水道水で15秒手洗いするだけで(写真はイメージです)

 梅雨明けとともに連続の猛暑日が続き、最高気温が40℃を超える地域も。そんな中で、高齢者や子どもはとくに注意したいのが熱中症。何か良い予防策はないものかと探していたところ、「手のひらには体温を調節する特別な血管があります」と専門家。手洗いだけで暑さ対策になるというから、耳よりな話ーー。

 今年は例年よりも気温が高くなると予想され、室内外で熱中症の危険が高まる。

 熱中症は、体内の水分と塩分のバランスが崩れることや高温多湿な環境に置かれることで、体温管理機能がうまく働かなくなり、さまざまな症状が生じる状態のこと。暑いなか、立ちくらみや筋肉痛に近い症状を感じたら、軽度熱中症を疑いが。症状が進んでいくと、頭痛や吐き気、倦怠感などが表れ、重症になると意識障害やけいれんが起こることもある。そして、最悪の場合、死に至る

「手洗い」で深部体温をぐっと下げる効果が

 熱中症にかからないために大切なのは体の温度を上げないこと。そのためには、体を冷やすことが効果的だ。

 冷やす部位は首や足の付け根といった血流の大きなところ。そして「手のひらがおすすめです」と語るのは、熱中症に詳しい済生会横浜市東部病院の谷口英喜医師。「手のひらにはAVA(動静脈吻合)と呼ばれる特別な血管があるんです。これは動脈と静脈を結ぶバイパスのような血管で、普段は閉じていますが、体温が高くなってくるとAVAが開通し、一度に大量の血液を通します。そうすることで熱が放出され、冷えた血液が体に戻り、全身をクールダウンさせます

 ある研究によると「首・脇の下・そけい部」を冷やしたときよりも、AVAの多い「手のひら・足の裏・ほほ」の3点を冷やしたときの方が体温を低下させる、という結果が得られた。つまり手のひらは最強のラジエーターなのだ。

 やり方は簡単で、手のひら(可能ならひじまで)に水道水を15秒ほど流すだけ。つまり、普段の手洗いを少し念入りに行うだけで、新型コロナの予防と同時に熱中症対策が可能だ。

 もちろん、冷やす時間を長くすれば、効果をより実感できる。長時間冷やす場合は、桶やバケツに水を張り、5~10分ほど手を水に浸けておくといい。

あまりにも低い温度、例えば氷水などはおすすめできません。15℃ぐらい、ひんやりで気持ちいい、という温度がいいでしょう」(谷口医師、以下同)

暑い日は首元を冷やすのが常識だった…(写真はイメージです)

 タオルを巻いた保冷剤などを握っても効果があるのかと思いきや、それは逆効果。

「手のひらは動脈と静脈が交わるとても血管の多い場所。そのため冷やしすぎると、冷たくなった血液が体全体にめぐり、血管が収縮してしまいます。そうなると効果が得られない場合もあります」

 冷えたペットボトルを手に持つのでもいいが、その場合は冷蔵庫から出した直後だと5度前後となり、冷たすぎるので、しばらく室内に置いて温度が上がったものがいい。

 すでに頭痛や吐き気、めまいなどの熱中症の症状が出てしまっていたら、冷やすのは首や足の付け根を集中的に。医療機関への搬送の目安としては未開封のペットボトルを渡し、自力でキャップを空け、しっかり飲むことができるか。手に力が入るか、口にペットボトルの先を持ってこられるか、むせずに飲めるかで状態をチェックすることができる。うまくできない場合は、医療機関へ。

すぐに始めたい汗をかく習慣

 熱中症予防で大切なのは「暑さに慣れる」ことだと谷口医師。急に気温が高くなる季節の変わり目や梅雨明けには、体が暑さに慣れていないので熱中症になる危険性が高まる。実際に急に気温が高くなった今年の5月や6月下旬は熱中症での救急搬送人数が急増した。

猛暑日の連続に熱中症が心配(写真はイメージです)

 暑さに順応した体づくりには、個人差はあるが数日~2週間かかる。今から対策し、熱中症になりにくい体にしていきたいところ。そのためには「汗をかく練習」を行いたい。

汗をかいて体温コントロールするには体の水分の量がたっぷりあることと、自律神経がしっかり機能していることが必要。長引くコロナ禍でこのふたつの機能が落ちてしまっていて、汗をかきにくくなっている人が増えています」

 自宅にこもることが多くなっているこの数年。知らず知らず筋肉が落ちて代謝が悪くなり、体の水分量が減ってしまっているという。また、一定温度の場所で長時間過ごす、あるいは、運動不足や規則正しい生活ができていないなどの原因があると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、暑いときに汗がかきにくい状態に。

 うまく汗をかけるようになること、すなわち「汗活」には何が必要か。

「水分をたくさんとること。運動や軽いウォーキング、お風呂もいいですね。ぬるま湯にゆっくり入り、発汗を促すことも大事です」

 夏だからといって毎日シャワーだけで済ませていては、体内にこもった熱を発散できない。39度程度のお風呂に肩までつかったり、長めの半身浴をしたり。汗をかきにくい人や冷え性の人は夏でも入浴剤を使うのがおすすめ。

水分補給は1日8回、渇きを覚える前に

外出先でもできる熱中症対策(写真はイメージです)

 水分補給は一定のタイミングで、と谷口医師。

「薬のように、毎日時間を決めて水分をとるのが一番。1日8回くらいにわけて、コップ1杯程度の水を飲みましょう。そうすれば1日に必要な水分量を摂取できます。じつは日ごろの水分を補給するなら温かいお茶でもいい。飲み物の温度は、体温調節にそこまで影響がありません。ただ熱中症の症状が出ているときは、冷たい飲み物で急速に体を冷やすことが肝心です」

 日中ずっとマスクで過ごしていると、のど渇きにも鈍感になりがちだという。また軽い脱水状態の時にも、のどの渇きを感じない。そのため、のどが渇く前、あるいは暑い場所に行く前・運動前から水分を補給しておくことが大切だ。

 体温調節が難しい高齢者や子どもは「水分補給」と「手のひら冷やし」を意識的に行い、暑い夏を無事に乗り切ろう。

「熱中症予防」ポイント3
(1)暑い時間の行動をさける
(2)水分補給は定期的に
(3)体温の上昇を抑えるために「手のひら冷やし」

「手のひら冷やし」ポイント3
(1)流水で15秒ほど
(2)冷たすぎるのはNG、10~15℃が適温
(3)首も同時に冷やすと効果的

谷口英喜 先生
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長兼栄養部部長。福島県立医科大学医学部卒業。麻酔・集中治療、経口補水療法、熱中症対策などが専門。著者に『経口補水療法ハンドブック 熱中症、脱水症に役立つ 脱水症状を改善する「飲む点滴」の活用法』など。

取材・文/オフィス三銃士