優秀な若き女性研究者が開発した“液体デバイス”の秘密を巡り、自衛隊所属の精鋭部隊が謎の敵との諜報(ちょうほう)戦を展開、チームの絆、裏切り、そして守る者と守られる者の間に生まれる愛……。
女優の国生さゆりが初めて書いた小説『国守の愛』シリーズは、ハードボイルドな世界が展開する大長編SFバイオレンスアクション作品だ。ところが作者当人は、これまで小説はおろか、長い文章を書いたこともなかったという。
「コロナ禍になってから人とのふれあいやお仕事が延期になったり、家にこもっていなければならなくなって、どうしようかなと思っているときに、自分の中に漠然と見えている場面がいくつかあって、全然ストーリーまでは決まってなかったんですけど、それをどなたかに話や脚本にまとめていただいたら面白くなるかなと思って。それでどなたか書ける方を知らないか、マネージャーに相談したんです」(国生さゆり、以下同)
すると「そのイメージを相手に伝えるため、箇条書きでもいいからまとめてみたら?」とアドバイスをもらい、書き始めることに。
ワンシーンを書くのに4日もかかった
「本当にお恥ずかしい話なんですけど、例えば『出発』の小さい“ゅ”と“っ”がキーボードで打てなくて、『出口』と打って『口』を消して『発』と書いていたくらいで。どうやって打てばいいのかを覚えるところから始めて、この人は何色の洋服を着て、どういうハイヒールを履いていて、どんなカバンを持っていて、歩き方がどうなのかというようなことを、実際に書いてくださる方にも伝わるよう細かく書きました。
そうしたらどこに読点をつけて、どこを句点にしたらいいのか、ここは『いる』『いた』のどっちか、『これを前に持っていって、説明入れたら長すぎる?』などと悩んでいたら、ワンシーンを書くのに3日も4日もかかってしまって……文章を書いていると、自分と対決しているみたいでした。でもね、そのうちなんとなく整っていって、『はぁ! できたじゃん。よかった、やればできるじゃん!』と自分ひとりで納得していたんです(笑)」
ところが執筆が進むにつれて、国生にはとある心配事が。
「文章はiPhoneとiPadで書いていたんですけど、だんだんと長くなっていって『もしこのデータが飛んだらどうしよう!? 消えたらもう二度と書けない!』と心配になって。私はパソコンを持っていないので、バックアップをどう取っていいのかわからなくて、ネットで検索したら『小説家になろう』というサイトに無料で文章をアップできることを知ったんです」
『小説家になろう』とは、ウェブサイト上に自分の書いた小説を誰でも投稿でき、誰もが読むことのできる、プロ作家デビューのチャンスもあるサイト。ところが、ここへ文章をアップしたらどうなるか、大きな勘違いをしていたそうで……。
小説は人に見せるつもりはなかった
「私はクラウドに預けるバックアップのつもりで文章をコピーしたんですよ。だから誰かに見せようとか、全然考えてなかったんです! そうしたらあるときツイッターに『小説書いてますか?』と質問が来たので、正直にお答えしたら広まってしまって。
しかもそれがネットニュースになって、さらには『小説家になろう』の中でのランキングもすごい上がって、私のところにも通知がバンバン来て……自分で書いて、読んで、ひとりで楽しんでいたものにいきなり光が当たったもんだからもうビックリ、『えぇっ?』と恐ろしくなって、ケータイ投げましたもん!(笑) 『これは責任を感じる事態に陥った』と、それから10日くらいは怖くて書けませんでした」
ちなみにサイト上での「作者マイページ」の名前は、ペンネームの國生さゆりではなく“結城中佐”。これは柳広司のスパイ小説『ジョーカー・ゲーム』の登場人物で、国生がファンだからつけたものだそう。
「最初は自分のためだけだったからこの名前にしたんですが、変える方法がわからなくて、ずっと残っているんです(笑)」
また自衛官を描こうと思ったのは、海上自衛官だった父の影響があるという。
「小説を書いている間に、ロシアのウクライナ侵攻などもあったので……父もそうでしたが、タイトルを“国守”としたのは、国を思い、尊び、汗を流して守っている人がいるんだということを知ってもらうきっかけになったらいいな、という思いもあるんです」
実は小説の存在が話題になった前日、国生とお笑いコンビ『メッセンジャー』の黒田有はなぜ以前付き合っていたのか、というツイッター上での疑問に対して、国生本人が“気の迷い”と切り返したことがニュースとなり、小説の存在も広く知られることになったという流れがあった。
「今年の初めに、私のインスタグラムではファンの方へ小説を書いたことをお知らせしていたんです。それを見た方が、ありがたいことに私が小説を書いていることを拡散してくださったんですね。それがまさか、こんな取材を受けるようなことになるとは(笑)。『気の迷い』っていう切り返しは、よく質問されることだから答えないとなぁと思って。ちょうど俳句を考えるお仕事のために5文字と7文字の言葉を考えているときだったので、思いついた5文字をポーン、と書いただけで」
ツイッターの「返信」も楽しんで
ツイッターではそれ以外にも、“学生時代は国生派だった”という人に『証拠は』と自ら絡みに行ったことも。
「本当は最後に『?』をつけようかなと思ったんですけど、それだと問い詰めている感じになってしまうので取って、ボソッとつぶやいている感じにしたんです(笑)。私としては、本当に聞かれたことに正直に答えてるだけなんですよ。でも、長く書くと言い訳みたいになるから、短い言葉でお返事しているんです。ツイッターはそんなふうに、どう書こうか考えながら楽しんでやっています」
小説は第一章に続き、第二章『イエーガー・群青の人』が完結、そして現在は第三章『red eyes』を執筆中。作家・國生さゆりとしての今後の展開は?
「作家だなんてそんな……でもコッソリ終わることもできなくなってしまったので、ちゃんとやんなきゃ、と思っています(笑)。もう第三章のラストはなんとなく見えたので、そこへ向かっていくだけですね。読んだ方からメッセージや感想をたくさんいただいていて、本当にご意見ありがとうございます、精進いたします、今後ともよろしくお願いいたします、という感じです!」