「日本サッカー協会として、転売は禁止している」という解釈で間違いないか。

「転売は認めておりません」

――今回のブラジル戦は、最安値である「カテゴリー4」のチケットすら数万円という高額で取り引きされるなど、高額転売が目立った。日本サッカー協会として、今後転売対策をどのように考えているか。

「これまでも抽選販売を行ったり、またオークション等の会社に対し取り下げを依頼する、警察と情報を共有する、などの対策は行ってきました。今後も新たな対策の導入を検討していきたいですが、主催者側だけで対応するには限界があるので、多くの方々の協力を得て、これからも取り組んでいきたいと考えています」

 試合を見たいと願う人が正規に購入できるように、また席数以上に購入希望者がいたとしても健全な販売方法となるように……。試合前からファンたちに高額が必要となる争奪戦という“絶対に負けられない戦い”を強いるのは今すぐ是正すべきだろう。