7月期の連続ドラマが続々とスタートした。
キラリと光る粒ぞろいの'22年夏ドラマ
主なドラマの初回視聴率は、
『競争の番人』(杏、坂口健太郎/フジテレビ系)11.8%
日曜劇場『オールドルーキー』(綾野剛主演/TBS系)11.2%
『六本木クラス』(竹内涼真主演/テレビ朝日系)9.6%
『ユニコーンに乗って』(永野芽郁、西島秀俊/TBS系)8.7%
『テッパチ!』(町田啓太主演/フジテレビ系)7.6%
『魔法のリノベ』(波瑠主演/フジテレビ系)7.4%
『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』(有村架純、中村倫也/TBS系)6.9%
『初恋の悪魔』(林遣都、仲野太賀/日本テレビ系)6.6%
『純愛ディソナンス』(中島裕翔主演/フジテレビ系)4.8%
――視聴率でスタートダッシュする作品は見当たらないが、「意外と面白いドラマが多いです」とドラマに詳しいライターの成田全さん。
夏ドラマが始まったばかりだが、早々と10月の新ドラマが発表されているのも気になるところ。
寺脇康文が14年ぶりに復帰する『相棒』(水曜夜9時)、岡田将生、中井貴一の『ザ・トラベルナース』(木曜夜9時)、水曜夜8時枠終了後に新設される火曜夜9時枠第1弾『科捜研の女2022』とテレビ朝日系が主要3本を早々に告知。
TBS系では本田翼主演『君の花になる』(火曜夜10時)、フジテレビ系は山田涼介主演の『親愛なる僕へ殺意をこめて』(水曜夜10時)が告知されている。
ドラマ告知のタイミングが早いワケ
「これまでもキャストのスケジュールの都合などで告知が早くなるケースはありました。今年1月に放送された人気ドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)は、昨年6月に発表しています。
主演の菅田将暉が大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に義経役で出演するため撮影が重ならないように前倒しで行われた『ミステリ――』の撮影が終了したタイミングでした」(テレビ誌記者)
出演者のスケジュール以外で早めに告知をする狙いとは?
「視聴者が偶然ロケ現場を撮影して、スマホで撮影してSNSにアップされることで不用意に情報が洩れることを避けるために先手を打っているのではないでしょうか。コロナで撮影期間が前倒しになるなど、ドラマの放送開始までタイムラグがあることも多くなりましたしね。
また7月期ドラマ終了直前で宣伝活動を始めるより、PRや周知期間が長くなることでSNSなどを通して視聴者に期待を抱かせるという考えもあるのではと思います」(成田さん、以下同)
ドラマの公式ツイッターやインスタグラムで情報発信が当たり前になり、SNS対策は必須なのかもしれない。
7月期の連ドラは“夏枯れ”といわれることも。
「4月と10月の改編期の狭間でコンテンツとして弱い印象や、レジャーに出かける人が多くなることで視聴率が下がることなどが理由のひとつだと思います。でも今は見逃し配信があるので、必ずしも当てはまらなくなっています」
ここ2年の7月期を振り返ってみると、2020年7月期には7年ぶりの続編『半沢直樹』(堺雅人主演/TBS系)を筆頭に、13年ぶりに復活した『ハケンの品格』(篠原涼子主演/日本テレビ系)、『MIU404』(綾野剛、星野源/TBS系)、『私の家政夫ナギサさん』(多部未華子、大森南朋/同)、『BG~身辺警護人2020』(木村拓哉主演/テレビ朝日系)、『SUITS2』(織田裕二主演/フジテレビ系4月から半年放送)と話題を集めたドラマが並ぶ。
昨年7月期の連ドラは、『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(戸田恵梨香、永野芽郁/日本テレビ系)、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(鈴木亮平主演/TBS系)、『緊急取調室4』(天海祐希主演/テレビ朝日系)、『ナイト・ドクター』(波瑠主演/フジテレビ系)などが放送され、いずれも平均視聴率11%を超える作品だった。
ドラマ離れを防ぐテレビ局の戦略は“アメリカ方式”?
成田さんが今期注目したのは『競争の番人』『オールドルーキー』『ユニコーンに乗って』『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』『初恋の悪魔』の5作品。
「『競争の番人』は公正取引委員会を舞台にしていて、設定が新鮮で面白い。ただ初回90分スペシャルで問題が解決せず、次回へ続くだったので、ガッカリした方も多かったのでは?初回の放送時間をストレッチするのであれば、ひとつ問題を解決したうえで次回に引きがある展開にしてほしかった。
『オールドルーキー』は元プロサッカー選手の主人公が、途中ピンチから最後は盛り返して気持ちよく終わるという日曜劇場の王道な作り。元サッカー選手の大久保嘉人が監修し、松木安太郎が解説のアテレコをするなどサッカーのシーンがきちんと作られていて違和感がなかった。不安要素があるとすればスポーツ選手のセカンドキャリアの話なので、『半沢直樹』のようなサラリーマンの話と比べ視聴者にわかりづらい点ですかね。
『ユニコーンに乗って』は、女性CEOや若い人たちのIT企業におじさんひとりという設定は、アン・ハサウェイとロバート・デ・ニーロの米映画『マイ・インターン』のような設定ですが、安定感のある西島の演技で安心して見ていられる。エンジニア役で自由なキャラを演じる青山テルマもいい!
東大卒のパラリーガルと高卒の弁護士が市井のトラブルを解決する『石子と羽男――』は、問題が次々と展開して視聴者を翻弄、最後に初回の依頼人役だった赤楚衛二が会社を辞めて弁護士事務所にアルバイトで入ってどうなるのかという今後が楽しみ作りでした。
『初恋の悪魔』は、坂元裕二脚本らしい畳みかけるセリフ劇。捜査権のない林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑という男女4人による“小洒落てこじれたミステリアスコメディー”で、出てくるキャラが全員変な人で面白い(笑)。
またタイトルの意味が初回では全くわからずで、どう物語が転がっていくのか楽しみ。同時に仲野の兄(毎熊克哉)が殉職なのか、事故死なのか、殺人なのか……というドラマを貫く謎解きの縦筋がある構成にも期待大です。
そしてなぜか柄本と『ユニコーン――』の西島の役名の名字が、偶然にも同じ“小鳥”でカブっているんですよ。対照的なおじさんキャラの“小鳥”さんから目が離せません(笑)」
韓国の大ヒットドラマ『梨泰院クラス』をリメイクした『六本木クラス』は二桁視聴率に届かなかった。
「韓国版オリジナルと比較するとリメイク版も同じような設定・ロケーションなんですが、音楽の使い方やカメラの切り替えしが多く落ち着かない印象です。脚本も演技もちゃんとしていてオリジナルへのリスペクトも感じるし、六本木での大々的なロケを試みるなどしていますが、全体的にチープさが否めない。
コピーするなら完璧にしないとクオリティーを下げるだけだし、なぜわざわざリメイクするのかをしっかり考えないと、テレビの配信やスマホでオリジナルをチェックできる時代では、話題性だけではすぐに視聴者に飽きられてしまいます」
『テッパチ!』『純愛ディソナンス』はともに2部構成。『競争の番人』を含めて今期のフジテレビのドラマは3人から4人という複数での脚本を担当することについて指摘も。
「アメリカでは映画やドラマの脚本をチームで共同執筆しています。日本ではアニメやシリーズ作品は複数で手掛けていますが、連ドラでは人気脚本家ひとりで書くケースが多い。
ですが人気脚本家は各局で争奪戦ですし、書ける作品の数にも限度があると思います。チーム制は働き方改革というよりも内容の充実や面白いドラマを作るための取り組みではないでしょうか。
NHKは先日、脚本開発チーム“WDR(Writers' Development Room)”プロジェクトを立ち上げました。“世界を席巻するシリーズドラマを作る。”と銘打ち、ドラマの根幹である企画と脚本に特化した人材を募集しています。こうした動きもあるので、今後はチーム制や共同執筆が主流になっていくかもしれません」
ドラマ離れ、視聴率不振の起爆剤になれるか。