「レディコミの女王」として名を馳せ、74歳の今も第一線で活躍する漫画家の井出智香恵さん。最近では国際ロマンス詐欺の被害に遭ったことを自ら告白し、雑誌やテレビでも話題となった。
そんな井出さんが今年『週刊女性』誌上にて発表した作品『愛と背徳のヴァルール』が、今大いに注目されている。コロナ禍での主婦売春をリアルに描き、大変スキャンダラスな内容となっているのだ。
コロナ禍での“主婦売春”を描く
物語の舞台は、東京の閑静な住宅街。比奈川美月(36)は専業主婦として、サラリーマンの夫・信夫(40)と大きな一軒家で暮らしている。一見恵まれた生活のように見えるが、実は美月はモラハラな信夫に行動を制限され、自由になる金銭はまったくなく、セックスレスで、姑の過干渉にもずっと苦しめられていた。
そんな美月に、ある日突然、謎の人物から1通のメールが届く。その人物は美月が高校のころ、その美貌から「アルテミス」と呼ばれていたことを知っており、一方的に待ち合わせ場所と日時を指定。当日、美月が興味本位で待ち合わせ場所に向かったところ、待っていたのは高校時代の同級生・田村始の姿であった。
美月が困窮していることを調べ上げていた始は、美月に5万円と引き換えに肉体関係を提案。美月はとまどうが、それを受け入れ、始との熱いひとときを過ごす。
自分の身体がおカネになることに目覚めた美月は、始に売春組織を紹介され、客を取ることを決意。しかも近所の3人の主婦もコロナ禍での生活苦を理由に「一緒に売春がしたい」と言い出し、4人は組織的に売春を開始。しかし、女たちを待っていたものはーー。
現実世界でも、長引くコロナ禍や物価の高騰といった困難に見舞われる中、物語の主婦たちの苦境は決して他人事とは思えないものだ。
井出さんは読み手のそういった気持ちをピタリととらえ、かつそのような状況でも自ら立ち上がり、快楽も生活の安定も手に入れようとする女たちのたくましさを痛快に描いてみせる。
それゆえ、読み進むうちに読み手は美月たちの行動が背徳的であることなど忘れ、ヴァルール(フランス語で「価値」)のある女の戦いとして応援したくなってしまうのだ。
『愛と背徳のヴァルール』は、現在電子書籍にて全話配信中。井出さんが描く女たちの体当たりの戦いに、ぜひドキドキハラハラしてほしい。