『ザ・ノンフィクション』で特集されたアツシさん

 7月3日に放送された『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)の「人力車に魅せられて ~夢と涙の浅草物語~」が、ディズニーファンの間で大きな話題を呼んでいる。同番組は、東京・浅草の人力車「東京力車」の俥夫(しゃふ)を目指す研修生たちに密着したドキュメンタリー。特にクローズアップされたのが、最年長である30歳のアツシさんだった。

アツシさんは、研修生の卒業検定に何度も落ちまくっているという“問題児”。指導担当者の俥夫・押木さんいわく、≪昨日言ったことは今日飛んで、新しいことを言ったら違うことが飛んで。ジャンケンポンで『チョキを出してね』と言ったらパー出す≫状態らしく、お客さんを無視して一方的に自分の話をしたり、走行中の後方確認を怠ったり、車体を柱にぶつけりなど、とにかく“全てができていない”研修生という描かれ方をしていたんです。押木さんはじめ、店長や社長までもが、どう指導すべきか頭を悩ませており、彼らがアツシさんを叱責するシーンが、番組中、何度も見られました」(芸能ライター)

ディズニーファンは相当ショック

 アツシさんは12回目の卒業検定で、これまでダメ出しを食らったポイントを全てクリアしたものの、お客さんの希望したツアー時間を大幅にオーバーして不合格に。14回目の卒業検定では、お客さんにコースを案内する地図がビリビリに破れているという有様で、人力車を走らせることさえできなかった。

アツシさんは、何度注意されてもミスを連発してしまう自分のことを≪病気なんですかね≫と話していましたが、押木さんから間髪入れず≪全然病気じゃねぇよ。今約束しろ、『病気なのかな』とか『俺バカなのかな』とか、もう言うな≫と叱られていました。

 彼はもともと歌で生計を立てることを夢見ており、一度はボーカルユニットの一員としてメジャーデビューを果たした人物なのだそう。結局、まったく売れずにグループは解散したといいますが、歌の実力は本物なのでしょう。

 番組内でアツシさんが見せた、誰よりも早く出社して事務所の掃除をする姿や、笑顔を絶やさずハキハキと話す姿を好意的に捉えた視聴者は多かったようで、SNS上では、“俥夫に向いていないだけで、彼の能力を生かせる職業はほかにあるはずだ”といった指摘が多数飛び交いました」(同・前)

 そんな中、一部視聴者の間では、アツシさんの経歴に耳目が集まった。同番組では、ボーカルユニット解散後のアツシさんについて、美声を生かしてテーマパークのパフォーマーに転身し、高収入を得るようになったものの、コロナ禍で職を失ったと、当時の写真付きで紹介されていた。

「具体的なテーマパーク名は明かされなかったものの、パフォーマー時代の写真から、『東京ディズニーランド』内で、『アトモスフィア・エンターテイメント』(小規模のショー)を行っていたアカペラグループ『オーパス・ファイブ』の一員だったことが明らかになりました。当時、“夢の国”でディズニーソングを歌い、ゲストを魅了していた人気パフォーマーが、俥夫の先輩や上司から叱責される姿は、ディズニーファンにとって相当ショックだった様子。SNS上では、

≪これ、オーパスファイブ好きだった人たちが見たら複雑やろなあ……。≫
≪まさかノンフィクションでオーパスファイブのお兄さんに再会するとは…≫
≪もうオーパスファイブ復活して彼に活躍の場を与えてくれええい≫

 といった悲痛な声が散見されました」(エンタメ誌編集者)

ディズニーリゾート内で『オーパス・ファイブ』として活躍していたころのアツシさん(YouTubeより)

垣間見えたディズニーの“闇”

 番組では、ディズニーランドの元パフォーマーとしての“クセ”が抜けきらず、店長からダメ出しされるシーンもあった。

「アツシさんは、店長から卒業検定での失点ポイントを聞いているときも、口角を上げて笑顔を見せ、『ハイ、ハイ、ハイ』といった具合に、ハキハキ返事をしていたんです。店長は、その態度が真剣さに欠けると感じたようで、≪表情をまず気をつけた方がいいですよ≫と注意していたのですが、彼のパフォーマー時代を知るディズニーファンには、とてもつらいシーンだったのではないでしょうか」(同・前)

 一方で、そもそもアツシさんが俥夫を目指さなければいけなかった理由をめぐって、「ディズニーランドの“闇”があぶりだされた」(出版関係者)という指摘もある。

「東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは2020年9月、コロナ禍の影響によるイベント中止で、仕事がなくなったとするダンサーら出演者に対し、販売や案内などへの職種転換、もしくは支援金や給与の一部を支給した上での退職を要請したことが知られています。オーパス・ファイブのアトモスは同10月に休止となっているので、アツシさんはこのタイミングで、退職の道を選んだのかもしれません。

 オリエンタルランドの労働問題に取り組んできた『なのはなユニオン』の鴨桃代委員長は、『機関紙連合通信社』の記事に『(こうした要請は)事実上の一斉解雇提案だ。ろくな説明もせず一方的に選択を迫る乱暴なやり方で、おかしい』という怒りのコメントを寄せていましたが、確かに“夢の国”らしからぬ非情さがある。アツシさんの背後には、こうしたディズニーランドの“闇”が広がっていると言えるのではないでしょうか」(同・前)

 同社の労働問題に関しては、2018年、キャラクターショー出演者の女性から、パワハラと安全配慮義務違反で、330万円の損害賠償を求める裁判を起こされたことも見逃せない。

5人のシンガーがアカペラでディズニーソングを歌う「オーパス・ファイブ」。(ディズニーHPより)

 この女性は、ショー出演中に、ゲストから指を曲げられ負傷。労災申請をしようとしたところ、上司に「そのくらい我慢しなきゃ」「君は心が弱い」と咎められたほか、ほかの仕事仲間から「ババァはいらねーんだよ」と暴言を吐かれたこともあったという。

「今年3月、千葉地裁は、パワハラに関しては認めなかったものの、指の負傷に関しては安全配慮義務違反があったとして、オリエンタルランドに88万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。同社はこれを不服として東京高裁に控訴していますが、世間には、ディズニーランドの労働環境はブラックだと知れ渡りつつある。『ザ・ノンフィクション』でも、その一端が垣間見えてしまった形です」(同・前)

 同番組のラストで、「東京力車」を辞め、次の仕事が見つかるまで、建設現場の仕事でしのごうとしていると伝えられたアツシさん。番組放送後、自身のTwitterでは、古巣となった「東京力車」を≪最高の会社です!≫と紹介したほか、≪自分の使命を果たす為に、ただ前に進みます!≫と決意表明をし、現在活動している音楽ユニットの主催ライブが、9月に控えていることを告知していた。

 なんとも波瀾万丈な人生を歩むアツシさんの今後を、影ながら応援していきたい。