現代のシャンプー&コンディショナーは、ボトルデザインはシンプル系、ツヤや潤いといった機能性、自然環境に配慮した製品が注目されている。
いっぽう'80年代、'90年代は空前の朝シャンブーム。日本石鹸洗剤工業会によると、1989年の「洗髪行動に関する調査」では、若い女性のうち、朝に髪を洗う「朝シャン」をする割合が59%に上り、香りのよいシャンプーが人気を集めた。
「朝シャンブームを受けて、'80年代、'90年代には個性豊かな楽しいシャンプーがあふれていました。パステルカラーにポップな書体、青リンゴやレモンなどフルーツの香り……'80年代に小学校高学年だった私は、思い出すたびキュンキュンします!」と語るのは昭和レトロの世界をイラストとともに発信するトロッコさん。
'80年代、'90年代に発売され、愛用したシャンプーの中には少数ではあるものの今でも販売されている商品もあるが……。
「中身は変わり、ボトルも昭和の面影はなく寂しいです」
と話すトロッコさんに、今も使いたい、懐かしのシャンプーについて聞いてみた。
あのころのシャンプーを振り返る
「1984年にライオンから発売された『フルーツシャワー』は本当にもう一度使いたいです。色鮮やかなシャンプーの中に、いい香りのつぶつぶが入っていて、使い心地も楽しく、小学生だった私も見事に子ども心をつかまれて。髪を洗うだけでは飽き足らず、つぶつぶを湯船に浮かべて入浴剤代わりにも(笑)。ロゴもかわいくすべてが最高!」(トロッコさん、以下同)
『フルーツシャワー』とほぼ同時期に発売された花王『ピュアシャンプー』もカラフルなボトルが鮮烈だった。
「ピンクやパープルなどのボトルで、今までのシャンプーにない色み。当時、松田聖子さんが「ピュアピュアリップ♪」と歌う『Rock'n Rouge』という曲も流行し、当時の女子たちは『ピュア』を目指してこのシャンプーを使ったのではないでしょうか」
CMの印象が鮮烈だったのはユニリーバの『ティモテ』。北欧の自然をバックに、サラサラのブロンドヘアをなびかせる女性のCMが話題に。1975年にスウェーデンで誕生し、日本には1985年に上陸。
「『ティモテ〜ティモテ〜♪』というCMソングを覚えている方も多いのでは」
一般的なヘアケア製品よりやや高めの価格設定だったが、CM効果もあり、人気を集めた。
CMも話題になった個性派シャンプーたち
資生堂『恋コロン、髪にもコロン、ヘアコロンシャンプー』は、当時としては長めの商品名で、目立つ存在だった。
「早見優さんのCMを記憶している人が多いと思いますが、短期間であるものの中森明菜さんバージョンもありましたよね。当時、私は思春期で、もし買ったら父親に“大人ぶっている”と思われそうで恥ずかしいから(笑)、一度も使わず、でもずっと気になっていました」
'80年代前半にはポップな雰囲気のシャンプーが台頭したが、後半になるとおしゃれ感のある製品が目立ってくる。
「キョンキョンこと小泉今日子さんが出ていた資生堂の『スーパーマイルド』のCMを見たときは“シックで素敵なパッケージ!”と感動。当時はファッションもモノトーンや紺ブレ(紺のブレザー)などシックなものが流行していて、時代の気分にマッチ」
資生堂の『マシェリ』は吉川ひなのさんのCMやスリムなボトルを見て「これを使えばおしゃれ女子!」という気持ちで使ったとトロッコさん。
「CMのセリフで“それでも毎日シャンプーしてるんだな”というのがあって。洗いすぎると傷むと思ってシャンプーは数日おきだった人も、毎日するもんなんだ!って思ったのではないでしょうか」
ライオンの『ソフトインワン』は、「ちゃんとリンスしてくれるシャンプー」を略したコピー「ちゃん・リン・シャン」とつぶやく薬師丸ひろ子さんのCMで、忙しいときの朝シャンの味方として人気に。
「テレビ番組で、山田邦子さんがモノマネする『ちゃんりんしゃん』が話題を呼んだことで、さらに大ヒットした記憶も」
リンスインシャンプーといえば、資生堂の『海の恵み・太陽の恵みのリンスで洗うシャンプー』も'90年代女子たちを夢中にさせた商品だ。
「ボトルがブルーの『海の恵み』と、オレンジの『太陽の恵み』のどちらにするか迷いました。リゾートを思わせる香りで洗うのが気持ちよかった」
資生堂の『ティセラ』は、ラップグループEAST END×YURIのYURIさんをはじめとする当時の人気アーティストが続々とCMに登場した。
「細長いボトルにシンプルな書体のロゴと、化粧品のような洗練されたパッケージで、コロンをつけたようないい香り。ジューシー・ジューシー、フローズン・ブルーなど新しい香りが続々と増え、買う楽しみも増しました」
昭和レトロな懐かしシャンプー
'80年代、'90年代のシャンプー人生(?)を謳歌してきたトロッコさんだが、その原体験は『バスボン』だという。
「幼稚園くらいのころに家にありました。ボトルデザインは昭和レトロを絵に描いたようなロゴや、丸っこい形。レモンイエロー、深いクリアグリーンなど独特な色合い。今思い出してもめちゃめちゃかわいい! お中元などでもらう箱詰セットも素敵でした」
シャンプー愛を語り出したらキリがないトロッコさん。彼女が感じる、当時と今とのシャンプーの違いとは?
「CMによる宣伝の量が格段に違います。当時は多くのシャンプーのCMが流されており、それが情報源でした。新発売のものがあれば気になってお店に行ったり、CMの世界観から選ぶ楽しみも」
一方、現在ではCMで宣伝されるシャンプーはごく一部なので、店頭で選びにくいという。また選ぶ基準は、香りや世界観から、翌日パサつかないかなどの機能重視に。
「昔はCMやパッケージの世界観や香りに酔いしれながら、髪と頭皮の洗浄よりも、シャンプーという行為自体を楽しんでいた気がします。また“シャンプーを楽しみたい!”と思わせてくれるような製品に出会いたいですね。科学が進歩した今なら、『フルーツシャワー』のようなエンタメ性に、ヘアケア機能も兼ね備えたスペシャルなシャンプーができるのでは!」
ノスタルジック感やインパクトのある、'80年代、'90年代人気シャンプーの現代版が登場すれば、当時使っていた人はもちろん、昭和レトロを好む若い人の注目も集まりそう。
メーカーさん、ぜひともお願いできないでしょうか!
トロッコさんセレクト! 懐かしシャンプー10選
(1)バスボン 資生堂/1974年
クリームを思わせる豊かな泡立ちで、仕上げは今主流のコンディショナーではなく、リンス
(2)恋コロン、髪にもコロン、ヘアコロンシャンプー 資生堂/1982年
複数の香りがあるシャンプーの先駆け。フローラル、グリーンフローラル、シトラスの3種類
(3)ピュアシャンプー 花王/1983年
さらっとタイプとしっとりタイプ、ミント感覚のフレッシュタイプ。ポップなパッケージと、香りのよさでも人気に
(4)フルーツシャワー ライオン/1984年
香り成分の「フルーつぶ」入り。レモンライム、ラズベリー、グリーンアップルの3種
(5)ティモテ ユニリーバ/1985年
北欧の7種の天然ハーブ配合のシャンプーとして日本上陸。現在は『ティモテ ピュア』として販売
(6)ソフトインワン ライオン/1989年
「忙しいときもちゃんとケアできるリンスインシャンプー」として今もなお30年以上のロングセラー
(7)スーパーマイルド 資生堂/1988年
髪や地肌にマイルドな成分で優しく洗い上げる。リニューアルを繰り返して現在も発売中
(8)ティセラ 資生堂/1995年
ボトルの「107(いいおんな)」「132(ひみつ)」など「香りの開発ナンバー」も注目された
(9)マシェリ 資生堂/1996年
「シャンプーするだけで透明ヘアマニキュア効果」のコンセプトが、染色で傷んだ髪も優しく洗い上げる
(10)海の恵み・太陽の恵みのリンスで洗うシャンプー 資生堂/1996年
『海の恵み』はマリン系、『太陽の恵み』はシトラスの香り。シリーズのボディソープも人気に
取材・文/野中真規子