「東京ドームという大舞台で戦えたこと、まずは1つうれしく思っています。そしてしっかり勝利という形で迎えることができてよかったです。今回、歴史が変わるような試合になるという発言をしたので、僕自身がしっかり勝たないとなというのは思っていました」
6月19日に東京ドームで開催された『THE MATCH 2022』。キックボクシング界のスター・那須川天心と、K-1スーパーフェザー級王者・武(たけ)尊(る)との戦いに注目が集まる裏で、闘志を燃やし躍動した男がいた。キックボクサーの江幡睦(むつき)だ。
「彼は弟の江幡塁選手とともに“双子ファイター”としても知られていますが、一昨年にこの世を去った三浦春馬さんとは、幼なじみで親友同士でした。試合から約1か月後の7月18日は、春馬さんの三回忌。睦選手は今回の晴れ舞台に臨むに当たって、 “春馬のためにも絶対に負けられない”と周囲に明かしていたようです。試合は延長にもつれ込む緊迫した展開でしたが、最後は2対1の僅差で江幡選手が判定勝ちしました」(スポーツ紙記者)
‘16年3月には、後楽園ホールで行われた塁の試合を春馬さんが応援に来ていた。
「'19年の大みそかに行われた塁選手の試合でもセコンドとして花道を歩いていましたね。江幡兄弟も春馬さんが'16年と'19年に主演を務めた舞台『キンキーブーツ』を鑑賞しに行ったりと、ずっと交流を続けていたんです」(同・スポーツ紙記者)
茨城県土浦市にやってきた春馬さん
強い絆で結ばれていたようだが、春馬さんと江幡兄弟はどのような幼少期を過ごしていたのか。彼らの地元である茨城県土浦市で話を聞くことができた。
「春馬くんが土浦に来たのは小学5年生のころ。当時の彼はすでに子役としてテレビや映画で活動していたので、ちょっとした有名人でした。ダンスのレッスンにも通ったりしていたので、放課後はけっこう忙しかったはず。引っ越したばかりのころは、周囲ともなかなかなじめなかったみたいだね。なので、彼のお隣さんが飼っていた犬と遊んだり、自宅前の道で1人でサッカーボールを蹴ったりして、時間をつぶしていましたよ」(近隣住民)
孤独を感じていた彼の少年時代は、近所に住んでいた江幡兄弟と出会ったことで一変する。
「年齢も近かったため、すぐに意気投合。お互いの家に遊びに行ったり、夏祭りではしゃいだりと、いつも3人で一緒にいましたね。彼らの仲は進学しても変わらず、高校生のときには春馬くんが髪を切るのに、わざわざ江幡兄弟が付き添っていたなんて話も」(同・近隣住民)
春馬さんと江幡兄弟の“約束”
かけがえのない青春の日々を過ごした彼らにとって、地元の八坂神社は特別な場所だった。
「当時から春馬くんは俳優として、江幡兄弟は格闘家として頂点を目指すという夢を持っていて、ともに叶えようと約束していました。その願掛けを八坂神社で毎年行っていたようです。上京してからも、大みそかには地元に戻ってきて一緒に初詣をしていましたね」(3人の同級生)
春馬さんの死から2日後の‘20年7月20日、睦は自身のSNSで、当時の誓いについて言及している。
《三人で夢を抱き、三人で今まで進んできた。あの頃の僕達は本当子供だったけど夢と希望に溢れて、毎日本当に頑張ってきたし、本当に楽しかった。思い出すのは思いっきり笑ってる春馬と塁の顔。僕達の三人の夢はまだ途中にあります。三人の夢はこれからも続きます。皆さん共に応援して下さい》
あれから2年――。途中だった夢にも1つの区切りがついたようだ。試合後の会見では、晴れ晴れとした表情で心境を明かしていた。
「本当に素晴らしい景色でした。僕は中学3年生のころに夢を持って、茨城から東京に来ました。僕の親友と弟の塁と“いつかこの大きな舞台で戦って、みんなに勇気と希望を与えられるような、そんな選手になりたいよね”という夢です。この舞台に立ってこの景色を見た瞬間に“あぁ、1つの夢がここで叶ったんじゃないかな”というふうに思いました。塁と僕の親友も一緒に会場に来てくれたと思いますし、あそこの舞台で手を挙げてみなさんに拍手をもらったことは、本当にうれしく思います」
少年時代からの約束を胸に秘め、立派に戦った親友を、春馬さんは温かく見守っていたに違いない。