「愛犬にも私にも院長先生はやさしく、診察代もお薬代もほかより安いので通っていましたが、症状が改善せず。セカンドオピニオンで訪れた動物病院で、それまでの投薬量が全然足りないと言われてびっくりしました」
そう話すのは、僧帽弁閉鎖不全症を患うシニア犬と暮らす東京都の武田緑さん(仮名・40代)。通っていた動物病院は待合室も混雑していて、不安要素はなかったという。
動物病院のセカンドオピニオン
セカンドオピニオンを求めた2軒目の動物病院のX獣医師は、次のように語る。
「それまで通われていた病院は、患者さんが継続治療を受けやすいように良心的な料金設定にしたのかもしれません。ですが、薬が効かない治療は無意味で、結局お金もムダになるので“いい動物病院”とはいえませんね。
その院長が、投薬量に関して勉強不足で知識がなかったのか、適量を知りつつ低用量で処方したのかはわかりませんが……」
かつては動物病院を開業すれば確実に利益を上げることができるといわれていた。今も動物病院の数は、右肩上がりで増え続けており、農林水産省の統計によると、小動物を扱う動物診療施設数は全国で約1万2000軒に(2021年)。
しかし、飼われている犬の数は減り、猫の数はほぼ横ばいだ。これは少子化と高齢化で日本の人口が減り、それに比例しているためと考えられる。その結果、動物病院の間で患者(患畜)の取り合いが起きており、繁盛している病院と閑散とした病院の格差も広がっている。
また、家庭内でのペットの立ち位置も時代とともに変化し、「家族の一員」と考えられるようになった。飼い主のニーズもあって、動物医療はひと昔前に比べ各段に進歩している。その反面、新しい薬や治療法に関する情報収集をせず、時代遅れの治療をし続ける獣医師も珍しくない。
「獣医師会に所属していると国や自治体から最新の情報が届きます。また、獣医師向けの学会も多数あり、そういったところに所属していれば、勉強熱心で情報源を多く持った獣医師だと考えられます」
そう話すのは、東京都で動物病院を経営するY獣医師。
大学の獣医学部で学ぶのは、基礎的なことにとどまる。国家資格である獣医師免許を取得してから、いかに知識と経験と人脈を深めているかが、獣医師の良しあしを決める一要素といえそうだ。
飼い主が見極める動物病院のポイント
初めての動物病院に行く前にはまず、ホームぺージをしっかりとチェックしたい。
「よい動物病院は、獣医師や動物看護師などスタッフの顔写真とプロフィールをホームページに掲載していることが多いです。獣医師会や学会などの所属をはじめ、認定医資格の有無などを確認してください」(Y獣医師)
定期的に見ていると、スタッフの入れ替わりが激しい動物病院もあるはず。
「こうした病院は院長のパワハラがあったり、労働条件が過酷すぎたりと、ブラックな職場でスタッフのモチベーションが低い可能性が高いでしょう」(X獣医師)
院長が身近なスタッフを大切にできず、スタッフが疲弊している動物病院は、患者への対応にも不信感を抱かずにはいられない。
また、飼い主の利便性まできちんと考えている動物病院であれば、ホームページがスマホ対応にもなっていると、Y獣医師は述べる。
飼い主はホームページから複数の情報を読み取ることで、悪い動物病院にかかる確率を下げることができる。
「できれば飼う前から動物病院に足を運んでほしいです。自分のライフスタイルや性格に向いた犬種、保護猫や保護犬を迎える際の注意点、ワクチンの種類や進め方についてなど、何でも気軽に質問できる獣医師やスタッフがいるこのが“いい動物病院”です」
このように語るY獣医師は、動物病院を訪れた際に、飼い主の目などで判断できるポイントも教えてくれた。
まず、軒先や院内の植物の手入れがされているか。生き物の健康管理を行う場所なのに植物を枯らしているようでは、犬や猫に向かう意識に対する信頼度も低くなる。
「造花を受付に置いているところもおすすめしません。空気清浄効果のあるフェイクグリーンもありますが、手入れをしないとホコリがたまって不衛生。飾りたいなら本来は生花のほうがいいですよ」
待合室を含め院内が清潔かどうかも、重要なチェックポイントのひとつ。
「ホコリがあったり、臭かったり、整理整頓されていない場合は要注意。飼い主さんが見ることの少ない手術室や入院室なども不衛生で、動物たちにきちんとした対応ができていないおそれがあります」
両獣医師が口をそろえて重視したいと述べたのは、医療機器の新しさだ。
「超音波(エコー)検査機器は特に、昔のものと比べると性能が向上しており、悪性腫瘍(がん)や心臓病などの早期発見に役立っています。健康診断でも活用できる超音波機器は“いい動物病院”ならば新しいものを導入しているでしょう」(Y獣医師)
「当院では最新式の麻酔モニター、電気メス、人工呼吸器を導入したことで、より安全に手術を行えるようになりました」(X獣医師)
医療設備に関してはホームページに掲載している動物病院も多く、事前に確認したい。
獣医師からの意見
ちなみにX獣医師は、医療機器事情が原因の誤診を知り、憤った経験を持つ。
「セカンドオピニオンで来院したある猫ちゃんは、不要な心臓病薬などを毎日飲んでいました。どこも悪くないのに、心電図の結果だけで心臓病と診断されたとか。
犬や猫はじっとしているのが苦手なので心電図の数値がブレやすく、一般的には超音波検査までいって心臓病の確定診断をします。誤診をした動物病院には、超音波検査機器がなかったのかもしれません。
でも、診断が難しい症例の場合、検査可能な病院を患者さんに紹介すべきです」
近年、動物医療においても2次診療施設が増加傾向だ。これまでは専門的な治療といえば大学病院が主であったが、現在は民間の高度医療施設のほかに、学会ごとの認定医資格を取得し、呼吸器や目や皮膚など1つの科目を専門で治療する小規模な動物病院も目立つようになった。
「全科において2次診療施設と連携している動物病院は、間違いなく“いい動物病院”。かかりつけ医の業界内でのネットワークの広さと深さも、重視したいポイントです」とY獣医師は言うが、その点に関しては飼い主が獣医師に直接尋ねる必要もあるだろう。
「もし飼い主さんが納得のいく答えが得られない、2次診療施設への転院も含めて治療方針に対する選択肢がなく、治療や薬に関して獣医師からの説明も不足しているといった不安要素があれば、セカンドオピニオンを求めてください」(X獣医師)
獣医師もひとりの人間なので、飼い主との相性がある。また、詳細に検査をして確定診断を下す方針の動物病院もあれば、飼い主の金銭的な負担などを考慮し、必要最低限の検査しか行わない方針の動物病院もある。インターネット上の悪い口コミ評価は、鵜呑みにせず、あくまでも個々の飼い主と獣医師との相性や診療方針が合わなかった可能性があると認識しておこう。
「飼い主自身が、どのようなタイプの動物病院を求めているかを明確にしておくことが大切です」(Y獣医師)
そのうえで、ワクチン接種や寄生虫予防薬の処方を受けるのがメインのかかりつけ医、持病の治療がメインの医療設備の整った動物病院、必要であれば2次診療施設と、複数の動物病院を使い分けるのもおすすめ。都心部では往診を行う動物病院も増えているので、ペットの性格や飼い主のライフスタイルに合わせて選ぶのも手だ。
愛するペットの心身の健康を守るために、飼い主の“見極める力”も問われている。
【動物病院のココをチェック!】
いい動物病院を探しているなら、かかる前に以下の8点を確認しておこう。愛犬や愛猫が元気なうちにベストな病院を見つけておくと安心だ。
□ホームページに獣医師やスタッフの顔写真の掲載がある
□獣医師が学会などに所属している
□頻繁なスタッフの入れ替わりがない
□ホームページがスマホ対応である
□病院内や外の植物の手入れがされている
□院内が清潔で臭わなず、整理整頓されている
□医療機器が古くない
□獣医師が質問に対して詳しい。説明をしてくれる
(取材・文/臼井京音)