小泉今日子

 選挙と芸能は似ている。どちらも人気がモノをいう世界だ。そのあたりをエンタメにして成功したのがAKB48の選抜総選挙。身銭を切っても投票したいというファンがいっぱいいて、盛り上がった。

「自分なりの生き方をしたいなって」

 一方、国政選挙は無料だ。そのわりに盛り上がっていないと考える人たちもいて、動画で投票を呼びかけたりしている。小泉今日子(56)もそのひとりだ。

「70%、80%ぐらいまで投票率が上がった時に、どんな結果が出るのかをすごく見たいんです」

 として、その理由をこう語った。

「みんなが選んだ社会の中で、その役に立つ自分なりの仕事をしたいし、自分なりの生き方をしたいなって思うんですけど、今のままでは何かそこに自信が持てなかったりする」

 この発言、ちゃんと読み解くには、ここ数年の彼女について把握する必要があるだろう。2年前、ツイッターで政権を批判。

《こんなにたくさんの嘘をついたら、本人の精神だって辛いはずだ。政治家だって人間だもの》

 そこに《さよなら安倍総理》というハッシュタグを付け加えたりもした。また、共産党の機関紙に登場して、出馬説も報じられることに。

 いわば、反政権側というポジションにいるわけだが、こういう人たちは政治家も含め、ある幻想を持っている。世の中には政権に不満を持っている人がいっぱいいて、みんなが投票に行きさえすれば、政権がひっくり返るはず、というものだ。

 実際には、政権に満足していて、投票に行かない人もかなりいるので、話は簡単ではないだろう。ただ、彼女がそう思うのは、わからないでもない。かつては世のトレンドを動かしていた(?)実績もあるからだ。

結婚時の衣装も話題になった小泉今日子と永瀬正敏

 1980年代後半から'90年代にかけ、CM女王と呼ばれ、紹介した本が売れたりもした。

一世を風靡した元アイドルの人生は安泰

 '97年には、当時の夫だった永瀬正敏と「大人の部活動」というアート展を開催。漫画家のカトリーヌあやこから「8月31日にあせって作った夏休みの宿題かいッ?」などとちゃかされもしたが、そんなイベントが成立するほど、一定数の人たちからセンスを支持されてもいたのだ。

 そんな自分が今の世の中を不満に思うのだから、そういう人はほかにもいるはず、それを確かめたい、という感覚なのではないか。自分と似た「みんな」が投票に行き、実現された社会でならもっと「役に立つ仕事」や「自分なりの生き方」ができると期待してもいるのだろう。

 しかし、彼女は4年前、デビュー以来所属していた業界最強クラスの芸能事務所から独立。その際のコメントでは「ご家庭」のある豊原功補との「恋愛関係」も公表した。

 つまり、権力側から降り、私生活でも逆風を浴びがちな生き方を選択したのである。それはどこか、一時は与党だった旧・民主党系政治家の苦闘にも重なるものだ。

 とはいえ、そこには一種の気楽さもある。日本がよほどの非常時にならない限り、投票率が爆上がりすることはなく、おかげで、みんなが投票に行きさえすれば、自分が満足できる社会が実現するのに、という幻想をずっと抱き続けることができるからだ。

 また、彼女には昔を懐かしんでくれる同世代のファンもいる。最近、同期でもある中森明菜との思い出話をラジオで語り、話題になったが、そういうものにも需要はあるだろう。

 幻想にすがるもよし、思い出に浸るもよし。一世を風靡した元アイドルの人生は、世の中が変わらなくてもわりと安泰なのだ。

PROFILE●宝泉薫(ほうせん・かおる) アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)