
ロッテの板ガム『クイッククエンチ-Cガム』が、夏秋の期間限定で8月23日から復刻発売される。1978年に登場した同商品はこれまでにも何度か復刻されてきたが、当時のファンのみならず、若い層からも「レトロな感じが逆に新鮮」と人気を集めている。7月15日からは全国のLOFTで『ブルーベリーガム』『梅ガム』とともに先行発売されることも決定した。

お菓子でも「昭和・平成レトロ」ブーム
「昭和のお菓子が今のZ世代の人たちにも愛されるというのは本当にすごいことですよね。味がおいしいのはもちろんですが、パッケージデザインや手に取ったときの感覚など、どこかで懐かしさを感じて惹かれてしまうというのは、『クイッククエンチ-Cガム』だけでなく、いろんな昭和のお菓子にも共通する“懐かしお菓子”の魅力ですね」
そう語るのは、お菓子勉強家の松林千宏さん。そこで今回は、昭和から令和の時代を彩ってきた懐かしのお菓子について振り返ってもらった。
「懐かしお菓子と聞いてまず思い出すのは、森永製菓の『ぬ~ぼ~』ですね。エアインチョコレートという、空気を含んだ軽いチョコレートをモナカで包んだ画期的な商品です。商品名の響きや、ゆるキャラのようなオリジナルキャラクターも相まってやさしいイメージがあり、特別な魅力を覚えましたね」(松林さん、以下同)

子どもたちにとって、チョコレートはいつの時代も人気のお菓子。もうひとつ、松林さんが子ども心をつかまれたチョコは『ハイクラウンチョコレート』だという。
「外国のタバコのような高級感のあるパッケージで、上質な原料を用いて洗練された風味のチョコレート自体も、外見に劣らずハイクラス。
個包装の銀紙から取り出して、パキッと割って食べられる独特の形状も懐かしく、“西洋のお菓子を日本でも”と創業した森永製菓の心意気を感じる傑作だと思います。“はーい、ハイクラウンチョコレート”というテレビCMを覚えている人も多いのでは」

同じく、高級感のあるイメージで世間を驚かせたのがロッテのガム『イブ』。
「黄金に輝くパッケージを開くと、バラとも金木犀ともいえない花の香りがフワッと漂う“香水ガム”です。今では粒状のガムが主流になりつつありますが、当時は板ガムがほとんどで『イブ』ももちろん板状です。ただし、花の香りのなかにミントの清涼感がある味わいはとても個性的。これを持っているとオシャレという感じもありましたね」

どちらを選ぶか、悩んだことも懐かしい
一方、庶民派ガムの代表格といえば、現在も販売されている丸川製菓の『オレンジマーブルガム』だろう。
「私が小さいころは、まん丸の小さなガムが4粒入りで1箱10円と、子どもの味方のような商品でした。現在は当たりつきのお菓子は減りましたが、箱を開けた横のベロ部分に『あたり』の文字があればもう1箱もらえるというのも、ワクワクしましたね。パッケージデザインは現在もほぼ変わらず受け継がれ、最近ではこのデザインのポーチがグッズ化されるなど、変わらぬ人気を誇っています」

チョコ、ガムとともに外せないのがキャンディー。

「アメも種類が多すぎて、それぞれ“推し”があると思いますが、やっぱり語りたいのは『花のくちづけ』。今なお人気の商品ですが、独特のミルクスモモ味はいつ食べてもどこか懐かしいと感じます。
個包装に366日の誕生花の柄と花言葉が添えられているのも、やっぱり懐かしくレトロな印象ですね。名古屋の春日井製菓さんという会社が作っていますが、懐かしお菓子のなかでも特によく浸透しているのはすごいことですよね」
フルーツ果汁が多いキャンディー業界のなか、異彩を放つのが『ライオネスコーヒーキャンディー』の存在。

「こちらもロングセラー商品ですが、コーヒー味のキャンディーというのは斬新な切り口だなと今も思います。リスが登場するテレビCMも印象的でしたね。
赤い“ひねり包装”も発売当時から変わらない特徴ですが、実はこのひねり包装は手が不自由な方も開けやすいという声があり、そういったユニバーサルデザインの観点でも、この先も残り続けてほしいアメのひとつだなと感じます」
一方、キャンディーのキラキラとした形状を武器にしたのが『ジュエルリング』だ。
「指輪型のキャンディーで、大粒の宝石部分がダイヤモンドのようにカットされたアメ玉になっています。見た目もかわいく、指にはめてペロペロとなめられるという、女の子の憧れが詰まった商品。イチゴサイダーとメロンサイダーの2種類があって、ルビーかエメラルドか……と悩んだ記憶があります(笑)」

語り尽くせないお菓子の世界

クッキー&ビスケットもお菓子の大ヒットジャンル。そのなかでも印象深いのが、『きどりっこ』だという。
「動物型の茶色いクッキーの上に、着色したクッキーで耳や鼻、模様などを表現した立体的なクッキーです。
どこか温かみのある造形で、アイシングクッキーとは違って、クッキーを重ねて動物を描くというところにブルボンの技術力の高さを感じます。
昔は立方体の箱のパッケージに入っていて、上部にある取っ手を自分で組み立てて持ち運びするのも楽しかったです」

最後は定番のスナック菓子。1979年の発売当時、ポテチ業界に新風を吹き込んだのが『5/8チップ』だ。
「商品名の5/8には諸説あって、より食べやすい工夫としてアメリカの成型ポテトチップスのサイズを5/8にしたからという由来や、発売元のエスビー食品の文字『S/B』と『5/8』が似ているからという話まで、いろいろと臆測が飛び、盛り上がりました。調味料などで有名なエスビー食品さんがお菓子を出していたことも、今の人には新鮮に映りますよね」
お米を使った『コメッコ』も、スナック菓子を語るうえでは外せないという。
「ホタテとしょうゆの風味というのが新鮮で、日本人が大好きな味わい。小さなおにぎり形のスナックで、食べやすいというのも人気の秘訣だったように思います。古くからあるおせんべいやあられ、おかきとも違う、ライススナックという新しい地平を切り開いたグリコの研鑽の賜物のような商品ですね」

まだまだ語り尽くせぬ、懐かしお菓子の世界。小さな手に小銭を握りしめ、「どれにしようかな」と棚に並ぶ商品を眺めた記憶は、きっとどの世代にも普遍的にあるだろう。
「実際に食べて楽しむだけでなく、いろんな思い出を語り合うことで“お菓子は楽しい”ということが改めて広がっていくとうれしいですね」
松林さんセレクト!懐かしお菓子10選
『ぬ~ぼ~』森永製菓/1988年
『スプーナ』で開発されたエアインチョコ技術を使用した商品。現在は販売終了。
『5/8チップ』エスビー食品/1979年
社員の「ひと口で食べられるチップスが欲しい」という声をきっかけに誕生。2003年終売。
『イブ』ロッテ/1972年
花の香りが魅力の香水ガム。バラの香りの『ロブ』や、森の香りの『ドナ』も。現在は終売。
『オレンジマーブルガム』丸川製菓/1959年
ソフトな噛み心地の糖衣がけの玉ガムで、いちご味やグレープ味なども。現在も販売中。
『きどりっこ』ブルボン/1984年
立体の動物型クッキー。パッケージなどのリニューアルを行うも、現在は販売を終了。
『ハイクラウンチョコレート』森永製菓/1964年
『ミルクチョコ』『カシューナッツ』『クランチ』の3種類で展開していた。現在は販売終了。
『花のくちづけ』春日井製菓/1984年
ミルクスモモ味のキャンディー。各包装に366日の誕生花と花言葉入り。現在も販売中。
『ライオネスコーヒーキャンディー』ライオン菓子/1964年
余分な甘さや苦みをなくし、スッキリと楽しめる、香り高いコーヒー味。現在も販売中。
『コメッコ』江崎グリコ/1973年
お米の生地を薄くのばして焼き上げたライススナック。現在は小袋タイプのみ販売中。
『ジュエルリング』ロッテ/1979年
アメを宝石に見立てて指輪型に。イチゴサイダーとメロンサイダーの2種類で、既に終売。
お話を聞いたのは……
●過去に3度のテレビチャンピオン優勝歴を持つ、自称日本一のお菓子好き。株式会社ローソンの社員でもある。

取材・文/吉信 武