7月4日、歌舞伎座で『七月大歌舞伎』が開演。第2部の『雪月花三景 仲国』に市川海老蔵と長女の市川ぼたん、長男の堀越勸玄がそろって出演した。
「彼は400年続く歌舞伎界の名門『成田屋』の大名跡を継ぐ立場。今年11月と12月に延期していた、十三代目市川團十郎白猿襲名披露公演を控えて注目が集まっています。七月大歌舞伎は客入りも好調でしたが、同日に『秀山祭九月大歌舞伎』に出演することが発表されました」(スポーツ紙記者)
古典中心の興行で不安な集客
この告知に、歌舞伎評論家の中村達史さんは驚きを隠せない。
「『秀山祭』とは明治から昭和にかけて活躍した、初代・中村吉右衛門の功績を顕彰するため'06年から始まった舞台公演です。この公演で上演されるのは、由緒正しい古典歌舞伎ばかり。最近でも『プペル歌舞伎』や『六本木歌舞伎』といった新作歌舞伎に傾倒し、派手好き・新しもの好きな海老蔵さんとはまさに対極の興行です。海老蔵さんは過去に1度も『秀山祭』に参加していません。これは“今後は古典歌舞伎にも真剣に向き合う”という、彼なりの意思表示とも受けとれます」
海老蔵が出演することは、興行を取り仕切る松竹としてもプラスになる。
「『秀山祭』は正統的な古典が中心となるという性質から、集客には苦労しているように見えます。主宰を務めていた二代目中村吉右衛門さんも昨年に亡くなり、今後の存続が危ぶまれていましたからね。集客力のある海老蔵さんが出演することで、古典歌舞伎でもお客さんを呼べるかもしれません」(中村さん)
前例のなかった舞台観劇サブスク
これまで比較的自由に活動してきた海老蔵からは考えられない動きだが、松竹はこのほかにも目新しい試みを行おうとしている。
「松竹歌舞伎会の会報誌で、今年の9月と10月限定で“定額観劇サービス”を開始したんです。月に2万4000円を払えば歌舞伎座で舞台を見放題というプラン。最近よく耳にする“サブスクリプション”ですね」(梨園関係者)
これまで前例のなかった舞台観劇のサブスク。140年近い歴史を持つ歌舞伎座が先陣を切るのは意外かもしれないが、やむにやまれぬ事情もある。
「近年はライトな歌舞伎ファンも増えてきてはいたのですが、昨今のコロナ禍で高齢の贔屓筋といった客層の足が遠のいてしまいましたからね。このような状況で襲名披露公演を行っても期待しているような収益が見込めない可能性もあります。松竹として、門戸を広げてより多くの人に歌舞伎を観てもらいたいという意図があるのでしょう」(中村さん)
歌舞伎界を盛り上げるため、松竹はさらなるサプライズを画策しているようだ。
「水面下で10月の歌舞伎座にも海老蔵さんに出演してもらおうと交渉しているそうなんです。もし実現したら、襲名披露公演と合わせて計4か月、つまり約120日連続で海老蔵さんは歌舞伎座に出演することになりますね。先代、先々代の團十郎襲名披露公演は3か月連続で話題を集めましたが、それ以上の大型興行になるでしょう」(前出・梨園関係者)
海老蔵といえば、'21年は7月しか歌舞伎座に立たず、周囲からは“歌舞伎座が嫌いなのでは”と噂されたほど。
「本来、歌舞伎の興行は年間を通して松竹が先々までの演目を決めていました。しかしコロナ禍で見通しが立たなくなったため、海老蔵さんは自主公演を優先的に入れてしまっていたんです。結果として最近までほとんど歌舞伎座の舞台に立たなかったんですよ」(同・梨園関係者)
禊のフル稼働が予想されて
そんな中、今年はすでに5月と7月の2回、歌舞伎座の舞台に立っている海老蔵。従来では襲名する役者は披露公演直前の月は休むのが一般的で、舞台以外の仕事も考えると、4か月連続公演はあまりにもハードに思える。
しかし、海老蔵は松竹の意向に従わざるを得ないほどの大きな借りがあるようだ。
「'03年には隠し子が発覚し、'10年にも暴行事件に巻き込まれたりとスキャンダルを連発。今年に入ってからも義姉・國光真耶さんからの告発騒動や女性との多重交際報道など、長らく世間を騒がせ続けてきました。それらのトラブルを“團十郎襲名のため”と、松竹が見放さずにバックアップしてきましたからね。一世一代の襲名披露興行で莫大な収益をあげないと、全てが無駄になってしまいます」(市川家に近しい人)
海老蔵の“フル稼働”計画は、これまでの振る舞いを清算する“禊(みそぎ)”とも言えるのかもしれない。
「まず9月の『秀山祭』に出て古典歌舞伎を行うことで、先輩たちからの信頼を回復。続けて10月の出演交渉を成立させて“海老蔵として最後の舞台”を実現。その勢いのまま襲名披露興行に挑む。これが松竹の思い描く理想のプランなのでしょう」(前出・梨園関係者)
海老蔵の10月の歌舞伎座出演について、松竹に問い合わせると、
「10月の上演演目、出演者については現状未定であり、恐縮ながら現時点ではお答えいたしかねます。何卒ご了承ください」
とのことだった。
毎日、ブログの更新を日課にしている海老蔵。その暇がないほど忙しい日々が始まるかもしれない――。