暑さが本格的になるこれからの季節、職場にレジャーに運動に「ペットボトル飲料」を手軽に持ち歩く人も多いだろう。しかし健康リスクに警鐘を鳴らす専門家がいる。「自分なら怖くてうかつに買えない」というのだ。コンビニや自販機で手を伸ばす前に考えてほしい。便利さと引き換えに、なにを失うかを。
ひと口で雑菌まみれに
「開封後は冷蔵のうえ、お早めにお飲みください」ペットボトル飲料に必ず記載されるこの決まり文句。ちゃんと守っているだろうか? この注意書きが示す理由はズバリ「雑菌の繁殖」。1年の中でも出しっ放しの食べ物などで食あたりを起こしやすい夏場。そのリスクはペットボトル飲料においても顕著だ。ペットボトルに一度口をつけると、唾液などに含まれる口腔細菌が飲み物の中に入る。すると夏場の気温も相まってボトルの中で菌が大量増殖する。
「麦茶の場合、たった2時間で細菌の数が1・8倍に増えたという実験結果もあります。飲み物の種類にもよりますが、特に注意が必要なのが、いちご牛乳やコーヒー牛乳などの乳製品系飲料。菌にとって快適な環境であれば増殖スピードも速いです」
そう語るのはマスコミ系の総合研究機関で食品・料理関係を担当する研究員のAさん。
口腔細菌は、ある程度存在しているのが自然で、適切なケアさえしていれば通常は人体に悪さをしない。しかし、これらの細菌数が1mlあたり100万個を超えると食中毒のリスクが生まれ、さらに1mlあたり1000万個にまで増殖が進むと、悪くなった飲食物特有の「イヤな臭い」や色の劣化が判別できるまでになる。
あからさまな変化であれば事前にブレーキも利くが、怖いのはそこに至る前に「このくらい大丈夫だろう」とうっかり口に入れてしまった場合だ。腹痛に苦しんでから後悔しても、時すでに遅しなのである。
「口をつけたペットボトルはその日じゅうに飲み切りましょう。もし次の日も飲みたいのであれば、冷蔵庫保存は必須。うっかり常温で置きっ放しにしたものは、どんなにもったいなくても処分するのが安全です」(Aさん)
しかし冷蔵庫に入れたからといって油断していいわけではない。菌の活動が緩やかになるだけで、増殖が止まることはないからだ。
血糖値の急上昇、有害物質のリスクも
置きっ放しがダメならば一度にイッキ飲み……それもキケン。暑い季節、動き回った後の渇いたのどにゴクゴクと飲むスポーツドリンクやジュースは格別だが、こうした糖分の多いドリンクを一度に摂取すると、血糖値が急上昇。急性の糖尿病を引き起こすことがある。だるさや吐き気に始まり、重篤な場合には意識障害や昏睡、最悪の場合、死に至るキケンも。これは“ペットボトル症候群”とも呼ばれている症例だ。
生活習慣病の予防で注意が欠かせないのが「糖分」。しかし、ペットボトルのジュースには、大量の糖分が溶けているものが多い。スポーツドリンクなら1個4gの角砂糖5~7個分、甘さ控えめな紅茶であっても、約5個分もの角砂糖が入っている計算だ。
1日の糖分摂取量の目安は、自分の体重をグラム換算したうちの0・05パーセントだといわれているので、体重60kgの人ならば1日にとっていい糖分はたったの30g。これは角砂糖ならば7個程度ということになる。500mlの飲料1本で、限度すれすれだ。毎日のようにこんな“砂糖水”を飲み続けていれば、糖尿病はもちろん、虫歯・歯周病、脳の機能低下や肥満などといった万病のもととなる。
ならば、「無糖」の飲み物であれば安心かというと、そうではない。ペットボトルの後ろ側、成分表示のところに「香料」という記載があれば注意だ。
香料とは、食品や化粧品などさまざまな製品に香気を与えるための添加物のこと。フルーツ系飲料の甘い香りをはじめ、ものによってはコーヒーやお茶などにも「美味しそうな風味づけ」のため使われていることが多い。
こうした香料には、天然の動植物の成分を採取した「天然香料」や人工的に作られた「合成香料」があり、それらが混ぜ合わされている場合もある。
厄介なのは、この「香料」という表記に関しては、原材料名でなく一括名として表示することが許可されているという点だ。あやふやな表記がまかり通っている以上、その添加物がどのように作られ、具体的に何が含まれているのか、消費者側は知るよしもない。
化学物質という点でいうと、実はペットボトル容器自体にも大きな問題が。驚くべき話を聞かせてくれたのは、東京農工大学で環境汚染などについて研究をしている高田秀重教授。
「ペットボトル自体に含まれる成分が、飲み物の中に混ざるというリスクもあります。暑い季節に気温が上昇すると、その熱で添加剤が溶け出すこともあるんです」
例えばペットボトルのふた。これには、劣化を防ぐため「紫外線吸収剤」などの薬剤が練り込まれている。こうした添加剤の中には、「環境ホルモン」と呼ばれる毒性物質が含まれていることも。
これらを取り込んでしまうと、乳がんや子宮内膜症などといった、生殖やホルモンバランスに関わる健康被害の原因となる。この薬剤が使われているのは主にペットボトルのふた部分だが、もし、暑い場所にボトルを寝かせて置きっ放しにしておくなどすると、液体と接触したふたの部分から薬剤が少しずつ溶けて飲み物に混ざる可能性も。
高田教授は「マイクロプラスチック」と呼ばれる化学物質のキケンについても指摘。環境問題の話題でよく聞く言葉だが、これはさまざまな要因で小さく砕け、5mm以下にまでなった“プラスチック片”の総称だ。中には、顕微鏡でしか見ることができないような微細なものもある。
「500mlのペットボトル1本に、平均50個程度のマイクロプラスチックが含まれていることがわかっています。これらは自然界にない異物なので、生物が消化できない。体内に蓄積されていけば、炎症性の腸疾患などの病気のリスクにもつながります」(高田教授、以下同)
マイクロプラスチックがペットボトル飲料の中に混入する経路はいくつかある。
最も多いのが、工場でペットボトル本体を製造した際にできる微細なプラスチック粒子が、飲み物を充填する過程を通じて飲料中に混ざってしまうケース。ほかにも、ボトルのふたを開け閉めして起きる摩擦や、一度カラになったボトルを洗って繰り返し使うなどの習慣、また野外などで紫外線にさらされたダメージでもペットボトルが劣化する。そこから非常に細かなプラスチックのカケラが発生し、知らぬ間に飲み物に混入することもあるのだ。
「そもそも、ペットボトルに入った飲み物自体、買わないほうがいいと思います。私は職業柄、ペットボトルの問題について知る機会が多いのでそう思うのかもしれませんが……」
ノーブランド、ノーラベルの
ペットボトル飲料は安全?
最近よく見かける“ラベルレス”のペットボトル。ゴミ分別が楽で、プラスチックも削減できるので環境にもやさしい。2018年の販売開始から人気を博し、テレワークの「まとめ買い」需要も相まって、通販のセールでも大人気になった。
とはいえ、やっぱりラベルが付いていないと中身の得体が知れず、安全性が心配だ。躊躇が勝って、結局従来のラベル付きを選びがち……。そんな人も多いのでは?
法律により、市場に並ぶ食品はパッケージひとつひとつに品質表示が義務づけられている。ただし、ダース単位で販売する場合は、外側の段ボールに品質表示がされていれば、中に入る個包装の表示は省くことが可能。ラベルがなくてもOKなのは、「箱売り」を前提としているからなのだ。
日本では、清涼飲料水製造業を行うにはまず各都道府県の許可を取ることが必須。前提として怪しげなメーカーが参入できないため、国内生産のものならその時点で相応の規定をクリアした飲料であるといって問題ない。大手以外の業者からノーブランド品として販売されているペットボトル飲料もあるが、これらも同基準の品質が認められたものだ。
注意点があるとすれば、海外メーカーのラベルレス飲料を買う場合。特にミネラルウォーターなどは、水本来の酵素やミネラルの質を損ねないために、殺菌処理が制限されているなどの海外特有の基準もある。事前に商品を調べてレビューなども確認し、品質が確かなものか見極めるとよいだろう。
お話をうかがったのは
東京農工大学 高田秀重教授
専門は合成洗剤や環境ホルモンなどの環境汚染物質の研究。1998年からプラスチックと環境ホルモンの研究を開始し、2005年以来マイクロプラスチックの地球規模モニタリングInternational Pellet Watchを主宰している。プラスチック問題に関する書籍『プラスチックモンスターをやっつけよう! きみが地球のためにできること』(クレヨンハウス)などを監修。