今年4月から、男性が育児休業を取りやすくするための新制度が導入、10月には妻の産休期間に合わせて「男性版産休」も取得できるように。その一方で、「育休中の夫がストレス」と訴える女性たちは少なくない。なぜつらい「孤育て」と化してしまうのか、イクメンの実態から考える。
少子化が止まらない。厚生労働省が6月3日に発表した人口動態統計によると、2021年に生まれた子どもの数は約81万1000人と過去最少。出生率に影響する婚姻件数も戦後最少を記録した。
そんな中、少子化対策の一環として、政府はイクメンの養成に力を注いでいる。
4月に施行された育児・介護休業法では、男性が育児休業を取得しやすくなる新たな取り組みを段階的に導入。企業は従業員から申し出があった場合、育休制度について説明、制度を利用するかどうか意向を確認することが義務付けられた。また、10月からは育休の分割取得も可能に。子どもの出生後、最大4週間使える『産後パパ制度』もスタートさせる見込みだ。
夫の育休が、かえってストレスに
こうした動きを女性たちはどのように捉えているのだろうか。主婦・主夫層の実情や本音を探る調査機関『しゅふJOB総研』(ビースタイルホールディングス)の調査結果からは、複雑な心境が浮かび上がる。684人の女性を対象に男性の育休について質問すると、87・5%が「取得するべき」と答えた。
ところが、男性が育休取得をすることによるデメリットを尋ねたら「夫が家事・育児をせず、かえって妻のストレスがたまる」との回答が48・1%で、最多だったのだ。
男性の育休取得によるメリットトップ5
1位 家事や育児の経験が夫の視野を広げる 69.3%
2位 妻のストレスが軽減される 64.8%
3位 子どもとかけがえのない時間を過ごせる 61.4%
4位 性別役割分業意識※の解消につながる 52.3%
5位 妻や女性たちの社会進出を促進する 36.8%
「しゅふJOB総研」調べ
※「性別役割分業意識」とは…個人の能力ではなく、「男は仕事、女は家庭」などと性別を理由に役割を分ける考えのこと。
男性の育休取得によるデメリットトップ5
1位 かえって妻のストレスがたまる 48.1%
2位 昇進の遅れなど夫のキャリアダウンにつながる 36.8%
3位 休業期間中に夫の仕事への勘が鈍る 32.3%
4位 休業期間中に夫の仕事のスキルが落ちる 26.3%
5位 夫に大きなストレスがかかる 25.3%
「しゅふJOB総研」調べ
この結果を見て「気持ちがよくわかる」と話すのは、神奈川県在住のSさん(40代)。一昨年、夫に育休取得を促し長女の誕生に合わせて3か月間、実際に制度を利用した。
「会社の理解があったので助かりましたが、肝心の夫にはまったく頼れなかった。日中はテレビや動画を見ながらダラダラ過ごし、たまにジム通い。家事も育児も私任せで、娘のおむつさえ自分からは替えようとしない。育休は育児のためのもので、おまえのリフレッシュ休暇じゃねーよ!と……」
Sさんの夫のように、育休を取得しておきながら、子育てに関わろうとせず家事もしない、「取るだけ育休」の男性は珍しくない。
「子どもに関わる時間は確かに必要。でも男性の場合、育休を取るだけで周りに評価されがち。“やってる感”が出るというか。育児の質は二の次って感じで気になります」
とは、北海道で暮らすYさん(38)。妊娠がわかったとき、5歳上の夫はとても喜んだ。育休を取得すると言い出したのは夫のほう。Yさんは“子煩悩なパパになりそう”と期待した。ところが─。
「洗濯を頼んだら洗濯機のボタンを押すだけ。風呂掃除は風呂釜に(洗剤の)泡スプレーを吹きつけただけで、“やっておいたよ”とドヤ顔。私がゴミを出す間、子どもを見ていてねとお願いしても、本当にただ見ているだけなんです。ゴミ出しから戻ってきたら、息子はベビーサークルから落ちそうになっていました。夫はスマホをいじる片手間に息子の様子を見ていたようです。ゴミ出しの数分間も任せられないわけ!? とあきれました」(Yさん)
前出の調査でも、
《主人が2か月、育休を取りましたが、育児などまったくせず自分のキャリアアップのため、すべての時間を費やしていました。いつもより家にいるため、家事や育児に口を出され、かなりストレスを感じた》(30代女性)
《育休のみならず、男性には取得する・しない、やる・やらないの選択肢がある時点で育児は女がするものだという決めつけがある。女性に、(育休を)取らない、(育児を)やらないの選択肢はない》(40代女性)
などと憤る声が。呼び声と実態がかけ離れた「名ばかりイクメン」に、妻たちの不信感は募るばかりだ。
「女性は妊娠すると、吐き気や身体のだるさで体調や行動範囲に影響が出るようになります。それに合わせながら(出産するまで)10か月かけて、子ども中心の生活に変わっていく。でも男性の場合、いきなり赤ちゃんが目の前に現れるわけで、考えや生活は自分中心のまま。育休のような制度を作ったからといって、そのギャップがすぐに埋まるわけではありません」
そう指摘するのは、生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさん。以前にあんびるさんは、生まれて間もない赤ちゃんを抱きかかえ、泣きながら裸足で歩く女性に出くわしたことがある。たまらず声をかけると、女性はおびえながら「夫にコーラを買ってこいと言われた」と話した。あんびるさんは事情を聞いて、警察に付き添ったという。
育休だけでは夫婦間の差は埋まらない
「こうした女性は残念ながら珍しくありません。すべての男性が即、イクメンになるわけではないし、実家に頼りたくても頼れない人もいるでしょう。出産も、それに伴う困りごとも十人十色。
夫に育休を取ってもらうより、例えば民間の産後ケア施設のほうが快適に過ごせる場合もある。そうした施設の利用費を補助したほうが、夫が育休を取るより助かる女性もいるでしょう。さまざまなニーズに対応できるよう予算や取り組みを充実させることが必要です」(あんびるさん、以下同)
働く環境が“壁”になるケースも依然多い。
「JALや江崎グリコなど、男性の育休に力を注ぐ大企業が増えつつあります。ただ、人手不足にあえぐ中小企業で同様の取り組みができるかというと難しい。育休を取得できる期間や上司の理解にも、大企業と中小では格差が開いています。昇進に支障が出るといった“壁”もあります」
共働きが増えたとはいえ、男女の賃金格差がある中では、夫が主な稼ぎ手という家庭が大半を占める。そのため就職情報大手『マイナビ』の調査では、夫の育休取得にあたり「収入減少」を不安に挙げる人が7割を超えていた。
「賃金体系が年功序列から成果主義にかわる中で、休みが減収に直結する影響が出ることもあります。また、今回の法改正では非正規労働者も育休取得の対象としていますが、いつクビを切られるかわからない状態で育休を申し出ることは難しいでしょう。こうした問題への対応も求められています」
そもそも少子化が加速した最大の要因は、「“若者のお金離れ”。金銭的余裕がないから」とあんびるさんは強調する。
「将来の見通しが立たず、交際費にもお金をかけられないので、出会いもない。悪循環に陥っています。賃金が上がり働き口もあって、諸外国のように無償の奨学金なども充実している。そうした環境を整えることが、男女ともに安心して子育てができる社会につながっていくのではないでしょうか」
夫が積極的に取り組んだ家事・育児 トップ5
1位 ゴミ出し 43.6%
2位 買い物 34.5%
3位 掃除や片づけ 28.7%
4位 料理 22.1%
4位 洗濯 22.1%
「しゅふJOB総研」調べ
夫が積極的に取り組んだほうがいい家事・育児 トップ5
1位 掃除や片づけ 44.8%
2位 名もなき家事全般※ 38.2%
3位 料理 34.1%
4位 子どもの遊び相手 24.8%
5位 ゴミ出し 21.7%
「しゅふJOB総研」調べ
※「名もなき家事」とは…洗い終えた食器をもとの場所に戻す、調味料の補充など、掃除や洗濯といった名前のついていない家事のこと。